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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と二盾流

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 夢現空間 修練場


「ほげ~」


 気が抜けているが、それはいつも通りだと思われるだろう。

 クラーレに封印を施し、『ユニーク』に連絡を取ってある人物を引きだしたり……いつの間にか、と思える速度で済ませておいた。
 その結果が──この疲労である。


「たまには(浮遊)スキルもいいもんだな~」


 宙に浮かび、ふわふわと空を漂う。
 体の力を抜いて風を操り、仰向けになって移動中。

 ただ果てしない世界を仰ぎ、自分という存在がどれだけちっぽけなのかを感じる。
 ……眷属たちと自分を比較すれば、そんなことすぐに理解できるけどな。


「さて、もうしばらくこの時間を楽しも──どぅわぁぁぁぁっ!」


 独り言の途中だが、激しい暴風が俺の体を激しく揺らす。
 気流に呑み込まれ、このままでは浮遊が維持できなくなってしまう。

 慌てて風の中和を行い、すぐさま暴風の発生源を調べてみれば──


「うんうん、今日も激しい戦闘を繰り広げてますなー」


 レミルVSウィーの模擬戦が、そこでは行われていた。
 ウィーの斬撃をレミルが受け流し、なんやかんやの果てに俺の元へ風が届いたと……いちおう納得はしておこう。


「盾職を目指したレミルは、堅固な防御力。戦い続ける術を持ったシュリュの技術も学んだ結果──なんだか防御寄りなだけで、普通に狂戦士のようになってしまいました」


 レミルに渡した指輪の効果は、俺の持つ武術・武技を共有したり新しい武具を創造する効果がある。
 創造した武具にも指輪の効果が反映するため、レミルは盾だけでなくあらゆる武具を用いて戦うこともできるのだ。

 今は大盾と小盾をそれぞれ腕に嵌め、振り払われる剣撃を上空に流している。
 ……うん、戦闘に集中しすぎているのか?


「レミルは使徒とはいえ天使としてはまだ初期、ウィーも武術に関しては人のレベルに収まっているはず。眷属になってリミットが外れたとはいえ、なんでいきなり闘いが成立レベルまで昇華するんだろう」


 いや、まあ問題でもないんだけどな。
 能力値だけなら[眷軍強化]で補えるので、自身で制御できる能力値が高ければ高い程、強力な力を振るうことができる。

 また、リーの(実力偽装)を使えば、能力値の自由なコントロールが可能だ。
 釣り合わないなら合わせることもできるので、レミルがウィーと対等な闘いになるよう調整しているのだろう。


「盾と剣とか盾と銃なら分かるけど、大盾と小盾を使うのって新鮮だよな。しっかり視て覚えておかないと」


 レミルの戦闘技術は、そっくりそのまま俺の技術として身につく……わけではない。
 一度覚え、体に学ばせ、使いこなすことでようやく完璧となる。

 ティルによる剣聖級の剣捌きは未だに無理だが……それ以外の動きであれば、ある程度即座の再現が可能になった。
 チャルやシュリュから武に関する実体験を学び、魔導で召喚した強者たちから習っているのも大きいのだろう。


「──よし、少し動こうか」


 やることもなく、暇だったから宙で休んでいたというだけだ。
 少しやる気が湧いてきたので、闘いを始めても何も問題ない。

 ドゥルによる武具の呼びだしではなく、神性機人のスキル(再現武装)で武具を整えた。
 魔力と解析したデータさえあれば、あらゆる物を生みだせる。


「とうっ! 俺と闘おうぜ!」

「……明日は槍でも振るのかしら」

「失礼極まりないぞ、ティル。俺だってやる気になるときぐらいある」

「…………?」

「純粋そうに首を傾げるな。あるから、本当にあるからな!」


 独りで剣技を磨くティルの元へ、滑空して向かった。
 いろいろと言われてしまったが、剣だけはしっかりと構えてくれている。


獣聖剣フェンティエは使っていいの?」

「……まあ、こっちの武装を自由に変更可能にしていいなら別に良いけど」

「それで構わないわ。練習で使うと周りに多大な被害が出ちゃって……でも、メルスが相手なら問題ないわよね」

「信頼が怖い!」


 次元を斬り裂く剣聖の一撃を、修練場が何度も耐えきれるかと言われれば……YES。
 それでも周りへの被害が甚大なため、誰もいないときにしか使えないのだ。


「結界を張ってくれる?」

「あいよ(──“次元結界”)」

「ふふっ、ありがとう」


 結界を張るだけの係みたいだが、眷属の中でティルの斬撃に耐えられる結界を張れる者は少ない。
 それも数撃耐えられるだけで、ティルが満足する前に破壊される。


「壊すよりも生みだす方が難しいよな。ティルも少しは直す術を身に着けたらどうだ?」

「うっ……い、いいのよ別に。私は剣、一振りの剣よ。剣は傷つけることしかできない、直すなんて絶対無理」

「……何、その不思議理論。あと、こういうのがあるからな」


 そういって、生成した剣に回復魔法を籠めて自分を斬る。
 すると俺の細胞は活性化し、傷つくことなく体に癒えていく。


「神話でいいならそういう類いの物も大量に存在する。傷つける物だからこそ、癒しを与えるという考えがあったらしいぞ」

「……回復魔法は昔から使えないのよ。使い勝手があまり分からないの」


 まあ、最初に視たときは生活魔法と禁忌魔法しか習得していなかったからな。


「さて、話を戻すけど俺はティルに癒されるから剣なんて例えをしなくてもいいぞ。したいならしてもいいけど、そういった癒せる類いの剣にしてくれ」

「口下手ね。それ、言葉通りに受け取ってもなおのこと意味不明よ」

「ティルだからこそ、俺の真意が理解できるだろ? 尻尾を嬉しそうに揺れ──危っ!」

「み、見るな! 見るんじゃないわよ!」

「あ、危ない! 危ないから止めてぇえ!」


 フルパワーの斬撃によって結界が破壊されるまで、恐怖の攻撃は続いていった。


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