上 下
806 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦第一試合 その04

しおりを挟む


 二刀流の状態で、“斬々舞”を振るい続けるメルス。
 これまでは使えなかった双剣系の武技も使用可能になるため、攻撃の幅はこれまでより格段に増える。

≪それにしてもアン様、“斬々舞”とやらに弱点は無いのですか? いくら繋げられるような武技しか使えないと言っても、アレでは終えた時が勝利となっていると言われても否定できませんよ≫

≪武技使用後の硬直、本来ならばそれが致命的な弱点とされます。繋げれば繋げるほど、失敗した時の反動が大きくなるということです……が、メルス様はそれすらキャンセルできますので、あまり意味はないかと≫

 当初はチャルの能力でもあったそれをメルスが模倣したため、デメリットであったはずの武技使用後硬直ディレイも消滅してしまった。
 ……ただ、硬直の長さに応じて魔力か気力の消費が解消に必要なので、そう何度も使えるわけではない。

≪つまり! 本当にデメリットは存在しないというわけですね? ウィーゼル選手、どうして対応できているのでしょうか≫

≪彼女の職業で『大将軍』は、戦を先読みして自軍に勝利を齎すための補正が多く存在します。メルス様の未来眼同様、集めた情報から未来を演算できるというわけです≫

≪なるほど、メルス様の動きを視てどの武技が来るかを予測しているのですね≫



 ウィーゼルはまさに、アナウンスが告げた通りの闘い方をしていた。

 予測線が走り、予想されるメルスの攻撃の軌道を表示する。
 そこから派生する武技の軌跡を記憶から呼び起こし、対応する武技を見つけだしてそれ相応の対処を行っていく。

「双剣になったらすぐに音を上げると思ってたんだが、存外粘るな」

「……そう簡単に、負けてなるものか」

 だが、双剣になって以降ダメージを負うことが増えてきた。
 剣で捌くことも間に合わず、回避行動を取る前に傷を付けられてしまうからだ。

「ほい、刺突剣」

「くっ」

「少々動きが超人染みてるから、あんまり好きじゃないんだけどな」

 刺突剣の武技“前飛跳躍ボンナバン”と“後飛跳躍ボンナリエール”が巧みに発動される。

 発動ごとにメルスの体は前か後ろにフェンシングの構えをした状態でジャンプし、元居た場所から少し離れた場所に着地する。
 それがあまりに唐突に起きるため、ウィーゼルは対処に追われていた。

「連続使用をすればするほど、少しずつだが失敗する確率が上がるんだよな。まあ、全部マニュアルでやればこそのリスクだな」

 本来の用途では、それらを延々と使用することは無い。
 あくまで移動用の武技で、それらには与ダメージが設定されていないからだ。

 メルスもまたそれらを移動用の武技として使っているが、その不自然な構えのまま刺突系の武技を発動して上手く繋いでいる。
 短剣や薙刀など、前を突くような動作のある武器はたくさんあるからだ。

≪おっと! ここでウィーゼル選手の持つ剣から凄まじいオーラが噴きあがります!≫

≪このままでは、メルス様のペースで闘い続ければいけない。それが危険だと感じ、切り札の一つを開いたのでしょう≫

 ウィーゼルの握る剣は、亡国セッスランスで祀られていた宝剣である。

 ただ戦い抜くことだけに特化したその宝剣は、振るわれ始めた頃は本当に何の装飾もされていない無骨な剣だった。
 しかし、王としての面目などを家臣から何度も注意され、ようやく装飾品が鞘に施されるようになる。

 ……だが、それでもセッスランスの王たちの業は深い。
 鞘に仕込んだ装飾もまた、戦闘に必要となるナニカを補うための効能が秘められた特殊な鉱石であるからだ。

「──“生き抜け”」

「え、何それ?」

「鞘に仕込まれた能力を解放した。私はそれにより、能力が飛躍的に向上する」

「うげっ、やば──!」

 メルスの剣激に対応する速度が上がる。
 ギリギリで噛み合わせていた剣はしっかりと芯を捉え、甲高い音を再び鳴らしていく。

 また、鞘を介し剣に属性が付与される。
 ウィーゼルの意思に合わせ、状況に応じた属性となっていく。

「けどまあ、負けるわけにはいかないんだよな。速度を上げるだけじゃ、たぶん対応されるだろう? なら、俺も切り札の一つを切っておいた方がいいか──“因子注入”」

 すると、メルスの姿に変化が起きる。
 白黒だった髪は輝く銀色に、耳は少し横に尖がり、瞳も髪と同様のものへ変色する。
 体も少々華奢なものになり、骨格から……種族が変わったように作り変わっていく。

≪あ、アン様! あれはいったい!?≫

≪メルス様は外部から集めた因子を注入することで、己にその種族が持つ特性を付与することができるのです≫

≪そ、それであそこまで変わるのですか?≫

≪込み入った事情がございまして……因子をお使いになられたとき、なぜだか相貌まで変化してしまうのですよ≫

 伝説級のスキルである<畏怖嫌厭>。
 所持者の印象を極限まで貶め、その認識にまで干渉する呪いのようなスキルだ。

 それを運営神によって強制的に付与されたメルスは、精神防御力や特殊なスキルを持たない者以外にはどういった理屈か恐れられ、嫌がられてしまう。
 好感度、といった特殊なパロメーターも低いため、顔が気に食わないといった理由で絡まれてしまうこともあるぐらいだ。


 しかし、(因子注入)や(異端種化)を使っている時のみ、その呪いのようなスキルの活動が停止する。
 付与した際のやり方が雑だったのか、メルスという存在ではなく肉体を対象としたスキルとなっていたのだ。

 そのため、他者の因子を取り込んでいる間は、いっさいの効果を示さない。
 無効化が完璧でない者にとっては、メルスが突然変化したように見えただろう。


 ただ、そのことを本人メルスはまだ知らない。
 彼は自身の容姿が劣っていると感じているし、事実現実リアルの容姿はそう良くはない。
 そう自分自身が捉えているからこそ、真実が見えていなかった。

 そして、眷属たちもそれをわざわざ本人に告げることもない──容姿にのみ釣られるような者を、受け入れたくはなかったからだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...