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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と初心者殺し 前篇

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 ボスまでの道はまだまだ遠く、今も彼女たちは戦闘を行っている。


「状態異常のミックスかー。ますたー、どう対応するのかな?」

「あの娘たちが頑張ってくれたお蔭で、秘薬が数本用意できています。最悪の場合は、それでどうにかする予定です」

「ふーん、秘薬かー」


 レシピだけは渡していたが、材料的な問題でまだ作れなかったはずだぞ。
 ……ああ、自分たちで素材を栽培したって可能性を抜いていた。


「あの娘たち、なんだか私の想像以上におかしな方向に進化してるね」

「師匠が歪んでいるから、その一部を継いでしまったのでしょう」

「……誰のことかな?」

「さあ、自分の胸に訊いてください」


 胸に口を生成して話すこともできるが、それをすれば本当に歪んでいる認定を証明してしまいそうなので止めておく。
 代わりに胸に手を当てて、パフパフと押してみる。


「うん、それなりにあるね」

「メル、それは止めてあげてください。向こうで……その、血の涙のエフェクトが幻視できますので」

「盛れるよ? 盛っとく?」


 ロリ巨乳になることもできるが、肩が凝るので最適なバランスを取っているだけだ。
 変身魔法は【色欲】の力の一片、異性の望む肉体だろうと好きに構成できる。


「この裏技で、体の免疫を弄れば状態異常にも耐えられる体になれるよ。あくまで変身だから、時間が経てば戻るんだけどね」

「空腹や酩酊にも効くんですか?」

「うん、当然だよ。代謝能力を弄れば、そんなこと余裕でなんとかなるね」


 無理矢理状態異常を引き起こす、といってもそれらの状態異常は対象の肉体の調子を変化させないと発生しないだろう。
 そこを逆手に取り、未然に空腹や酩酊状態になることを防いでおけば時間を稼げる。


「これは私みたいに自分の体を完璧に把握しておかないと、あとで大変なことになるからお薦めしないけどね」


 体を弄るとはそういうことだ。
 魔法なので時間が経てば元の状態に戻るのだが、違和感が使う度にどちらの状態でも起きてしまうだろう。
 望んだ体と現実の体、そのギャップに脳が少しずつ錯覚を起こしていくからだ。

 自分や眷属のパーソナルデータは、気持ち悪いと思うが{夢現記憶}の中に一定期間ごとに記録されている。
 それを使って回帰することが可能なので、違和感のない肉体を取り戻すことが可能だ。


「なら、他にいい方法は無いんですか?」

「そりゃああるよ、ちゃんと状態異常に関する対策を整えておけばいいんだから」

「装備スキル、それにわたしとプーチの耐性付与だけじゃ駄目なんですか?」


 それでも、今はどうにかなっている。
 それはあくまで初心者用のフィールドで、相手が状態異常に特化しているからだ。

 レベル差、それが状態異常の発生の確率に関与しているのだろう。
 俺も昔は無茶な状態異常のレベリングをしていたが、あれはあれで俺が弱かったからできたことなんだな。


「まあ、ボスまでもう少しってところだし。もう一度状態異常に対する策を考え直してみようよ。最悪の可能性を考えて、動かないと駄目だよ」

「……はい」


 こういった話はしっかりと聞いてくれるんだよな、Sっ気がないクラーレは純粋な生徒として指導ができるや。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 そして辿り着いた森の奥地。
 妖しく揺れる木々の中、一体の魔物がその地を支配していた。


「状態異常の対策はバッチリ、私はそう聞いていたんだけどなー」

「…………」

「あ、沈黙だったね──“解沈黙アンチ・サイレンス”」

「……か、カヒュー。た、助かりました」


 沈黙状態から回復したクラーレは、すぐさま周りの状態異常を治していく。
 重度の石化や麻痺、幻覚から解放された少女たちはそれによって動きだす。


「ますたーの魔法があれば、どうにかなるみたいだね。けど、ますたーが状態異常になるのはどうなんだろう……」

「うっ、詠唱封じへの対策は万全だったはずなんですよぉ」

「アイテム使用不可、詠唱不可、魔力操作不可……ことごとく封じられたねー。おまけに確率を無視した、貫通による状態異常の発生までできるみたいだし……これは、初心者エリアから行ける場所のボスなのかな?」


 見守っていただけだが、目の前の魔物が初心者殺しの名を冠するに相応しい存在だと理解できた。


『…………』

「安心して、私は何もしないから。貴方は私が手を下さずとも、彼女たちに……私のますたーたちに倒されるんだから」

「──あの、このままだと無理ですからね」


 ツッコむクラーレだが……たぶん可能だ。
 確実な方法としては、クラーレの固有スキルをフルに発動させれば余裕だ。
 完全な状態であれば、詠唱を必要とせずにどこからでも自在に発動可能だからな。


『…………』


 それがなんとなく分かっているのだろう。
 決して驕ることなく、初心者殺しの魔物はこちらの様子を窺いながら体を小刻みに動かしている。


「ますたー、やればできるよ」

「あの、魔物の正体はいったい……」


 初心者殺しは、クラーレたちには見えていなかった。
 つまり俺にしか、まだ発見されていない。
 ──だからこそ、不意打ちを受けて先ほどの状態に陥っていたのだが。


「どうやって見つけるのかなー、まずはそこからだね」


 この状況は、彼女たちをまた強くしてくれるだろう。
 そう確信している俺は、クスッと笑いながら彼女たちの抗いを見つめていった。


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