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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と暴風デート

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 第一世界 リーン


「無いって言ったのに……フラグ回収が早すぎないか?」

「あははっ! 好いじゃん好いじゃん! それとも何? メルスはあたしとのデートは嫌だって言うのかな?」

「そうじゃないけどさ……なんかこう、嵌められた気がしてさ」


 言った翌日にデートって……俺はどんだけ色情魔なんだろうか。

 いや、違うぞ。
 ちょうどリーンをふらふらしてたら、そこでヤンに遭遇したんだ。
 仕事も終わったと言うし、ならばデートをしよう……って、やっぱり色情魔なのか?


「嵌められた? 変なメルス。そんなのいつものことじゃん」

「そうだよな……じゃない。そこは否定してくれるとこだろ」

「ふふーん。そこを教えてあげるのが、このあたしのイイところだよ!」


 頭を突きだして来るので、はいはいと答えて撫で始める。
 むふーっと鼻息が漏れるぐらいには、喜んでいた。
 隠さない愛らしさが、彼女のヤンデレ感をいっさい感じさせないな。


「ところでメルスはなんでここに来たの?」

「特に理由はないけど……しいて言うなら、アイデア探し?」

「ふーん、アイデアか~。うん、そういうことならあたしに任せなさい!」


 何も説明していないんだが……ヤンデレだし、常時盗聴しているのだろう。


「ああ、それは助か──」

「ところで、なんのアイデア?」

「……聞いてなかったのか」

「ヤンデレにも種類があって、今のあたしに盗聴は必要ないのだ! ツーと言えばカー。阿と言えば吽の呼吸だよ!」


 どちらも心が通じ合う、的な意味だな。
 本当に通じ合うなら、俺のR18を避けている気持ちも感じてほしいものだよ。


「それは無理無理。メルスの本音、むしろ曝け出しちゃいなよ」

「これが本音です」


 夢の中の話とはいえ、あまり睦言を強要しないでもらいたい。
 ただのモブがリア充のようなセリフを言うためには、予習復習おべんきょうが必須なんだ。


「まあいいや。それよりさー、もっと楽しいことをしようよ! 息抜きもしないで堅苦しく考えてるから、全然イイアイデアが浮かばないんだよ!」

「……と言ってもな。そんな簡単に決められるなら、デートコースも余裕で決められるだろ。行き当たりばったりじゃ駄目か?」

「オールオッケー! メルスの愛がそこにあれば、このヤンちゃんは何も問題を抱かないのです!」


 全力で愛をぶつけられる……なんだか、複雑な心境になってしまう。
 そんな俺の想いを知ってか知らずか、腕を引っ張ってヤンが俺を動かす。


「ほらほら、そんな辛気臭い顔はしなくてもいいじゃん! メルスはあたしと、いっしょにデートを楽しもうではないか!」

「──ああ、そうだな!」


 ヤンの明るさに惹かれ、導かれ……少しは俺のテンションも明るくなれた気がする。
 引っ張られるだけの状態から脱却し、腕を絡ませて街の中を歩いていった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 暴風フィールド


「風が! あたしを呼んでいるよー!」

「ああ! そうだなー!」


 嵐が吹き荒れる中、俺たちは互いに大声で叫び合っていた。
 特に意味はないのだが、ヤンが──


『せっかくだし、声が掻き消えちゃうぐらい音がある場所に行こうよ!』


 とのご要望を挙げたので、このフィールドにやってきた。
 極寒でもよかったんだが……生憎今日は使用中だったので、こちらを選んだ。


「ところでー! メルスは何を悩んでいるのさー!」

「ああ? スキルの魔法化と、魔法の魔術化だよ!」

「ふーん! そうなんだー!」


 ……大声を上げるの、疲れてきたな。


「(──“遮音結界”)これでよし」

「えー! もう終わりー!」

「いや、ストップで頼む。……いや、そんな叫ぶ関係のスキルばっかり共有しないで」


 いちおうでも主だから、誰が何を借りているか分かるんだぞ。
 それでもヤンは予想通り、あるスキルの恩恵を受け取り──


「吶喊だー!」

「ゴブッ!」


 体が硬直した隙を突かれ、そのまま押し倒されてしまう。
 下半身を部分的に蛇に作り変え、そのままギュっと拘束してくる。


「つーかまーえたー! ほらほら、ギブならギブって──」

「ギブギブギブギブッ! 折れてる! 折れすぎて<物質再成>が連続起動しているぞ!」

「あっ、ごめーん」


 少しだけ緩めてくれるが、全身が拘束されてしまい動きが取れない。
 スライムになれば解放されるだろうが……そこまでして、抜けだす必要はないか。


「あのね、メルス」

「こ、このまま聞かないと駄目?」

「ダーメ。メルスはこうやって集中してないと、半分くらいしか認識してくれないんだから。今はこうされてて」


 そう言われれば、暴れる必要が消失する。
 大人しく脱力し、ヤンの話に耳を澄ます。


「──特に意味は無い! さっきのは少しシリアスムードを出したかったから!」

「……ヲイ」

「あはははっ! でもさ、今ので肩の力も抜けたでしょ?」


 そうだな、物理的に外されたからな。


「真面目な話……かな? あたしは細かいことを考えるのが下手だからさ。シーにツッコミを入れてもらうのがちょうどいいよ。メルスもさ、そうやって眷属にツッコんでもらっているでしょ?」

「……そうだな」

「詰まったって、袋小路じゃないじゃん。メルスは後ろを見て、影ながら見守ってる眷属たちに声をかければすぐに問題は解決。──だけど、それは嫌なんでしょ?」

「……そうだな」


 初めてのお使い、とは少し違うがそんなものだろう。
 過保護をしている側が言うセリフじゃないが、守られているだけじゃ耐えられない。
 これも何度考えたか分からないが、思考がある意味循環しているからな。


「さぁさぁ、メルスはあたしたちに何を頼むのかな~? ほらほら、言ってみなよ~」


 ぐぅの音も出ない大敗だな。
 手を上げ、本音を晒すのだった。

 ──あれ、これってデートだったよな?


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