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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と魔法決闘
しおりを挟む刹那の時に生まれいずる、万色の光。
そのすべてが俺を殺す意志と共に、流星のように降り注ぐ。
「やれやれ、どうしてこうなったんだか」
「──日頃の行いのせいよ」
俺の呟きに答えるのは、一人の少女。
天のような澄んだ瞳でジッと睨み付け、握り締めた杖と本を開きながら語る。
「アンタを倒す。ユウみたいに絆される気はないわ。一度でもアンタが完膚なきまでに痛めつけるまで……私は止まらない」
「うわっ、新手のイジメだな」
「その力をくれたのはアンタじゃない。そのお礼として、全力をお見舞いするわ」
地球と異なり魔力と呼ばれる概念が存在するこの世界において、彼女ほど魔法を扱うことに特化を求めた祈念者はいないだろう。
何も語らず口も動かさず、なのにさらに生まれる数々の魔法。
それらはいっせいに俺に向けて飛び交い、彼女の指示通りに自らの能力を発揮する。
「これで、どうだっ!」
「ふははははっ、この程度で俺を倒そうとは笑止千万よ! 喰らえ──“魔喰牙”」
俺も負けず劣らず、能力を使いそれらをどうにかしていった。
視界を合わせた場所に存在する魔法は、すべて何かに噛み砕かれたような跡を残して消えていく。
「喰らえ、喰らえ、喰らいつくせ! 無限の飢餓よ、俺に力を! ……なんて、言ってる敵キャラなんてどうよ?」
「素で言ってたらもう逝ってる人ね。特に、自称偽善者なんてそれに該当してるわ」
「好いじゃないか別に! 善いだろ、偽善者はカッコイイんだよ!」
そう言うと、フッと小さく嘲笑された。
いいもん、あとで眷属に慰めてもらえ……るのかな? むしろ哂われそうだ。
「……まあ、反撃といきますか」
自身の思考を並列・高速化して脳内で魔法の詠唱を行っていく。
体の中で魔力を操り、練り上げ──意図した場所で形を整える。
「覚悟しろ──『無限砲台』!」
「アンタ……よっぽど殺されたいようね。その二つ名で呼ぶんじゃないわよ!!」
互いになんだか熱くなってきた闘い。
まだ俺独りで闘えているが……これ、ずっと持つかな?
◆ □ ◆ □ ◆
そんな二人の闘いを見物するのは六人の少女たち。
ギルド『月の乙女』という組織に属するプレイヤーたちだ。
「あれが……最高峰なんですね」
「いけ~、アルカさ~ん! ぶっ殺せ~!」
視界の先では、自分たちと同じ年頃の少年少女が争っている。
手も足も使わず距離を取り、魔法という手段だけを用いて。
「魔法ならトップ──『無限砲台』のアルカさんと『模倣者』で『譎詭変幻』のメルス。普通、魔法だけならアルカさんよね」
「だが、あのメルスだ。私たち六人を相手にしても本気を出さなかったのだぞ? そう簡単に負けるとは思えないし……実際、あれだからな」
そう言って、爆撃が鳴り響く舞台へ耳を澄ませてみる。
『ふっざけんじゃないわよ! どうして当たらないのよ!』
『ふっ、坊やだからさ』
『私は女よ!』
互いに言葉をぶつけながらも、頭の中では緻密な詠唱と魔力操作を行って魔法を発動させていく。
両者ともに異なる点が優れている。
メルスはあらゆる属性を使いこなすこと。
アルカは一度に大量の魔法を扱えること。
メルスも同様に大量の魔法を放てるが、アルカが扱う数はそれをはるかに勝る。
「あれ全部無効化するのは無理だよね」
「コパンの魔法破壊も、多すぎちゃどうにもならないわよ」
メルスはそれを固有スキルによって、アルカはその圧倒的な数の魔法と(魔法相殺)スキルで無効化を行っている。
魔力はそれらを使いこなすため、共に異常な量を有していた。
そのため、彼らの闘いに魔力切れによる決着のつけ方は存在しない。
「予め撮影の許可は頂きましたので、やってますけど……これ、参考になります?」
「無理よ。魔法特化に極振りする気も、あんな異常者になる気もないしね。どちらかと言えば、二人共似てるのよ」
「似てますかね?」
もう一度チラリと見るが、やはり彼らはいがみ合いながら闘争を繰り広げている。
本当にそうなのか? そう疑うクラーレ。
「ここはゲームの中、けどあそこまで言葉をぶつけられる相手はいないわよ。リアルと違うからって羽目を外す人もいるけど、アレがそうじゃないことぐらい分かるわよね?」
「それも……そうですけど……」
「あら? もしかして、何か特別な理由でもあるのかしら?」
尋ねられたその質問に、一気に顔色を真っ赤にするクラーレ。
「そ、そそっ、そんなこと関係ないじゃないですか!」
「……まあ、最初に比べればだいぶ割り切れるようになってそうね。もう少し、手間をかけなきゃ無理そうだけど」
誰に言うでもなく、呟くシガン。
その言葉が何を意味するのか、それをまだクラーレは知る由もない。
◆ □ ◆ □ ◆
思考を通常状態に戻し、辺りを眺める。
「どうすんだよ……この荒れっぷり」
「知らないわよ。ダンジョンなんだし、一日すれば戻るんでしょ?」
「DPってのを消費するんだよ。なんでも無償で回復できるわけないだろ」
まあ、俺たちの戦闘で徴収した魔力を返還した分で、お釣りが出るほど溜まっただろうから問題はないけど。
「結局、今回も届かなかったわよ」
「惜しかったぞ。今だって、こうして食事をしないと頭が回らないし」
再度のモグモグタイム中です。
眷属のサポートがあれば必要ないが、やはりモブだけで闘うとなれば補助アイテムが必須となりそうだ。
「まあ、今回はこれで止めてくれ。眷属込みの力の解放なら、撮影もしたくないし」
「……そうね。今日の所は、ここで失礼させてもらうわ」
そう言って、自前の時空魔法を使用して彼女は帰っていった。
その後はクラーレたちを送還して、俺が夢現空間に帰るだけだ。
……反省点を、生かしていかないとな。
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