790 / 2,518
偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と赤色のスカウト その09
しおりを挟む必要以上に暴れ回る敵役。
今回は、ソレの対処を行う羽目に。
「我ながら、偽善心というか良心的というか分からなくなってきた」
『死ねよ!』
「あーあ、こっちは殺せないってのに面倒な話だよな……そう思わないか」
『チッ、空間属性持ちか』
転移眼が輝き、獣の頭部へ降り立つ。
移動場所を変えればそこで死んでいたという事実が、獣を冷静にさせたようだ。
「初めまして、邪神の眷属。なかなか面白い劇をやっているようだな」
『なんだ、テメェはそれを止めたいとでも考えてる口か?』
「まさか! ただ……少し内容に不服があっただけだよ」
別にさ、少年に悲劇を見せること自体は特に問題ないんだよ。
いつだって主人公は、悲劇という感情の変化が激しいイベントで目覚めるのだから。
……けどさ、それは大衆向けの作品だけで充分だろ?
モブが考えていた茶番には、そんな展開必要ないし邪魔でしかない。
「こんなのはどうだ? ──殺意に震える少年は、死んだ妹の復讐を遂げた。何もすることがなくなり、自殺しようとしたところでお告げが……」
『! クソッ、そういうことかよ!』
「悪いな。すでに舞台は則ったさ」
『俺様がここに来る所まで、全部テメェの掌の上ってことか!!』
さて、君の選択はどういったものかな?
願わくば、【希望】に満ちた道を歩めるように……。
◆ □ ◆ □ ◆
「──ハァ、ハァ……」
血に塗れた一室。
その家屋の中には、惨劇が溢れていた。
「……やった、やったよルミン。ハハッ、見てくれたかな? ルミン……なあ、ルミン。起きてくれよ……頼むからぁぁ!」
生きる屍と化した少年と、死体となったかつての仲間……それに自身の妹。
そこには血に塗れた屍たちが並び、血溜まりに伏せた様子が窺える。
……いや、一つだけ赤く染まっていない死体があった。
妹の死体──少年はそれを、決して汚すことなく綺麗に保ち続けた。
彼はその前に立ち尽くすと、その眼前で届かぬ手を伸ばしていく。
触れたら妹が汚れてしまう。
どれだけ復讐と自身を誤魔化そうと、それが妹の望んだことではない……そんなことは端から分かっていたのだ。
だからこそ、守ろうとしたが故に何もできなかった。
触れたら……何かを壊してしまいそうで。
「……ルミン。ぼく、もう疲れたよ。もう終わっていいかな? ルミンがいない世界なんて……ぼくに生きる必要ないよ」
降ろした剣からはポタポタと雫が垂れる。
涙が枯れた今の少年にとって、その汚れた液体こそが自身の眼から零れるべきものだったと自嘲した。
「あの獣に言われるまでもない。ぼくは、最初から間違っていたんだ。『虹の環』がぼくたちを廻り合わせてくれたなら……そのときは、続きを話そうか」
剣を自身の喉に突きつけ、ゆっくりと構え始めた少年。
『────!』
それを止めたのは、いったいなんだったのだろうか。
□ ◆ □ ◆ □
父親も母親も、蒸発した。
ぼくたちはそれから、ずっと二人だけで生きてきた。
『…………』
嬉しいことも楽しいことも、ルミンは人並みに味わえなかった。
生まれつきの病気が、いつも体の自由を奪い続けたから。
『…………』
父親と母親がいなくなって、それからのぼくは冒険者として稼ぐようになった。
初めは荷物持ちとして、誰かの後ろについていく。
少しずつ雇用相手の動きを盗み見て、依頼が終わったらそれを再現し続けた。
いつしかゴブリンでもスライムでも、どうにか独りで倒せるようになった。
それからは……生きるためにできるだけお金を稼ぐようになる。
『………ん』
あるときから、受ける依頼の難易度を上げるようになった。
──ルミンの病気を治せるかもしれない、そういった情報を知ったから。
ウルフもホークも、少し傷を負うけど独りで倒せる魔物だった。
今までよりも稼げたお金を貯めて、いつも通りの生活をする。
変わらない日々だとずっと思った。
それでも貯まっていくお金が、ルミンの苦しみを和らげてくれると思うと……少しだけだけど、勇気と力が湧いてくる。
『……さん』
強い魔物ほど、希少な魔物ほど多額の報酬が貰えた。
だからぼくは何度でも高難易度の依頼を受けて、お金がを稼ぎ続ける。
それでも傷だけは、できるだけ受けないようにした。
一度だけルミンがそれに気づいて、ひどくぼくを心配したから。
無傷で依頼を終わらせないと、ルミンが悲しむことになる。
だからぼくは死なないように、自分の限界なんて考えない無謀な冒険を続けた。
『……さん』
ある日見つけた、調査依頼。
今も使われている鉱山から、不思議な音がするから調査しろというものだった。
高すぎる報酬に疑念を感じたし、これまでの勘が危険だと告げていた。
──それでも、依頼を受けた。
あと少しで、ルミンの病気を治せる額に届きそうだったから。
『…いさん』
だけど、それが間違いだったんだ。
音の正体は邪神の眷属が封印を壊す音で、訪れた時にはもうソレは始まっていた。
綺麗な魔法陣はズタボロに破壊され、絡みついていた鎖は引き千切られていた。
……そこからは、今に繋がるだけだ。
『兄さん!』
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる