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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と赤色のスカウト その01

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 赤色の世界


「久しぶりだな、オウシュ」

「あ、メルスさん!」


 やることも少し減っていたので、赤色の世界にやってきた。
 国の設立は順調に行っていたので、今回は一度関わったオウシュ少年の様子を窺いに来たのだ。


「調子はどうだ? 可愛い彼女と、共に並び立てているか?」

「か、彼女って……いっしょに居られるように、精進はしてますけど」

「そりゃあ凄い。俺みたいな凡人だったら、たぶんその覚悟は無理だ。圧倒的な才能の差は、いつだって人を狂わせる」


 例えるなら、眼鏡の昼寝少年と出来すぎな少年ぐらいスペックに差がある。
 それでも勝とうと足掻くのは、並大抵の覚悟ではできないだろう。


「ボクからしてみれば、メルスさんの方が逸脱しているんですけど」

「俺は超えてはいけないナニカを超えた。お前はそれを超えることなく、高みを目指そうとしている……そこが立派なんだよ。そういう意味じゃ、逸脱しているんだけどな」


 なにせ、(異端種化)なんてスキルの保持者だからな。
 俺自身普通のままの感性ではいるが、行動は異常だと理解している。

 ──そして、そのまま状況に対応している異常性も分かっているつもりだ。
 原因も理由もどうでもいいが、眷属たちが心配ならば考える必要があるけどな。


「ところでメルスさん、いったい何を? まさか、邪神の眷属がまたここに……!」


 ああ、そういえば説明していなかったな。
 オウシュの考える邪神=カカじゃないことだけでも、説明しておこうかな?
 そんなことを考えていると、別の者がここへ近づいてくる。


「──貴方がメルスね、オウシュから話は聞いていたわよ」

「ああ、オウシュの彼女さんか。病気が完治したようで何よりだ」

「だだ、誰がこんな奴のか、彼女よ!」


 そこで顔が赤くなる辺り、ほとんど予想はできているんだけどな。
 こうして言葉を交わすのは初めてだが……なぜだろう、知っている奴を思いだす。


「まあ、ちょうど良かった。二人に話したいことがあったんだ。聞いてくれるか?」

「はい!」
「……まあ、別にいいけど」

「小難しい大人の話はカットするとして、簡単に邪神の真実だけ言っておこう」


 何度かやると思って、予め総集編を纏めておいてあるんだ。
 今回はそれを使わせてもらおう。





 魔法で流した映像を消し、結論に入る。


「──と、いったわけだ。オウシュはただの一般人だったんだが、大切な彼女のために関わっちゃったわけだし……まあ、仕方ない」

「ちょ、ちょっとメルスさん!」


 ほれほれ、若人をからかうのはよくあることじゃないか。
 それくらい、許しておくんなさい。


「気にするな、ちょっとした僻みだ。それよりも、もっと気にすることがあるだろう」

「……聖女、私が」

「候補だけどな。覚醒したらそうなるんだろうけど、オウシュに救われた時点で通常の未来からは分岐している。オウシュが失敗し、生死の境で目覚めるのが通常のルート。……推測だから、気にする必要はないけど」


 他にもオウシュ死亡ルート、オウシュ脳死ルートなどがある……オウシュが死んで覚醒パターンが多いな。

 覚醒というイベントを引き起こすには、実際それ相応の悲劇が必要となったのだろう。
 オウシュが死なずに目覚めたパターンも、彼女的には幸福だがオウシュが不幸となって代償が支払われるパターンがある。

 ──結局、聖女という世界の主要キャラに関わるということはそういうことなのだ。


「メルスさん、この先ボクは……死ぬんですか? もちろん、寿命以外で」

「さぁな、お前の行動次第だ。だいたいの異常事態は彼女が治してくれるからどうにかなるだろうが、魂までころされるとなると……正直微妙だ」


 眷属であれば、俺がいくらでも代償を払って蘇生させるわけだが……リア充たちに面倒事を押しつけるわけにはいかない。
 まあ、そこは本人次第だな。


「さて、本題といこうか……これは頼み事であり、命令でも指示でも無い。そもそもお前たちは関係者ってだけで、俺の配下でも部下でも無いんだしな」

「御託は要らないわよ。それより、早くその先を言ってみなさい」

「──お前たち、俺の国に来ないか? 望むなら家族もいっしょでいいし、この村ごとでも構わない。そんな小さなことより、お前たちをスカウトする方が大切だ」


 うん、村一つ補うのは簡単だし……何よりそれをやるのは俺じゃないし。


「ス、スカウト……ですか? それに、メルスさんの国って」

「『終炎の海溝』に国を造ったんだ。お前たちに、そこで生活してもらいたい」

「終炎の海溝って……あの、伝説の!?」


 みんな同じ反応をするよな。
 まあ、入った当初の苦戦っぷりを思いだせば、納得と言えば納得なんだが。





「一度体験してみるか。無理矢理で悪いが、とりあえず転移してから考えてくれ」

「ま、またですか!」
「ちょ、ちょっと待って!」

「いやいや。思い立ったが吉日、それ以外はすべて凶日だって言うからな。早め早めに動いた方が、何事も得策だぞ」


 二人の肩を掴み、転移対象に含んだ状態で移動を行う。
 本邦初、お国の紹介を始めようか。


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