801 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者とルール説明
しおりを挟む≪レディース&ジェントルマン! まもなく第一回世界一武闘会の開会式が始まります。客席には着いたか? そうでない奴も、立ち見の準備はできたか? 主催者の気まぐれで行われるお祭り騒ぎが、とうとう幕を開けるときが来た!!≫
その日、偽善者の支配する世界の住民はすべて、第四世界にある闘技場へ集っていた。
辺りには出店が並び、美味しそうな香りを至る所へバラまいていく。
すぐに闘技場へ行こうとしていた者も、その匂いにつられて財布の紐が緩んでしまうのはご愛敬だ。
年も性別も種族も住む世界も関係ない。
ただ祭りに騒ぐ愛すべきバカたちが、そこには集まっていた。
≪進行は私、鬼人族のホウライが担当させていただきます……くー! こんな特等席で試合が見れるなんて、主催者様ありがとうございます! 応援の方、少し多めにさせてもらいますよ!≫
完全に依怙贔屓宣言であったが、誰もそれに顔をしかめることはない。
主催者こそ、彼らの世界を統べる者。
そこに軋轢など……多少しかなく、あったとしても小さなものばかり。
歓声に暗い声は一つもなく、賑やかで明るい声が場を包み込んでいく。
それらは闘技場の控え室で待機する参加者たちにも聞こえ、頬を緩ませることになる。
≪さあ、周りに流されてホイホイついてきた皆様のために、もう一度今日のイベントについて説明したいと思います!≫
一部の者が『ありがたい!』と言っている中、進行のホウライは説明を始める。
≪第一回世界一武闘会は、主催者様が突然決めた皆様のストレス発散イベントでございます! 個人の部と団体の部に分けて行い、それぞれで異なる盛り上がりを魅せるとのことです。本日からしばらく、個人の部による最強決定戦が行われます。ただ、両方に参加することは禁止されており、個人戦に出た者は団体戦には出れません……つまり、あのお方の姿が見たいのであれば、個人の部のチケットが必要というわけです≫
ストレスなど感じていない、そう告げようにも相手がいないので観客はそのまま話を聞き続ける。
実際、主催者の世界管理は杜撰だが、周りの者が補助をしているため民たちは大きなストレスを抱えていない。
その上、ストレスを発散する場なら別の形で用意されているため、残った小さなものもすぐに消えている。
目的を果たすことは不可能であると知らないのは、主催者のみであった。
≪個人の部の参加人数は16人、皆様ご存知のあの方やこの方に加え、主催者がお招きになった祈念者も闘うぞ!≫
──祈念者。
突然下った神の天啓、その中で語られた異界より現れし者たち。
神より肉体を与えられ、あらゆる可能性を秘めた者たち。
主催者もまた、そうした祈念者の一人であるため、どんな闘いを魅せてくれるのかで興奮し始める。
ここで、騒ぐ声がかなり大きなものになってきたためホウライが鎮めていく。
≪はいはい、落ち着いてくださいよ。ここからが本番──ルール説明ですよ≫
ピタリと声が止み、静寂が場を支配する。
ここまでは事前に情報が通達されており、観客たちも半ば聞き流すように話を聞いていたのだが……ルールに関しては当日の発表とされていたため、耳を澄まして情報を確認しておきたかった。
≪ルールは簡単、相手を舞台から出したら勝利といったものです。舞台には特殊な結界が張られており、生命力が0になるダメージを受けた場合排出される仕組みを持っているのです。なので、相手をギリギリまで痛めつけて無理やり外に出すか、はたまた自主的に降参させて降ろすか、それとも試合中に落とすかの三パターンで上へ勝ち上がる者が決定しますよ!≫
前にも数回、そうした形式で模擬戦が行われたことがあるため、観客たちはすぐにそれらを理解する。
ただ、問題はこれからだ──
≪最初の内は、それ以外のルールはございません。一回戦の対戦がすべて終了後、観客席に座る皆様がルールを追加するのです。──観戦チケットはそのアンケート用紙を兼ねておりまして、本日の試合が終わると自動的に紙が用紙へと変化するします≫
闘技場の外から悔しがる声が、中から盛り上がる声が響いていく。
自分たちが、間接的にとはいえ武闘会へ関わることができる。
観客席に座る者たちは、そのことをひどく気に入り喜んでいた。
≪もちろん、突然『参加者はビキニで戦闘をする』……なんてものは許可されませんからね。明確な理由を記すことで、ようやく運営委員会のチェックを受けることが許されますから。それに、女性だけを狙い撃ち……なんてこともできませんので、もしそんなことをしたら主催者様までビキニを……あれ? それはそれで見てみたい気がしますね≫
誰も遠くで叫ぶ声など気にしない。
話はもう少し、詳細なものへ──
≪個人を指定したものは不採用は確実です。また、スキルの階級に合わせた縛りなどもしてはいけませんよ。それをやると、主催者様がかなり不利になりますからね。どういった行動が禁止なのか、それを分かりやすく書いていただければ採用の確率は上がります。決して『理不尽な行動は禁止』などと書いてはいけませんよ。参加者の半数以上が何もできなくなりますからね≫
参加者のスペックを知る者たちは、それを思いだして苦笑いをしてしまう。
拳を振るえば空間が割れ、剣を振るえば次元が裂ける……参加者の中にそういった類の者たちがいるからだ。
≪他に質問がある方は運営委員会まで。その質問が有意義なものだと思われれば、あとで私が読み上げますよ≫
そういって、一度言葉を切り上げる。
そして、大きく息を吸って──
≪下準備はこれでおしまい! では、開会式に移らせていただきましょう! 選手宣誓、主催者様……お願いしますっ!!≫
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる