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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と選手宣誓

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「え? そんな展開知らないんだけど……」

《ハメられましたね。いえ、いつもハメていた分の仕返しでしょうか?》

「……え? そんな展開知らないんだけど」


 アンから届くわけのわからない話はスルーしておくとして、今は現実に対処しなければならない。
 眷属たちとのあれこれから数日が経過し、ようやく準備ができたのがこの日だ。

 招待状を世界にバラまき、嫌がるナイスガイをダンジョンで釣り、仲のいい国王たちと飯を共にしたり……まあ、楽しかったな。

 そうして、なんやかんやの果てに幕を開けた世界一武闘会。
 名前のオマージュはもちろん、某インフレの激しいバトル漫画である。


「って、思い返している暇はないんだった」


 主催者様という変な呼ばれ方をしてはいたが、間違いなく俺が出る必要があった。
 乗せられてるなー、と分かってはいるが、期待に応えないわけにはいかないのですぐに舞台へ移動する。


≪──さぁ、やってきました! 最強にして最凶! 私たちの世界を統べる神とも呼べるこのお方……メルス様だぁぁぁっ!≫

『ウォォォォォォォォォォォォォォ!』


 音魔法で大きさを調整して、耳に悪影響が無いように施しておく。
 ついでに大声を上げるスキルをピックアップし、:開放:からダウンロード。

 大きく息を吸って──叫ぶ。


「選手宣誓! 我々、選手一同は! スポーツマンシップも何もないこの世界で! 最終的に正々堂々と戦うことを誓います! ……というか、王道に従ってたら負ける! 覇道に寄り添ったら負ける! 勝つためにどんなことをしても、俺は愛すべきハーレムのために戦い抜くことだけは誓おうじゃないか! 選手代表、凡人で偽善者な俺メルス!」


 同時に、上空へ向けて魔法を放つ。
 炸裂した魔法は空というキャンパスいっぱいに広がり、観客たちの目を奪う。


「盛り上がっていこうぜ! しばらくは、祭りを楽しもう!」

『ウォォォォォォォォォォォォォォ!』


 観客の熱い声を聴きながら、俺は転移して自身の控え室に向かう。
 そして、安全が確保されたことを確認してから……思いっきり息を吐く。


「ヤバい、本当にヤバい」

《何がですか?》

「何がって……さらっととんでもないことを口走ったことだよ。あそこまで言ったら、俺本当に勝たなきゃダメじゃん」


 眷属を理由ダシにしたなら、そこに敗北は許されないだろう……眷属自身を除けば。
 そして今回のイベントは、そんな眷属たちがバーゲンセールのように襲ってくる地獄の祭典でもある。

 ──うん、このままだと負けるな。


「アン、俺のリミットってどうなる?」

《一回戦で三割、二回戦で五割、準決勝で七割、決勝で全開となります》

「一回戦で眷属に当たったら、もうおしまいな気がする。二回戦も微妙だな。準決勝でアレとぶつかったら負けるし……安心できるのは決勝だけか」

《眷属との対戦時は、要交渉です。相手側が了承すれば全開で構いません》

「よしっ、それならまだイケる!」


 いちおうだが、ここで補足説明を。
 俺のステータスは度重なる眷属からの補正によって、触れただけで世界をぶっ壊す……なんてことが洒落にならない程度に異常なものへ化している。

 それでも対策として、(能力偽装)というステータスを書き換えるスキルでそれを抑制してはいるのだが……もしそれが外れた時のことを考え、あるときから眷属を介した特殊な封印を施していた。

 自身で解放できるのは一割のみ。
 それ以上は、いくつかの条件を達成しないと絶対に俺の意志では解放されない。

 それでも自由に動くため、いくつかバックドアは用意してあるけど……バレたらバレたで、別にいいか。


「ところで、アンは団体戦に出るのか?」

《はい。すでにチームメンバーも居ますよ。ボッチなメルス様とは違うのです》

「ぼぼぼっ、ボッチちゃうわ! 今は眷属がいてくれるもん!」

《…………そうですか》


 たとえ呆れられようと、ここだけは絶対に言い返しておかないと駄目な気がした。
 アンのチームともなると、ほとんど検討がつくけどな。
 後で確認でもしておこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 メルスが去ったあとも、会場の熱気は維持されたままだった。
 型に嵌まらないメルスの選手宣誓は、熱狂なメルス教徒を始め、国民たちの心へ響いたのだ。

 そこにスキルによる干渉があったのは、本人と抵抗レジストに成功した者しか知らない事実だ。

≪──あー、あー。主催者様による、素晴らしい宣誓をお聞きになったでしょうか? 余韻に浸りたいところですが、そろそろ抽選の方を始めさせてもらいますよ≫

 大会のトーナメント表は、未だに作成されていなかった。
 会場で、不正の無いように行うようにと主催者様からの指示であったからだ。

≪抽選は、ルーン王国の前国王であるジーク様が執り行わせていただきます。彼が不正などしないことは、彼の統治の元生きてきた国民たちがよく知っていますね?≫

 そうだそうだ、と叫ぶ声がどこからともなく飛んでくる。

 それから、さらにテンションが上がっていく会場。
 いつの間にかスタンバイしていたジークと箱を持つ現国王。

 彼らによって、運命の戦いの順番が決められるのであった。

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