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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と赤色のスカウト その09

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 必要以上に暴れ回る敵役。
 今回は、ソレの対処を行う羽目に。


「我ながら、偽善心というか良心的というか分からなくなってきた」

『死ねよ!』

「あーあ、こっちは殺せないってのに面倒な話だよな……そう思わないか」

『チッ、空間属性持ちか』


 転移眼が輝き、獣の頭部へ降り立つ。
 移動場所を変えればそこで死んでいたという事実が、獣を冷静にさせたようだ。


「初めまして、邪神の眷属。なかなか面白い劇をやっているようだな」

『なんだ、テメェはそれを止めたいとでも考えてる口か?』

「まさか! ただ……少し内容に不服があっただけだよ」


 別にさ、少年に悲劇を見せること自体は特に問題ないんだよ。
 いつだって主人公は、悲劇という感情の変化が激しいイベントで目覚めるのだから。

 ……けどさ、それは大衆向けの作品だけで充分だろ?
 モブが考えていた茶番には、そんな展開必要ないし邪魔でしかない。


「こんなのはどうだ? ──殺意に震える少年は、死んだ妹の復讐を遂げた。何もすることがなくなり、自殺しようとしたところでお告げが……」

『! クソッ、そういうことかよ!』

「悪いな。すでに舞台は則ったさ」

『俺様がここに来る所まで、全部テメェの掌の上ってことか!!』


 さて、君の選択はどういったものかな?
 願わくば、【希望】に満ちた道を歩めるように……。


  ◆   □   ◆   □   ◆

「──ハァ、ハァ……」

 血に塗れた一室。
 その家屋の中には、惨劇が溢れていた。

「……やった、やったよルミン。ハハッ、見てくれたかな? ルミン……なあ、ルミン。起きてくれよ……頼むからぁぁ!」

 生きる屍と化した少年と、死体となったかつての仲間……それに自身の妹。
 そこには血に塗れた屍たちが並び、血溜まりに伏せた様子が窺える。

 ……いや、一つだけ赤く染まっていない死体があった。

 妹の死体──少年はそれを、決して汚すことなく綺麗に保ち続けた。
 彼はその前に立ち尽くすと、その眼前で届かぬ手を伸ばしていく。

 触れたら妹が汚れてしまう。
 どれだけ復讐と自身を誤魔化そうと、それが妹の望んだことではない……そんなことは端から分かっていたのだ。

 だからこそ、守ろうとしたが故に何もできなかった。
 触れたら……何かを壊してしまいそうで。

「……ルミン。ぼく、もう疲れたよ。もう終わっていいかな? ルミンがいない世界なんて……ぼくに生きる必要ないよ」

 降ろした剣からはポタポタと雫が垂れる。
 涙が枯れた今の少年にとって、その汚れた液体こそが自身の眼から零れるべきものだったと自嘲した。

「あの獣に言われるまでもない。ぼくは、最初から間違っていたんだ。『虹の環』がぼくたちを廻り合わせてくれたなら……そのときは、続きを話そうか」

 剣を自身の喉に突きつけ、ゆっくりと構え始めた少年。

『────!』

 それを止めたのは、いったいなんだったのだろうか。

  □   ◆   □   ◆   □

 父親も母親も、蒸発した・・・・
 ぼくたちはそれから、ずっと二人だけで生きてきた。

『…………』

 嬉しいことも楽しいことも、ルミンは人並みに味わえなかった。
 生まれつきの病気が、いつも体の自由を奪い続けたから。

『…………』

 父親と母親がいなくなって、それからのぼくは冒険者として稼ぐようになった。
 初めは荷物持ちとして、誰かの後ろについていく。

 少しずつ雇用相手の動きを盗み見て、依頼が終わったらそれを再現し続けた。

 いつしかゴブリンでもスライムでも、どうにか独りで倒せるようになった。
 それからは……生きるためにできるだけお金を稼ぐようになる。

『………ん』

 あるときから、受ける依頼の難易度を上げるようになった。
 ──ルミンの病気を治せるかもしれない、そういった情報を知ったから。

 ウルフもホークも、少し傷を負うけど独りで倒せる魔物だった。
 今までよりも稼げたお金を貯めて、いつも通りの生活をする。

 変わらない日々だとずっと思った。
 それでも貯まっていくお金が、ルミンの苦しみを和らげてくれると思うと……少しだけだけど、勇気と力が湧いてくる。

『……さん』

 強い魔物ほど、希少な魔物ほど多額の報酬が貰えた。
 だからぼくは何度でも高難易度の依頼を受けて、お金がを稼ぎ続ける。

 それでも傷だけは、できるだけ受けないようにした。
 一度だけルミンがそれに気づいて、ひどくぼくを心配したから。

 無傷で依頼を終わらせないと、ルミンが悲しむことになる。
 だからぼくは死なないように、自分の限界なんて考えない無謀な冒険を続けた。

『……さん』

 ある日見つけた、調査依頼。
 今も使われている鉱山から、不思議な音がするから調査しろというものだった。
 高すぎる報酬に疑念を感じたし、これまでの勘が危険だと告げていた。

 ──それでも、依頼を受けた。

 あと少しで、ルミンの病気を治せる額に届きそうだったから。

『…いさん』

 だけど、それが間違いだったんだ。
 音の正体は邪神の眷属が封印を壊す音で、訪れた時にはもうソレは始まっていた。

 綺麗な魔法陣はズタボロに破壊され、絡みついていた鎖は引き千切られていた。
 ……そこからは、今に繋がるだけだ。

『兄さん!』

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