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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と固有酷使

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 若干のドキドキとスリルがあったものの、特に大きな問題もなくデートを終了する。

 チンピラや面倒な輩は予め処理をすればいいだけだし、素直に向き合う必要はない。
 スキルや魔法でスパッと解決できるため、アリィたちの索敵範囲内に悪意が入る前にどうにか処理を終わらせていた。

 アリィたちを夢現空間に送還すると、再び神殿に戻ることにした。
 そして待つこと数分──クラーレたちがどこからかボロボロな状態で帰ってくる。


「お帰りー。どうだったの?」

「…………あ、メルちゃん、でしたか。どうにか、達成できましたよ」

「うわっ、大変だったんだねー。シガンお姉さん、ますたーだけどうしてこんなに疲弊してるの?」


 他のみんなの負傷具合は、あくまで擦り傷などの軽いものばかり。
 回復魔法でどうにかしたのだろう。

 だが、クラーレのものはそれとは比べものにならないほどの負傷度だった。
 応急処置は済ませてあるようだし、種が発芽しているみたいだ……最低限無事は確保されているので、何も変わったようには見えないが。


「……いろいろあったのよ、いろいろと」

「?」


 シガンはそう答え、ノロノロと神殿を後にする。
 その気になれば、過去視で即解決する案件だが……ここはスルーで。
 代わりに鑑定眼を使い、レベルの限界値が増大していることを確認しておく。


「みんなおめでとー! これで一度目のレベル制限は解除だね! 今日はギルドハウスでお祝いだー!」

「メル……の手料理?」

「ますたー、そこはシーエお姉ちゃんの料理だよ。美味しいんだから」

「…………そうですね。シーエちゃんのご飯は美味しいです」

「これ、本当に大丈夫? シガンお姉さん」


 なんだかふらふらな気がするんだが……。
 意識はあるが鮮明じゃないみたいだし、千鳥足の要領で動いている。
 そんなクラーレの様子を見て、ディオンが肩を支えながらシガンに言う。


「これは、説明すべきだろう」

「…………そうね、そうするわ。ただ、場所は上にするわね。誰が訊いているか、絶対に安全な場所なんて少ないんだから。メルもそれでいいわね」

「うん、分かった」


 クラーレを連れて、すぐさま“空間転移テレポート”で移動するのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ディオンへクラーレを運び、彼女の個室の中へ押し込むように頼んだ。
 今は生産組が介護をしているだろうし、倒れてしまったクラーレも大丈夫だと思う。

 その間に俺は、戦闘組であるシガンたちに事情を尋ねておく。


「えっと、それじゃあ何があったか聞かせてもらえるかな? たぶん、固有スキルが関係あると思うんだけど……」

「! ……そういえば、貴方が最初に気づいていたのだから当然よね。そう、あの娘は自分の中に眠る力の一端に気づいた。そして小利のために惜しまず使ったのよ」

「いちおう制限は施してあるけど、どのレベルで使っても危険だからねー。……でも、まさかもう使っちゃうとは」


 クラーレの中には、俺の正体がバレる寸前に覚醒させたと思われるスキルが存在した。
 能力の本質は自己犠牲、要するに他者のために自身が傷つくことを厭わない力だ。

 段階を踏んで正しく扱えるよう、時間をかけて膨大数の封印術式を施したはずなんだけど……もう使えるようになったのか。


「急速なレベルアップ、それとあの娘だけが見たっていう存在が鍵ね。私たちは会ってないんだけど、必死に言っていたから間違いないわ。その辺は、あの娘自身から訊いてちょうだい」

「うーん……分かった。けど、どうしてあそこまでボロボロになるの? 会ったって人物がそこまでやった?」

「これは単純に、今回のクエストが問題なだけよ。戦闘関連のものを選んだのだけど、まさかあそこまで強いとはね」


 たしか、武の証明だったんだっけ?
 倒す必要はなく、あくまでその裁定員が認める行動を示せば合格となる。
 ……で、どうしてそうなるのさ。


「証明だけだと思っていたんだけど、もう少し厳しかったのよ。最終的に、あの娘に頼りながら戦って……どうにか倒せた。メル、あの娘は安全なの?」


 彼女たちは、不安そうな瞳でこちらを見つめてくる。
 それだけクラーレが、彼女たちにとって大切な存在である……そのことを示していた。


「シガン、今は寝ていれば大丈夫だよ」

『ホッ……』

「あとでもう一度入念に縛っておくけど、もう介入のせいで気づいちゃったからね。私が契約で押さえない限り、危険になる度に何度でも使いそうだし」

「だから心配なのよ。一度体験した痛み、あれを何度も味わわせるなんて」

「あれは本当に危険やヤツ。みんなが本当の意味で死にかけのときに使ったら起きる問題だよ。痛覚の軽減も試してはみるけど、そう簡単にはいかないだろうね」


 クラーレのスキルは、何度も言うが自己犠牲を糧に生みだされたものだ。
 どれだけ自分が苦しもうが、周りが救われるならば良しとしてしまう、彼女の善性を体現したような能力。


「成長を抑えることはできないから、別の方法でどうにかするしかないよ。一番いいのは自制することだけど……無理だからね」


 そんな聞き覚えのいい少女だったなら、俺もここまで深入りはしなかっただろう。
 ユウには会ったし、今度はアッチと会わせてみれば変化も起きるかな?


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