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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と面倒な神々

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「──それで、これからどうする? 最期の言葉はあれだったが、それ以外のことなら協力するぞ」

「……すでに貴公によって、新たな国で民たちも過ごせている。まだ民のすべてが幸福になったというわけではないが、休むべき場所はしっかりと用意した」


 いちおうの土地は俺が用意したんだが、それを実用段階まで進めたのはウィーである。
 王族としての資質をフルに使い、彼女は見事に王の遺言を果たしたのだ。

 だからこそ、本来はこんな胸糞悪い映像ではなくご本人からのお言葉を聞かせてやりたかった。


「肉体の破片か魂の残滓でもあれば、一度呼びだせたんだが……あの男が丁寧に消却したせいで、無理だった。魂は分からないが、それを呼ぶための体が一片たりともないんじゃどうにもならない」

「死者は天に昇るものだ。父上もアンデッドになるとは言っていたが、実際のところそれはないだろう。貴公がそうせずとも、父上はあの言葉だけで充分さ」

(いやー、それはどうだろうかー)


 父の執念というものは凄まじい。
 俺もミントに彼氏ができたというならば、眷属たちから全封印の解除をしてもらい、持ちうる全能の限りを尽くしてそれを阻止すると思う。

 まあ、奥さんがすでに死んでいるみたいだし、現世に留まり続ける理由もないだろうから大丈夫……だよな。


「場所は用意した。宝剣はウィーの元へ。慰めではあるが、男もすでに始末済み。あとは王様の墓でも造るべきか」

「王家の墓標が離れた場所にある。父上の名は、そこに刻もう」

「分かった。あとは再建に関する事柄についてなんだが……」


 話を詰めようとしたのだが……ウィーはそれを遮って話す。


「メルス、本当にこのタイミングなんだろうか? 神聖国が一時とはいえ騒動に追われ、偽りの邪神とやらもまだ蠢いている。私にはこの瞬間、整えるのは間違えだと思えるのだが……」

「俺としては、早くやった方がいいと思うんだが……まあ、より正確な再現をするなら時間をかけた方がいいか。同じ被害が無いように、魔法陣を地面に描いて結界を創ったりするのもいいかもしれない」

「そういった事柄は、放蕩の王ではなく頼れる者たちに相談しておこう」

「ああ、そうしてくれ」


 俺はただの投資家、国へ干渉するのは最小限にしておいた方が良い。
 代わりに眷属という超ハイスペックな女性たちを送っている時点で、傍観という言葉は似合っていないがな。


「──おっと、そうだった。ウィー、せっかく眷属になったんだ。一度夢現空間に来てみないか? 今回の件、報告ついでに情報を集めてみよう」

「それは興味深いが……まだやるべきことがたくさんあるではないか」

「……それなら今、眷属を派遣した。ウィーの業務ぐらいなら、片手間で終わらせてくれるだろ?」

 暇な眷属はそれなりに居る。
 俺が若干の労働をしいられるだけで動いてくれるのだから、頼もしい限りだ。


「そこまでしてくれるとは……まあ、いずれは訪れようとしていた場所だ。メルス、よければ案内してもらえないか?」

「ああ、そこら辺は任せておけ!」


 手を前に突きだすと、空間が歪み虚空に穴が生まれる。
 ウィーの手を掴んで引っ張り、俺たちは世界を渡っていった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 夢現空間 修練場


 案内の果て、ウィーは眷属たちと連戦を行うことになった。


「──はい、この場所の住民になってしまうのがオチでございます」

「君の眷属は研究か戦闘に没頭する者が多いようだな。そうならざる負えなかった……そういった者が主だが」

「強くならなきゃ生きてられない。そうなったときに二つの選択肢を取った。アイツらはその果てに生き延びた者たちだな」


 力があるならばそれを伸ばし、そうでないならば知識で補おうとする。
 それらが良い意味でも悪い意味でも神に見受けられ──偽善者が関わるまでに至った。

 黒い炎を揺らす少女……のような形をした神を撫でながら、話を変える。


「カカ、神格に変化は?」

「……僅かではあるが、上昇している。もちろん、正常な方向でだ」

「活動にも意味があったか。リーンにも新たな神像を用意したし、赤色の世界にも今後増やせると思う。蔓延しているホワイト教すべてを取り除くことは無理だし、それはしちゃいけないんだろ?」

「ああ、止めてもらいたい」


 理由は教えてもらっていない。
 ……というより、訊くのは止めていた。

 ──神様はいろいろなことを世界に住まう者たちへ強いる。
 眷属の大半は危険性から封印され、そうでない者もなんらかの制限を受けていた。
 ティルとソウは例外だが、それ以外の強者など全員そうした者たちだ。

 真実と義侠の神は暴れ、運命の女神は人々の運命を弄ぶ。
 邪神は凡人モブを主人公だと言い、変質した邪神は知らぬままに少女へ力を与えてしまう。


「──いつかあの世界すべてが繋がれば、知りたくなくとも知れるだろう」

「……記憶が欠けていなければ、注意できたのだがな」

「お決まりの縛りだろう。転生して神様の情報を撒き散らせられては、信仰を集めようとする神の迷惑だしな」


 カカの記憶。
 実際、カグに転生する以前の記憶は断片的にしか存在していなかった。
 奥底に眠っているのではなく、完全に封印されており復元不可能な状態……神様は厄介事ばかり持っているよな。


「神格が一定値を超えれば、今は見れない記憶も取りだせる。それまではメルス……絶対に無茶はしないでほしい。カグも悲しむだろうからな」

「あいよ、そうするさ」


 知らぬが仏、障らぬ神に祟りなし。
 とりあえず今は、ウィーの雄姿を見届けることに集中してみよう。


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