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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と返礼
しおりを挟む「えっ、海にはもう行かないんだ?」
「しばらくお休みということです。メルにアイデアを訊きたいと探してましたが……会ってないんですか?」
「ちょっと悩み事が多くってね、だからますたーにどうしろってわけじゃないんだけど、少し考えているんだ」
ヤンに説得(物理)され、頼み事をいくつか眷属に伝えてみた。
それは眷属に利があることではなく、完全に俺への利しかないことである。
だから受け入れてくれる者なんて、そういないだろう……まあ、そう思った結果が覆りすぎてビビったのが実情だ。
スキルの魔法化も魔法の魔術化も、小規模なものであればどこでも可能なこと。
そう言って一人一人が、今も仕事の合間に作業をしてくれている。
「頼ってもらえることが嬉しいのは分かるんだけど、そこまでのものなのかな? 人それぞれ、想いの伝え方は違うんだからさ、私みたいにすぐさま返す必要はないんだよ……」
俺は、自分が凡人であると理解している。
彼女たちが共に居てくれるのならば、それに応えるべく自身の限界など構わずがむしゃらな行動で感謝を示す。
だが眷属たちは、それに合わせる必要など無いんだ。
百の礼に百の礼をそのまま返す者もいるにはいるが、分割して十ずつ返す者や途中で充分返したと思う者もいる。
俺は眷属たちに、ゼロとは言わないがほんの少しだけ返してもらえれば満足なんだ。
先も挙げたが共に居ることこそが、俺としては最高の礼なのだから。
「少し……分かりますね、その方たちのお気持ちが」
「え?」
想いをつい零してしまうと、クラーレからそんな言葉が聞こえてくる。
憂う表情をした彼女は、ギリギリ聞こえるかという声の大きさがこう語る──
「メルの考えなんて、その方たちには関係ありません。メルがいつも全力で事に励んでいるなら、自分たちもメルに真摯になろうと考えているんです。メルがその方たちへ、変わらずに向き合うから……」
直接眷属のことを言ったわけじゃないが、慕ってくれる者と比喩して話をした。
だがたしかに、クラーレの言葉に心当たりがないわけじゃない。
真摯と言うのは微妙だが、全力というのはそれが当たり前だからだ。
「メルのことですし、どうせうだうだしていていたんでしょう。それをその方たちの一人に正されたから頼んでみた──というのが今回の経緯でしょうね。やると決めれば大胆なのに、どうして対人関係になるとそこまで卑屈なんでしょう……わたしみたいですね」
「ん、最後……何か言った?」
「いえ、気にしないください」
丸々会話だけでバレてしまったようだ。
卑屈、と言われればたしかにそうだろう。
モブでソロ活動ばかりだったが故、人と接するのが怖くて仕方ない。
もともとの俺はそういう人間で、どれだけ{感情}が本質を奪おうと本性が変わることはないだろう。
──いつまでも、俺という人間は愚かで小賢しいありふれた凡人なのだ。
はい、ここで終了としよう。
「ところでますたー、話は変わるけど」
「変えるんですか!?」
いつまでもシリアスムードというのは、偽善者としてどうかと思うからね。
そろそろいつもの呆けた俺に、戻させてもらおうか。
「うん、変えるよ。ますたーは真面目に考えすぎだよ。私がますたーの問題を気にすることはあっても、ますたーが私の問題を気にする必要はないよ。だって主なんだから」
「主だからこそ、気にするんですよ」
「……えっと、前にレイドイベントになりかけた森の戦闘があったよね?」
「無視ですか……ええ、ありましたね」
シリアスになりそうだったので、話題転換で誤魔化しておく。
はいはい、別の話題に行きますよー。
「あの二人の魔族が逃げた先が判明したよ。どうする、追っちゃう?」
「どんな場所なんですか?」
「海を渡った先に在る、船じゃ降りられない絶海の孤島なんだけど……距離だと、日本と外国ぐらいあると思うよ」
「……場所にもよりますが、遠いですね」
まあ、この世界の飛行技術は魔法もあってだいぶ速いからな。
ソウなんて、本気で飛べば物理法則なんて軽く吹き飛ぶ速度で移動するし。
「ますたーたちをそこに連れていく予定は皆無なんだけど、気になることがあってさー」
「気になることですか?」
「うん──グランドクエストのことなんだけど……」
さぁさぁ、魔族が逃げた先は島。
そこには同じく魔族が生息し、王と呼ばれる個体も確認されている。
「グランドクエストって、結局何を基準に進めているのかな?」
「どうでしょう……メルが犯人だったというあのアナウンスを除けば、それらしい情報はほとんどありませんからね」
「…………」
終焉の島から帰ってきたときに出た、ラスボスになるかの選択肢だな。
たまに眷属にイジメられるとボタンを押したくなるが、どうにか我慢しているぞ。
「たぶん、島には魔王みたいな奴もいると思うけど……それを倒せば、この世界はクエストを達成と見なすのかな? そもそも、私たちの敵ってなんなんだろう?」
「メルだと思いますよ、主に女性の」
まあ、ボケたりツッコんだり、現実ではありえない女子とのやり取りに心が癒える。
眷属は家族として扱うため、友のような存在にたまに餓えるのだ。
ナックルはお忙しい日々を過ごしているわけだし、クラーレに白羽の矢が飛んだわけである。
「……楽しいな。ますたー、私はますたーとこうやって会話をすることになんだか満足しているよ」
「そうですか? わたしは──全然満足していませんけど」
「そうなの?」
俺の心が折れることはない、それは当然のことだと思うからだ。
つまらない話しかできない男だと、数十年生きて理解している。
自己満足につきあってもらい、自身は満足できたが……クラーレにまでそれを求めるのは、やはり【傲慢】だったな。
「わたしを満足させたいなら、もっと精進しなさい。秘密を話せとは言いません、ただメルの本性を教えればいいのです」
「えっ? なんであのときみたいな──」
「わたしは、本性を話せと言っているんですよ。それすらも分からないのですか?」
「……は、はい」
まあ、モブのおかしな日常ならこんな展開もあるのかな?
とりあえずまたSになりかけているクラーレを見ながら、何を話そうか悩むのだった。
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