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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦第一試合 その02

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「先手必勝! ──“光り輝け”!」

 いつ握られたか分からないような速さで、メルスはその黄金の剣を振るう。
 鞘から抜かれた剣身は、装飾同様に美しい輝きで会場中を照らす。

 そしてそれは、巨大な斬撃という形で紅髪の少女の元へ向かっていく。

「舐められたものだ……覇ッ!」

 少女もまた、携えた剣を抜くと相対するように斬撃を振るう。

 装飾などいっさいない。
 ただ力だけを求められた剣は、主の要求に応え全力をその一撃に籠めた。


 斬撃は会場の真ん中でぶつかり、閃光と稲妻を生みだしていく。
 相反するベクトルの衝突は、空間を歪ませる力を解き放っていった。

「こっちは解放までしたのに……ウィーさんや、少しは加減をしてくれませんかね?」

「それで負けた。そう教えてくれた者がいたぞ。だから私は、初めから全力で挑む」

「厄介だな……」

 ヘラヘラとそう語るメルスではあるが、その実陰で冷や汗を掻いていた。
 即座に回復できる分までとはいえ、籠められるだけの魔力を籠めた一撃を相殺されてしまったからだ。

寝具スーと<物質再成>でどうにかなるが、できる限り手札は隠しておきたい。というか、後の試合で反則にされたら終わりだ)

 今大会の特殊ルール、観客によってルールが決まるというシステムは、メルスをかなり苦しめていた。

 これまであの手この手で眷属たちに勝利してきたが、そういった嵌め技が一度限りしか今回は使えない。
 バレなきゃセーフ、などという言葉は決して通用しなかった。

(なんせ、スペシャルゲストを招いちまったからな。できるだけ、自分のポテンシャルだけで勝つしか……あ、そんなのなかったわ)

 特に何も誇ることが無い自分にしょげながら、メルスは剣を振るう。
 視界を介した瞬間移動を行い死角へ向かうと、横に払うように無音の一撃を放つ。

「──甘い」

「終わってくれよ」

「つまらないことを言うな。貴公との闘いをこれまでしなかったのは、こうしてこの瞬間のためだったのだから」

「……そうかな?」

 それが本当なら、トーナメント表に細工でもされたのかな? などと思いながらメルスは攻撃を捌き続ける。

 一方のウィーもまた、何食わぬ顔で自身の攻撃を捌くメルスに内心で感心しつつ、新たな策を練り始めていた。

(武技の一つでも使えば、有利になるかもしれないが……相手はメルス。そう簡単に勝てる奴でもない)

 かつての戦闘データは、図書館にすべて記録されていた。
 彼女は大会参加者のデータをできるだけ収集し、今大会に挑んだ。

(だからこそ、まだ先があることが分かる。それが理解できてしまう。……どうやって攻略すればいいのか)

 自身の職業『大将軍』の恩恵を受け、彼女の思考は高速で答えを割りだしていく。
 たとえどこかで勝ち目が無いものだと知っていても、負けられない戦いというものは存在する。

「──見えた」

「うわっ、解析してたよ。何を考えたか知らないけど、未来のパターンがだいぶ増えてるじゃないか」

「なら、私は勝利のパターンをなぞらせてもらおうか」

 メルスは彼女の動きが変化する様子を、未来眼で視た。
 ギリギリで対応していた剣撃が、少しずつ対処できずに傷を負っていく。

「負けてたまるかよ──“限界突破”!」

「なら、こちらも“限界突破”だ」

 互いに身体能力の限界を超え、双方へ剣を振るい始める。
 ぶつかり合う剣は甲高い音を鳴らし、剣戟はより加速していく。

「どうしたメルス、もっと重ねてくると思ったのだが」

「一回戦で限界突破以上を使って、重ねはズルいと思われたらヤバいんだよ。悪いけど、ウィーにはこれだけで対処させてもらう」

(そう、それでいい。あとのことを考えるなら、ここで使うのは愚策も愚策だ)

 そう考えつつ、ウィーはスキル(攻撃予測)の力を使ってメルスを攻撃していく。
 これは(未来眼)には劣るものの、相手の攻撃を予測線として視覚で捉えることのできるスキルだ。

 彼女はそれを『大将軍』による補正を受けながら使い、メルスを追い込んでいった。

「便利なスキルだな、それって」

「メルスの未来眼には敵わないさ」

「一点特化の方がいいこともあるさ。……それ、どんどん行くぞ──“斬々舞”」

「っ……!」

 瞬間、彼女の視界に膨大な数の予測線が浮かび上がる。
 危険性によって色が変化するその線は、すべてが最大警戒色を発していた。

「全部が全部武技だから、避けておいた方がいいぞ」

「逃げたらどうせ捕まるさ。セッスランスに後退の二文字は無い」

「……脳筋の思考だぞ」

「勝利の法則だ」

 かつて、眷属の一人がこれを受けた記録を把握している。
 発動する武技はメルスの任意だが、動きが繋げられる武技しか発動することはできないというデメリットが存在した。

 ウィーはそこへ賭け、自ら前へ出ることで発動できる武技の数を減らそうとする。 

「ああ、正解だ。だけど、かつてのティルはそれでも負けた……分かってるのか?」

「……行くぞ」

 今まででもっとも早く剣が鳴り、観客の大半にはその動きが何本にも重なって見えた。
 会場に設置されたカメラが、どうにかその剣戟を捉えようとするが……間に合わずにブレて見える。

 彼らがその目や耳で状況を知ることは、もはや不可能であった。
 それでも知る方法があるとすれば──

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