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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と赤色のスカウト その15
しおりを挟む少年は突き進む。
獣が振り下ろした前足を躱し、果敢に握り締めた剣を当てようと。
燃えるような紅い剣は、その熱量を少年にしっかりと感じさせる。
一撃一撃に肝が冷える少年であったが、その温かさを頼りに生きていると実感した。
「“斬撃”!」
己の精神力を削り、通常よりも強化された斬撃を放つ。
ただの剣であれば折れてしまうであろう剛毛を相手に、紅蓮の剣はあっさりと剣身を通すことに成功する。
『武器は一級品かよ! だが、その持ち主がクソじゃどうしようもねぇだろ!』
足から血が噴き出した獣だが、すぐに足の筋肉を収縮させて流血を止める。
そして、その場で一瞬硬直してしまっている少年に向け──もう片方の足を振るう。
ボウッ
飛ばされながら、受け身を取る少年。
すぐに立ち上がると、再び獣の元へ全速力で駆け抜ける。
「“風刃”!」
途中足を止めると、再び精神力を消費して横薙ぎを行う。
すると、斬撃は緑と赤のオーラを纏い獣の元へ高速で飛んでいく。
『無駄なんだよ──ガァッ!』
だが獣にとって、それは恐怖となりえる代物ではない。
大きく息を吸い込み、魔力を籠めた咆哮を少年に向けて放つ。
斬撃は一瞬で掻き消え──音の衝撃波が少年の元へ向かう。
ボボッ
魔力を籠めると、剣身から激しい業火が生みだされる。
少年は剣を握ることでそれを理解し、使うことを選択した。
「──“火焔纏イ”」
燃え盛る炎は少年の身体を包み、鎧のようなフォルムを形成していく。
重量はまったく感じず、むしろ動きを補助してくれるように感じた。
「イケる、これなら……」
『何がイケるって? テメェには逝く選択肢しか残ってねぇよ』
獣は隙を見逃さず、少年の首を刎ねた。
コロコロと転がるその球体を──無慈悲に獣は踏み潰す。
ボッ ボボボッ
周りを見渡し、獣の隙を見つける少年。
紅蓮の鎧の補助を受けつつ、高速で移動を行い──一撃を見舞う。
「“真炎解閃”」
『チッ、クソが』
鎧となっていた炎が再び剣に戻ると、真っ赤な炎となって少年の一撃に乗る。
するとアイスに刺した熱したナイフのように、体をスッと通過していく少年の剣。
剣が足を通過した時、獣の足は切った先より下が焼き焦げて落ちていた。
『いい加減に理解しろよ。テメェは──』
「もういいんだ。ルミンがぼくを嫌いになるぐらいなら……死んだ方が」
焼き焦げた足をチラリと調べ、使いものにならないことを理解した獣。
炎の影響がまったくない部分まで前足を調べ、その部分までを自らの爪で切り裂く。
『ふんっ!』
気合と共に再生が行われ、獣の前足がもう一度その場に生えてくる。
そしてそのまま、少年の心臓を貫く。
ボボッ ボボボボッ
心臓を激しく脈動させながら、少年は必死に戦い続ける。
獣の足を焼き切ろうと、より高威力で足そのものを切り落とさなければ駄目だと知ってしまった。
「けど、再生力にも限界があるはずだ。それなら、そうなるまで焼き続ける」
『この、死に損ないが!』
真の意味でそれを理解したかどうか、今の獣にはそれが分からない。
大きくジャンプをすると、全方位に向けた咆哮を上げて少年の体を破壊した。
ボボボボッ ボッボボッ
『テメェはもう何度死んでる!? いい加減死にやがれ!』
「嫌だ! ボクを殺していいのはルミンだけだ! お前なんかに殺されてたまるか!」
全力で“真炎解閃”を放ち、獣の尻尾を切り裂く少年。
激痛に一瞬顔を顰めるが、獣は鋭い牙で少年を頭から貫く。
『──どうなってやがる。テメェ、いい加減に説明しろよ!』
ベチャッと地面に投げ捨てられた少年。
だが、すぐにボゥッと体に炎が燈るとチロチロと全身を炎が舐め回していく。
「……まだだ、もう一度」
すると少年は立ち上がり、再び獣へ戦いを挑み始める。
すぐにそれを殺す獣だが、そう何度も蘇られると厄介でしかない。
遠くでそれを眺めていた男は、隠すこともせずに質問に答える。
「簡単な話だ。アイツは、死の恐怖に打ち勝ち続けて立ち上がっている……それだけだ」
『ハァッ!?』
「いや、とても簡単な話だ。死ねば妹に会える、だがしっかりと戦ってしななければ妹に会うことなく体が消滅する……そんな風に考えたシスコンは、どう動くと思う?」
『そんなクソな方法で、このクソガキは俺を殺そうとしてるのかよ!』
男は少年の体に穴を開けた際、ある物を埋め込んでいた。
「(再生の焔)ってスキルを少し弄ったスキルなんだけどな。たった一つのナニカへ固執して、それを想うためだけに戦えば無限の戦闘力が得られるって代物だ。精神的にイジメておけば、こうなるって分かってたしな」
激痛に意識剥落、途中で覚悟を失えば最悪死ぬリスクもある。
だがその分効果は(再生の焔)よりも凄まじく、少年の体は内部から作り変わっていく。
「一芝居ご苦労様。あの娘には言ってなかったけど、俺には人の本質が視える。だからこの結果なんて、すぐに分かってたんだ……ほら、最終決戦かな? そろそろ暴走する力にも慣れてきただろ。最後に邪神の眷属を殺してレベルアップ。お手柄だな、少年」
ふらふらと立ち上がる少年からは、始めとはまったく異なるオーラが放たれていた。
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