上 下
784 / 2,518
偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と赤色のスカウト その03

しおりを挟む


 空から人が落ちてくれば、当然注目を浴びてしまう。
 こういったとき、気が利く偽善者は隠蔽工作を行ってくれるぞ。


「誰も気づいてない……」
「というより、視覚でしかアンタたちを確認できなくなったんだけど」

「共有しているから見れるんだよ。それに聴覚だって、やらないと危ないからな」


 俺の場合は眼が特殊なのであらゆるものを看破できるが、片方はともかくもう片方が適応できるか分からない。
 簡単に言えば──細かいことを考えるのが疲れたので、最低限の偽装だけで済ませたってわけだな。


「さて、ここからは俺のガイドで街を練り歩くわけだが……どこか行きたい場所って要求はあるか?」

「えっと、何があるんですか? メルスさんに無理矢理連れてこられたので、そもそも分からないんですけど」
「むしろ、どうしてそこで要求できるの?」

「普通の都と大して変わらんぞ。ギルドはあるし、教会には聖堂も置いてある。そりゃあ城に連れてけって言われたら少し悩むが……可能な限り、案内はするつもりだぞ」


 現代っ子ならこんなとき、迷わず休んでいられるフリーWi-fiスポットに案内するよう指示するだろうな。
 そういった点でも、彼らは純粋で微笑ましく思えてしまうのか。


「それなら……あの、誰か武術を教えてくれる人の場所をお願いしたいです」
「オウシュがそういうなら……私は、ついででいいからさっきの魔法陣のことを知っている人をお願い」

「──それ、両方とも俺になるけど」


 少し、静寂が場を支配する。
 そもそもオウシュには適当なことではあったが、形だけも戦い方を教えた。
 結界に至っては、先ほど俺が説明をしていたのを忘れたのか。


「まあ、別の奴でもいいけどさ。ほれ、俺がいいか別の奴がいいか……選べ」


 二人は迷うことなく──別の奴を選ぶ。
 そのことに若干涙腺が緩くなりつつも、条件を満たす者たちが居る場所へ移動する。



 その場所は、都市の中央にあった。
 この都市のどこよりも赤く、そして紅く朱い建物である。


「──はい。正面に見えますは、この都市に建てられた城である『セッスランス城』でございます! 非常時の際は、ある魔法陣が発動しますが……まあ、たぶん使う日が来るのは訓練の時だけでしょう」

『…………』


 目を奪われる、とはこのことか。
 口をポカーンと開いたまま、呆然と立ち尽くす村のリア充カップル。

 ふっ、上から見ているとはいえ下からの景観も完璧だろう。
 しっかりと、仰ぎ見た際の見栄えもよくなるように工夫したのだからな。


「さて、それじゃあ入りますか。あ、二人が要求したのはこの国の姫様と天使様だから、挨拶は大切だ──」

『ちょっと待(ってくだ)(ちな)さい!』


 軽い雰囲気で城に向かおうとしたが……なぜか肩を掴まれ、彼らの居る場所まで引き戻されてしまう。


「えー、いったいどこにツッコむ要素があったんだよ。何もおかしいところなんて無かっただろ? なあ!」


 最後の部分は城の前で待機する衛兵さんに向け、大声で言った。
 その言葉の意図が分かったのか、二人居た衛兵さんの内一人が、手に持った魔道具へボソボソと口を動かし始める。


「メルスさん、普通の人でいいんです! わざわざお姫様に教わらずとも、ボク程度であれば限界に達しますから!」
「て、天使って……あの、伝説の!? こ、この国に天使様が居るの!?」

「……過剰な反応ありがとう。二人が俺よりも、上に見ている皆々様のことがよく分かって参考になるよ」


 ふ、ふん! 俺の方が、ご主人様なんだからね! ……たぶん、いちおう、メイビー。
 仰ぎ見ているその偶像は、どっちも俺の配下なんだから俺の方が偉い!
 うん、そういうことにしておこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 しばらくして、俺は一人体育座りの状態で蹲っていた。
 衛兵がオロオロとしているが……本当に、そっとしておいてほしいです。


「──天才というわけではないが、鍛えればどこまでも伸びるな。愚直なまでの修練を重ねたとき、君はその真価を知るだろう」

「は、はい!」


 視界の右側では、剣士同士が闘いながら教授とかしてるし──


「私も結界を防御に使いますが、流動できるようにすることが大切ですね。それに、柔と剛──受け流す力と拒む力を瞬時に切り替えることで、より効率の良いものに仕上がると思いますよ」

「あ、ありがとうございます!」


 左側は左側で、結界の運用法で盛り上がっている。


 ふんだっ! 俺なんかいなくとも、お二人はさぞ楽しそうでござんすね!

 いいんだ、別に。
 今回のスカウトは二人に満足してもらうのが目的であって、俺がちやほやされたいわけじゃないんだし……。
 さ、寂しくなんかないもんね!


「あの……メルスさんですけど──」

「気にするな、君も分かっているだろう。半分は構ってほしいという演技だ」


 ウィー、半分じゃないから。
 九割九分九厘、純粋な寂しさだよ。


「さすがの私も、あれはほっとけなくなるんだけど……」

「ご安心ください。メルス様には後ほど、あのような思いをすっかり忘れてしまうような喜びが訪れますので」


 レミルさんや、押しつけの喜びって案外本人が喜べない場合があるらしいぞ。
 サプライズを事前に知っておきたい奴とかがいるように、俺だって毎度毎度ドッキリだと対策に疲れるんだ。


 結局この後、応援に現れた眷属に慰めてもらうことで回復するのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...