802 / 2,519
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と選手宣誓
しおりを挟む「え? そんな展開知らないんだけど……」
《ハメられましたね。いえ、いつもハメていた分の仕返しでしょうか?》
「……え? そんな展開知らないんだけど」
アンから届くわけのわからない話はスルーしておくとして、今は現実に対処しなければならない。
眷属たちとのあれこれから数日が経過し、ようやく準備ができたのがこの日だ。
招待状を世界にバラまき、嫌がるナイスガイをダンジョンで釣り、仲のいい国王たちと飯を共にしたり……まあ、楽しかったな。
そうして、なんやかんやの果てに幕を開けた世界一武闘会。
名前のオマージュはもちろん、某インフレの激しいバトル漫画である。
「って、思い返している暇はないんだった」
主催者様という変な呼ばれ方をしてはいたが、間違いなく俺が出る必要があった。
乗せられてるなー、と分かってはいるが、期待に応えないわけにはいかないのですぐに舞台へ移動する。
≪──さぁ、やってきました! 最強にして最凶! 私たちの世界を統べる神とも呼べるこのお方……メルス様だぁぁぁっ!≫
『ウォォォォォォォォォォォォォォ!』
音魔法で大きさを調整して、耳に悪影響が無いように施しておく。
ついでに大声を上げるスキルをピックアップし、:開放:からダウンロード。
大きく息を吸って──叫ぶ。
「選手宣誓! 我々、選手一同は! スポーツマンシップも何もないこの世界で! 最終的に正々堂々と戦うことを誓います! ……というか、王道に従ってたら負ける! 覇道に寄り添ったら負ける! 勝つためにどんなことをしても、俺は愛すべきハーレムのために戦い抜くことだけは誓おうじゃないか! 選手代表、凡人で偽善者な俺メルス!」
同時に、上空へ向けて魔法を放つ。
炸裂した魔法は空というキャンパスいっぱいに広がり、観客たちの目を奪う。
「盛り上がっていこうぜ! しばらくは、祭りを楽しもう!」
『ウォォォォォォォォォォォォォォ!』
観客の熱い声を聴きながら、俺は転移して自身の控え室に向かう。
そして、安全が確保されたことを確認してから……思いっきり息を吐く。
「ヤバい、本当にヤバい」
《何がですか?》
「何がって……さらっととんでもないことを口走ったことだよ。あそこまで言ったら、俺本当に勝たなきゃダメじゃん」
眷属を理由にしたなら、そこに敗北は許されないだろう……眷属自身を除けば。
そして今回のイベントは、そんな眷属たちがバーゲンセールのように襲ってくる地獄の祭典でもある。
──うん、このままだと負けるな。
「アン、俺のリミットってどうなる?」
《一回戦で三割、二回戦で五割、準決勝で七割、決勝で全開となります》
「一回戦で眷属に当たったら、もうおしまいな気がする。二回戦も微妙だな。準決勝でアレとぶつかったら負けるし……安心できるのは決勝だけか」
《眷属との対戦時は、要交渉です。相手側が了承すれば全開で構いません》
「よしっ、それならまだイケる!」
いちおうだが、ここで補足説明を。
俺のステータスは度重なる眷属からの補正によって、触れただけで世界をぶっ壊す……なんてことが洒落にならない程度に異常なものへ化している。
それでも対策として、(能力偽装)というステータスを書き換えるスキルでそれを抑制してはいるのだが……もしそれが外れた時のことを考え、あるときから眷属を介した特殊な封印を施していた。
自身で解放できるのは一割のみ。
それ以上は、いくつかの条件を達成しないと絶対に俺の意志では解放されない。
それでも自由に動くため、いくつかバックドアは用意してあるけど……バレたらバレたで、別にいいか。
「ところで、アンは団体戦に出るのか?」
《はい。すでにチームメンバーも居ますよ。ボッチなメルス様とは違うのです》
「ぼぼぼっ、ボッチちゃうわ! 今は眷属がいてくれるもん!」
《…………そうですか》
たとえ呆れられようと、ここだけは絶対に言い返しておかないと駄目な気がした。
アンのチームともなると、ほとんど検討がつくけどな。
後で確認でもしておこう。
◆ □ ◆ □ ◆
メルスが去ったあとも、会場の熱気は維持されたままだった。
型に嵌まらないメルスの選手宣誓は、熱狂なメルス教徒を始め、国民たちの心へ響いたのだ。
そこにスキルによる干渉があったのは、本人と抵抗に成功した者しか知らない事実だ。
≪──あー、あー。主催者様による、素晴らしい宣誓をお聞きになったでしょうか? 余韻に浸りたいところですが、そろそろ抽選の方を始めさせてもらいますよ≫
大会のトーナメント表は、未だに作成されていなかった。
会場で、不正の無いように行うようにと主催者様からの指示であったからだ。
≪抽選は、ルーン王国の前国王であるジーク様が執り行わせていただきます。彼が不正などしないことは、彼の統治の元生きてきた国民たちがよく知っていますね?≫
そうだそうだ、と叫ぶ声がどこからともなく飛んでくる。
それから、さらにテンションが上がっていく会場。
いつの間にかスタンバイしていたジークと箱を持つ現国王。
彼らによって、運命の戦いの順番が決められるのであった。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる