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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と赤色のスカウト その05

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「そーらーを自由に、飛ーびたーいな!」


 翼を生やし、はためかせ、大空を舞う。


「はい──ツバサー!」


 勢いよく空気に叩きつけた羽は、効率よく風邪を生みだして推進力とする。
 そしてそれを自在に操り、俺は空の上を移動するのだ。


「(アン×3、とっても大好き!) ドラ〇もんー!」


 最後は伏字にするため、音魔法でノイズを発生させておいた。
 前半はむしろ伝えるため、念話で送信しておいたのだが……。


《くっ、後半に意味が無いことが無念です》

「歌に託けて愛を叫んだ……俺にとって、それが限界点だよ」

《まだいけます。できるなら、ハグの歌の方で何度もお願いします》


 犬にも猫にもって、ヤツか。
 あれならむしろ、グラティルにやっておいた方がいいと思うんだが。


「──まあ、冗談は八割ぐらいここまでにしておこう。わざわざ歌で呼ぶくらいには、用事があったんだからさ」

《まあ、二割しかわたしへの愛は無かったというのですか。ショックです。あと八割を埋めるため、先ほどの歌を四回ほど、眷属全員い聞こえるようにしてお願いします》

「……カラオケ大会を、そのうちやろうか」


 知ってるか? カラオケだとチューリップの歌って、結構長いんだぞ。
 園児が習いそうな歌でカラオケを誤魔化そうとすると、ロクな目に合わない。

 話を戻し、移動しながら口を動かす。


「こっちで残った奴らを捜索するわけなんだが……因子だけぶっこんで、人為的に発現させるのって無理があるのか?」

《ナーラの中に眠る聖女因子(仮)。それはAFOの聖女と異なる存在ですし、あまりお勧めはしません》


 今の俺なら、人為的に聖女を増産することは可能となっている。
 ……適性が無ければ、その後どうなるかの保証ができないのが問題だけど。


「それでも、ナーラに因子を注ぐのは別に構わないんだろ?」

《この世界の聖女候補ですし、他世界の聖女の力を注がれても体が適応します。むしろ、能力向上が見込めるかと》

「だけど、適性も無い奴にAFOの因子は使用しちゃいけないと」

《責任を取るというならば、こちらとしても異論はありません。……別の意味では、あまり好みませんが》


 さ、さて、なんのことかな?
 アンがどういった夢を見ようと、不満を覚えさせる理由は無いじゃないか。

 先ほどの続きだが、眷属であれば適性が無かろうと無理に推し進めることで与えた因子に慣れさせることができる。
 マッドなサイエンティストも禁忌の学者もいるわけで……実験の方は、かなり順調にできたわけです。


「なら結局、候補を自分で見つける必要があるのか。覚醒済みならすぐに発覚するだろうし、俺の起こした騒動に一つぐらいちょっかいを出すだろうし」

《そういった反応は、検出されていません。メルス様の言う通り、調査が必要です。……眷属をお使いにはなってくれないのですね》

「危険……は無いだろうけど、こっちにも怪しい女神が居るんだ。できるなら、安全が確保できるまでは紅蓮都市で待機だな」


 初代聖炎龍の記憶で見た、女神の存在。
 カカはそれを黙秘するため、あまり手を出すつもりはない。

 神も万能じゃないから、俺が喧嘩でも売らない限りは妨害をすることはないだろう。
 むしろ全員を覚醒させるんだし、善行をしていると過言ではない。


「神聖国に候補はいなかったし、情報も集められなかった。まだ巡っていなかった場所まで向かって、発見するしかないか」

《必要ならば、干渉しますよ》

「分かってる分かってる。神々の黄昏ラグナロク的なことが起きたら助けてくれ」

《そうなれば、『神殺し』を全放出してでもお迎えに上がります》

「ハハッ! そりゃあ頼もしいこって。そんな事態にならないよう、気をつけておくよ」


 うん、眷属のほとんどは『神殺し』をすでに獲得しているんだよ。
 身内に神は数柱いるし、何より俺もいちおうは神だからな。


「それじゃあ、また何かあったら連絡するから。それまでは好きにしていてくれ」

《好きになってもよろしいのですか?》

「古典的なネタを……俺もアンも、とっくに両想いだろ」


 ……恥ずかしくなってきたので、念話を強制遮断モードにしておく。
 どうせなら、返事は帰ってから聞こう。
 いやまあ、直接言われたいだけであって、返事はもう分かっているんだがな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 洞窟の中で、少年は独り蹲っていた。

「……ポーションも切れた。もう、ここまでかな……」

 身に纏う衣服や鎧はズタボロで、握りしめた赤い剣はベットリと血に塗れている。

「まさかこんな場所に──邪神の眷属が隠れているなんて」

 遠くで聞こえてくる唸り声。
 少年はそれが近づいてくることを、正確に把握していた。

「全員、逃がすことはできた。あとはぼくがここを出るだけ……くっ!」

 先の存在にやられた脚が痛み、少年は耐えるように再び蹲る。

 すでに逃げることはできなかった。
 彼に残された道は──二つだけ。

「戦うか諦めるか……ぼくは絶対に、生きて帰らなきゃならないんだ」

 脳裏に映る一人の少女。
 その憂いを感じさせる小さな笑みを思い返し、立ち上がる。

「もっと……もっとぼくに、戦う力があったなら……」

 剣を杖のように使い、少年は洞窟の奥地へと進んでいく。
 ……生き残るため、生存をかけた争いを始めるために。

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