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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と赤色のスカウト その17

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「──ええ、構いませんよ。ルミンがそれを望むのでしたら」
「もう少し考えてよ、兄さん」

「迅速な回答、感謝する。ただ、その街で妹が男と遊んでいたから殺す……なんてことはしないでくれよ」

「ハ? するに決まってるだ……痛ッ」

「兄さん……」

「分かったよ……」


 シスコンの拗らせっぷりがヤバいな。
 サクッと“完全蘇生パーフェクト・リザレクション”で妹を蘇生させ、兄共々国へ勧誘してみた。

 最初は少し悩んでいたようだが、妹が勧めた途端あっさりとオッケー。
 そして、今に至ると──


「兄さん。わたしは、もう大丈夫だから。この人が病気も治してくれたし、こんな風に動けるよ」

「病気がどうこうということじゃない。兄として、妹が色んな意味で襲われることを防がなきゃいけないんだ……そこのこいつも、お前をそういう目で見ているんだぞ」


 シスコンのギロリとした目が向けられる。
 うん、俺もカグを守るためだったらそんな目をするんだろうな。
 こいつとは、あとでカグのことを説明してから熱く語り合うことにしよう。


「勝手に人の気持ちを脚色するな。無造作に嫁を増やそうとは思わん」

「……ほらみろ、ルミンを狙っていないとは言及しなかったぞ」

「…………」


 俺たちの会話に呆れたのか、彼女は何も言わずにソッポを向く。
 ショックを受けている兄だが、俺にそれを慰める筋合いはない。

 ……なんか、頬に手を当てているんだが、まさか兄の熱烈アピールに顔を赤らめたか?


「黙れ。とりあえず、自己紹介でもしておこうか。今さらだが、お前たちの向かう国の王たる俺の名も知らぬのもあれだろう」

「え゛、王族……だったんですか?」

「……。……! …………!!」

「に、兄さん?」


 突然、口をパクパクさせるだけの状態と化した少年。
 複雑な表情をしていた妹も、さすがに兄を心配になっている。


「うるさいから魔法で声を遮っている。兄の分の紹介は、お前に任せよう。あと、王族ではなくただの平民だ。気にすることはない」

「は、はい。わ、わたしはルミン。苗字はありません。こっちの兄さ……兄はライア。よろしくお願いします」
「…………!!」

「そうか。俺はメルス、『紅蓮都市』と呼ばれる街でそれなりの地位に就いている。その仕事の一環で、優れた人材を大陸の至る所から集めているわけだ」


 首を傾げているので、あまり理解しているわけではないだろう。
 そりゃそうだ、自分たちの命に係わる問題ならともかく、こんな妄言誰が信じるか。


「気にするな。住む場所が変わる、それぐらいの考えでいい。お前の兄が倒した獣のせいで、どうせ家は壊れたのだろう」

「そう、ですね……。あの、家賃などはどれくらいに……」

「最初の月は無料だな。ただ、二月目は九割抑えた価格。三月目、四月目と……一月重ねるごとに価格が一割ずつ定価に戻るって感じだ。もちろん、交渉を上手くやればもっと押せるぞ」

「一番安い借家で、どれくらいなんです?」

「一月……一万アーカぐらいだ。ただ、あまり中は保障できないぞ」


 ウィーやその付き人だった人たちに、あまり豪勢な家ばかり建てるなと言われてな。
 一万アーカ程度で住める、安い家も何軒か用意してあった……2LDKしかないぞ。


「あの、そちらの場所にギルドは……」

「あるぞ。魔物討伐の依頼は少ないが、働けば充分な蓄えを保った状態で家賃を支払えるぐらいの額は稼げる」

「そうですか。あの、兄さんにかけている魔法を解いてあげてください。少し、いっしょに相談したいので」


 言われた通りに魔法を解除した途端、少年が襲いかかって来そうになった。


「兄さん! 話を聞いてください」
「──分かった」


 だが、すぐに妹の指示に従って話し合いを始める……まあ、全肯定なんだろうが。
 その間に、俺は眷属と念話を繋ぐ。


「(まあ、そんなわけで因子持ちの少女とそれを守る騎士様をスカウトした。安宿が良いらしいから、一つ空けといてくれ)」

《……先の件も、聖女候補である少女をあの少年が守るようだった。まさか、すべてがそうなのか?》

「(何がそうか、まったく分からんが……偶然だろ。それより今は、用意の方を頼む。偽邪神の眷属のせいで家が壊された、それを救う偽善者……最高だな)」

《そういうことか。そこまでいくと、常軌を逸していると言われてしまうぞ》


 何を言うか、それこそが至高なんだろう。
 むしろ、そうあれと言っておきたい。


「(結局、俺の偽善で救われていることに違いはないんだ。俺はそれを見れて嬉しい、救われた奴も最終的に嬉しい……これだけでも充分じゃないか)」

《……まあいい。家の方はいくつか空いていたな。メルスの建てた家は高級感がありすぎて住みづらい、そう言って家を変える者が多発したからな》

「(マジかよ……あれは地球レベルに抑えておいたはずだぞ)」

《ならば都市の民にも、地球の技術を学ばせるのだな。あの都市を無理矢理纏めさせられる者としても、技術の発展は賛成だ》


 小言を言われてしまうが、要は家の準備はどうとでもなるということか。

 兄が自分の言うことをすべて鵜呑みにすることにげんなりとする妹が見える。
 それに少し悪いことをしたと思いながら、俺は二人に近づくのだった。


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