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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦第二試合 前篇

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≪ティル選手はメルス様の眷属の一人、獣聖剣と呼ばれる聖剣に選ばれた剣聖様です!≫


 舞台上に見えるティルは、アナウンスなど気にせず対戦相手を見ている……ように思えたのだが。
 獣人の特徴でもある頭部の耳と尻尾がピクピクと反応しているため、割と耳を澄ませていたのだろう。


「ムント、リント。あのお姉さんはな、人の心が読めるんだぞ」

「ほっ、本当?」
「思ってること、分かっちゃうの?」

「だからな、疲れていたんだよ。みんなお姉さんの力が怖くて、全然友達ができなかったらしい。……二人は、友達になれるよな?」

「うん!」
「読まれても、困ることはないもの」


 子供は純粋で良い。
 無垢な魂は外部の淀みに穢されておらず、己の想いを真摯にぶつけることができる。

 それに、サウンド家は代々の育て方が宜しいのか、地球のお偉い方と比べてもとても好い人たちだ。
 だからこそ、俺も押し潰されることなく問題を解決まで乗り切れた。

 そんなサウンド家のご子息とご子女は、即決でティルと仲良くなってくれることを約束してくれた。
 ティルがここにいれば、余計なお世話とでも言うんだろうな──尻尾を振りながら。


≪対するアーチ選手! ルーン国のギルドの長をしています! 森人の知恵と、ラントスで積んだ経験を……今ぶつけます!≫


 アーチさんも、ただギルド長として書類にサインしていたわけじゃない。
 難易度が高いダンジョンに行っては、日々修練を重ねていたという(娘談)。

 休日は家族との時間を大切にして、あまり探索をしていなかったようだが……平日の暇な時間は強くなろうと頑張っていたらしい。


「メルス、お主はどちらが──」

「そういうのは野暮だろ。ただ、剣だけで挑むなら確実にティルが勝つ。それだけは断言しても良い」

「……剣聖か」


 ジークさんの質問に、俺はそう答える。
 剣を愛し、剣に愛されたティルが剣だけの勝負に負けることはほぼ無い。
 俺のように嵌め技を使うことで、どうにか可能性を生みだせるようなチートキャラだ。


「だがまあ、アーチさんは魔法も使える魔法剣士だ。ティルはまだ属性魔法は覚えていないし、可能性はまだある」


 スキルとしてモノにしたのは──もともと使えた生活魔法と禁忌魔法、そして俺との修業で得た回復魔法だ。
 それ以外は習得しておらず、剣の修業の合間に努力している。


「お主……肩入れが過ぎないか?」

「さぁな、ただ記憶に残ってるのがティルの姿ばっかりだからさ。……剣術の先生として二人の指導役をさせたいなら頼んどくけど、結果以外は保証しないからな」

「……アーチに頼んでおこうかのぅ」

「結果次第じゃ拒否されるぞ。はてさて、二人は地獄のスパルタコースになるのか、それとも厳しいマイルドコースになるのか……楽しみだな」


 厳しくともマイルド、先に挙げた方を受けてしまえばそれでも納得できるさ。
 ……やべっ、思いだしたら鳥肌が。


「だが、どちらにせよ……イイ闘いが見れると思うぞ」

「うむ。それはここに来る前から確信していたことじゃ」


 やれやれ、本当に恐ろすばらしい人だよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


≪──それでは第二試合、開始です!≫

 先ほどの試合とは異なり、始まりはとても静かなものであった。
 ティルエが思考を読めることは彼女本人の了承の元、予め説明がされている。

 それでも、アーチは短期決戦を望まずゆっくりとした始まりを望んだ。

「昔は勝手に発動したけど、今じゃちゃんと制御できるわ。そんなに気を張らなくても大丈夫よ」

「いや、すまない。職業柄、ならず者共の意図を汲み取らなければならないことが多くてね。少し思案が深くなってしまう」

「私がならず者、そう言っているようにも聞こえるわよ」

「そういうことではないよ。ただ、君のような子も珍しいと思ってね」

 ティルエは他者の心を読めるため、精神の成熟を早くせざるを得なかった。
 達観し、悪意への対処を学んだ彼女はより孤独となってしまう。

 家族の愛が無機質になることを食い止めたが、それでも成長した精神は決して元には戻らない。
 ……今のティルエは、初々しい想いを謳歌しているわけだが。





「それじゃあ、始めようか。……もう、準備はできたからね!」

 言葉と共に、会場に風が吹き荒れる。
 ティルエは剣を一振りし、その剣圧で自身の元へ届く風の流れを正確に斬り裂く。

「……さすが剣聖、少しは対処に力を使ってほしかったんだけどね」

「心を読むだけじゃないのよ」

 地球において『ボイオティアの大山猫リンクス』の瞳には、あらゆるものを見通す力があるとされる。
 リンクスの獣人である彼女は、その能力を用いて気流を読み切ったのだ。

「なるほど、なんでも見通すのかい」

「さぁ、どうでしょうね」

 アーチは警戒の色を強め、刺突剣エストックを構えながら詠唱を始める。
 すぐに封殺しようとしたティルエだが、先ほど以上に風の流れが急激に変化したことを見抜き、すぐに後方へ下がる。

「……■■──“竜巻サイクロン”」

「“斬爪ザンソウ”!」

 アーチを中心に生みだされた巨大な竜巻。
 目となる場所にいるアーチ以外をバラバラにする暴虐の風は、放たれた鋭い爪のような斬撃によって相殺されていく。

「“破牙ハカ”!」

 勢いを封じられた竜巻に、振り下ろした剣が放つ牙型の斬撃。
 それにより風は完全に封殺され、アーチを守るものは何もなくなる。

 ──だが、彼は止まらない。

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