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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と開催理由
しおりを挟む「やあやあ諸君、誘ってはみたがまさか本当に来るとは……楽しんでくれたかい?」
自分の試合も終わったので、試合中に見つけておいた少年少女の元へ向かってみた。
オウシュ、ナーラ、ライア、ルミン。
次世代を生きる彼らには、俺の……というよりウィーの闘いはどう見えたのだろうか?
真っ先に答えてくれたのは、根が純粋な少年──オウシュである。
「凄かったです! メルスさんって、いろいろできるんですね!」
「フハハハハッ! どんなものにだってなれるんだぞ! たとえば……こんな感じか?」
「ちょ、アンタ!」
変身魔法ではなく、今回は<譎詭変幻>を用いてナーラに成りすましてみた。
当然彼女は怒るわけだが、周りはやや驚いている程度で済んでいる。
……シスコンなんて、微動だにしていないのが業の深さを知れるところだ。
「あー、あー……うん、こんな感じよね。私レベルの存在ともなると、朝飯前でこんなことができるのよ。まあ、見る人から見れば違いなんてすぐに分かるし、オウシュも簡単に気づけたわよね?」
「あっ、はい。ナーラのことですから」
「~~~~~!」
「天然たらしね、アンタ。──とまあ、こんな感じでやれるわけさ。ルミンになってもシスコンは一瞬で見抜くし、テメェら野郎に化けても面白くないから、実演はこれで終わりにしておこう」
変装を解除し、いつものモブ顔に造形を戻しておく。
……スキルの乱用で元の姿が分からなくなる、なんてことは事前に防いでいる。
いつでも{夢現記憶}から残念な顔を読み込めるので、非常に遺憾ながら安全な変装が可能なのだ。
「さて、話の途中だった気がする……何を話に来たんだっけ?」
「自分の自慢でしょ?」
先ほどの変装のせいか、ツンケンした態度がよりいっそう増したナーラ。
とりあえずそこに関してはスルーして、話の根幹に戻す。
「……ああ、感想を訊きに来たんだ。邪神の眷属を殺した、それで驕るのも簡単なんだけど、上には上がいるからな。あの程度の闘いで満足しているようじゃ困るからな」
「わたしとしては、アレだけでも充分凄い闘いだったんですけど……」
「悪いが、いずれルミンにも戦場に出てもらうことに……ライア、まだ話は終わっていないんだけどな」
闘技場では、舞台以外では戦闘行為ができないようにしている。
そのため剣が腰から外れないライアは、殺気を俺に放つことしかできずにいた。
「兄さん!」
「まあ、これは俺が悪いからな。殺気だけなら好きにしてくれ。……これは確定事項だ。殺させる気はないが、いっさい傷つけさせたくないというならお前が守れ」
「兄さん、わたしたちはメルス様に助けられたんだよ。だから……だから、わたしも頑張らないと」
「ルミン……分かった。絶対にぼくが守るから。安心してね」
ここで始まる兄妹愛劇場。
オウシュとナーラがやれやれ、といったような顔をしているが……お前らも似たようなときがあるからな。
俺も眷属とイチャイチャしているときは、たぶんこんな感じなんだろうが……油断しないよう、思考の一部が常に周りを把握しているので別としておこう。
「分かっていると思うが、ナーラとルミンはあの炎の世界において特殊な役割を果たす力がある。細かいことはここでは言わないが、俺の目的のために力を貸してほしい……オウシュとライアもだ。頼む」
「あ、頭を上げてくださいよメルスさん!」
「そうか? なら上げよう。まだ数人、俺の元に集める必要がある。それまでに、お前たちには強くなってもらいたい。少なくとも、俺とウィーの手抜きぐらいには対応できるようにしてほしいな」
「あ、あれにですか!?」
邪神の眷属程度であれば、眷属たちは単独で討伐できる。
しかし、赤色の扉を開くために戦う彼らには、もっと力が必要だ。
無論、俺一人でやれば余裕で扉までの道を開くことができるんだけどな。
偽善者は必要以上に干渉しないので、ここは彼らにやらせるというわけだ。
……いやまあ、完全に俺の私欲のために戦わせるんだけど。
だからこそ、こうして頼んでいる。
俺だけではできないことがあるなら、真摯に頼み込むしかないからな。
「オウシュもライアも、守りたい者がいる。だが、二人は俺に無理矢理にでもある場所へ連れてかれる。それは不可避、運命とでも呪えばいい。……ならどうする? 俺を殺して止めるか、それとも強くなるか」
「……こっちに選択はないのね」
「わたしは構いません。ですが、兄さんまで巻き込むのは」
「強くなるなら、ウィーが手伝うさ。俺は勝てるだけで強いわけじゃないから、教えるのには向いてない。ウィー以外の人に教わりたくなれば、今回の武闘会の参加者の中で教わりたい奴を見つければいい」
幸いにして、今回の参加者の戦闘方法は多岐に渡るので非常に参考になる。
オウシュもライアも、今は剣を使っているが変更すればより強くなるかもしれない。
それに、武器の適正と好みは別だ。
そういう点でも、一度ジックリと熟練者を見て考えてもらいたい。
「ナーラは別コースな。どっちも近接戦闘で行くわけじゃないし……ナーラなら分かると思うが、あの天使様みたいな人たちに遠距離支援でも習おうか」
「え、いいの?」
「まあな。それと、ルミンはちょっと大変かもしれないが、あらゆることをできるようになってもらいたい。それがお前に与えられた役割で、俺が望むルミンの立場だ」
「分かりました、なんでもやります!」
えっ、なんでもしていいの? なんて考えればシスコンが動くので思考には入れない。
観戦客用に用意した食べ物はいくつか恵んでから、俺はこの場を去るのだった。
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