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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二つの高み

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「なんとも、イイ闘いだったな」

「そうじゃのぅ。儂も年甲斐もなく、篤く滾らせてしまったわい」

「凄かったです!」
「すごかったわ!」


 さすがに獣聖剣を使うことはなかったみたいだが、獣聖剣の光を纏わせた妖刀を振るうとは思ってもいなかった。

 あの妖刀も妖刀で、聖剣に劣らない性能を誇る業物だ。
 ティルの剣技であれば、どれだけ古びた一品であろうと名剣と化す。

 名人が名品を使えば、ただの素人がそれ以上の大業物を振るうよりも力を発揮する。
 次元を裂くことはないだろうが……うん、だいぶ斬ってたよな。


「アーチさんがいくつかの精霊と契約を交わしていたのは知っていたけど、かなり追いつめてたな。ティルは眷属の中でも一、二を争うぐらいに剣技が優れてるんだが……肉体の能力値自体はそこまでないんだよ」

「なるほどのぅ、それであの暴風か」

「斬れなきゃ負けてたと思うぞ。いくらか強化はしたんだが、それでも肉体自体に限界があった。彼女自身がまだ求めるナニカがあるみたいだから、特に限界突破はしてない。だからそこを狙えば──勝てる」


 能力値の限界を突破する方法は、眷属やそれ以外の守るモノのために調べ尽くした。
 安全な方法も見つけ、人体実験も済ませてあるのだがティルはそれを了承しなかった。

 ──人として、人の限界を目指す。

 眷属の中では割とこの考えが多い。
 もともと強すぎたため、眷属には限界を知りたいというものが大多数なのだ。

 俺が収集したさまざまな限界突破系スキルだが、そのすべてを共有しようとする眷属は一人もいない。
 自分が元から習得していたものは別だが、重ねて限界突破しようとは思わないようだ。


「……まあ、装備限界はしてもいいと思うんだが、あれはプレイヤーだけの問題だしな」


 自由民たちに装備の限界はない。
 ある意味、異常な成長を遂げるプレイヤーたちへの対策の一つだろうか。

 リミットがかかってない彼らと戦う術は、どれだけあっても足りない。
 能力値を比べても、同じレベルであれば絶対に敵わない。

 ならばどうするか……眷属たちは、与えられた権限を放棄して別の道を選んだ。
 あえて厳しい茨の道を──果てがあるかも分からぬ道を選択した。


「ま、それはいっか。それよりジークさん、どう思う?」

「うむ。やはり面白いのぅ」

「そりゃあ何より、さっきも言ったけど開いた甲斐があるってもんだ。ゲストがいつ出るか分からないけど、眷属同士で戦い続けるよりもサプライズ感があって楽しいよ」


 アーチさんの奮闘ぶりには、きっと奥さんも娘であるリルちゃんも感動しただろう。

 上級精霊を顕現させた状態で、風属性の魔法の中でもかなり高位のものを使っていた。
 制御能力は足りずに精霊の力を借りていたものの、それ以外は完璧にできていた。

 ……関係ないが、俺は一人でできるぞ。


「のぅ、メルス」

「なんですか、ジークさん?」

「実際のところ、お主の眷属に力に序列をつけるなら……どう考える?」

「さぁな、俺も知らないし相性もあるからわからない。それを知るのもこの企画だろ」


 分かりやすい例えを挙げよう。

 身体能力は劣るが、次元すら斬り裂く斬撃が放てるティル。
 圧倒的な能力値を秘めた、最強のドラゴンであるソウ。

 どちらの強いことに変わりはないが、その強さの方向性が異なる。
 だから調べることができずにいたが、今回の企画ではっきりするだろう。


「ジークさんはさ、天性の才能を持っても努力を続けた奴と、力に驕っていたけど負けてから技術を学び始めた奴……どっちが強いと思う?」

「なんじゃ、その質問は」

「実体験」


 ちなみに、俺の特に頭を使わない思考においてその問いに対する答えは──俺が勝つから関係ない、である。

 片方に負ける、などという結果は作らないほうがいい。
 どちらにも勝てば、どちらもより強くなろうと努力を重ねるのだから。


「そうじゃのぅ……うむ、分からん。ただ、才能を持つ者たちが高みを争うよりは、凡人がそうした者たちを倒す方が劇場受けがしそうじゃな」

「いや、そうなんだけどさ……。じゃあ、二人はどう思うか?」


 割と回答が俺よりだった。
 なら、王子様と王女様はどうだろう。


「……天性の才能を持つ方かたと」
「……驕ってた人」

『っ……!?』


 意見が異なる二人。
 二人共、それが予想外だったのか互いに自分の意見をぶつけ合う。


「リント、ちゃんと考えてみてよ。天性の才能は後天的に得ることはできないんだよ。その持ち主が努力を重ねたら……強いよ!」
「ムント、驕ってたってことは強かった。つまり、それが直ればなおのこと強い」


 ……うん、子供らしい意見でした。
 どちらも確証が無い考えではあるが、ある意味真理だな。


 実際ティルは“斬々舞”を自己流にアレンジして習得したし、ソウは俺への道を阻む眷属たちを日々躱し続けている。
 ……後者はどうかと思うが、たしかに成長しているんだ。


≪──第三回戦が始まりますよ! 皆様、席にお戻りください!≫


 ……さて、次の闘いは何を魅せてくれるんだろうか。
 わくわくしながら、俺たちはどっしりと席に着くのだった。


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