763 / 2,518
偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と過去のセッスランス 後篇
しおりを挟む「あれは……限界だな。いくら超人的な力を持っていても人は人。いちおうでも邪神の瘴気に耐えれた方が凄いぞ」
「父上は、最期の最期まで戦っていたのか。私は途中で力尽きたというのに……」
「そう落ち込むことでもないさ。視た限り、ウィーの父親はかなり瘴気への耐性があったみたいだ。これは何度も戦い抜いて鍛え上げたもの。半分ぐらいしか生きていないウィーにそれをやれとは誰も言わない」
もともと国王は、エリートと言っても過言ではない程に凄まじい肉体を持っていた。
それは赤色の世界に存在する選ばれし者に匹敵する、英雄の類いの力だ。
──だがそれでも、耐えきるのは難しい。
経験と意志でこれまで症状を捻じ伏せてきたようだが……ここで体が拒絶を起こした。
「瘴気への耐性が欲しいなら、ウィーの望む方法で習得を手伝おう。今はこの続きに集中してくれよ」
「……ああ」
「国は終わり、先代は死ぬ。最期がどうなるか──再生だ」
いったん止めていた夢幻の世界が動きだすと──王の顔から血が流れでる。
『……ゴボッ』
『それが人間という愚かな種族の証! 偉大なる祝福を身に受けることもできず! ただただ自滅する! これが愚か以外の何なんだろうね!』
高笑いする男。
瘴気に溢れたこの場は、奴の独壇場。
男は強くしぶとく、王は弱く衰弱する。
黒炎が渦巻く瘴気の世界の中で、それでも王は必死に抗う。
『……まだ、終わっ、てない!』
振るわれた剣は、轟ッ! と唸りを上げて辺りへ暴風を齎す。
ただの剣圧で炎を一時的に吹き飛ばし、最後の賭けに出る王。
炎が戻る前に男を斬れば王の勝ち。
それまで粘り、王が瘴気に完全に侵されれば男の勝ち。
『人間と言う生き物は、最後の最期まで抗おうと動くんだね。だけど、ドラゴンを相手にゴブリンがどれだけ攻撃しても意味が無いみたいに、どんな攻撃も無意味なんだよ!』
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
裂帛を上げて剣を振り回す王。
火事場の馬鹿力と言うべきか、これまでの動きをはるかに上回る勢いで翻弄していく。
『負けない! 負けるわけにはいかない! 守るべき国を! 愛すべき民を! 慈しむげき家族を! ──“限界突破”!』
そしてスキルの発動を紡ぎ、肉体の限界を超えた動きを行っていく。
痛覚は麻痺し、脳内に大量のアドレナリンが生成される。
血が滲むほどに剣を握り締め、体中のエネルギーを籠めていった。
『──“極斬撃”!』
王剣術の武技──“極斬撃”。
放たれるのはたった一度の払い。
だがそこに籠められるのは、これまでに王が振るい続けた剣の想いすべてが籠められている。
『くっ……魔物たちよ!』
さすがに不味いと感じた男は、膨大な数の魔物をこの場に呼び寄せる。
だが、炎が遠くに吹き飛ばされてしまったためか、そう魔物は多くない。
『これで、トドメだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
裂孔の限りを尽くし、放つ一撃。
その結末を、俺たちはすでに知っている。
『ふっははっ! お、驚かせやがって! 人間はやはり愚かな者だもの。じゃ、邪神様の加護を授かった超越者に勝てると思うな!』
『…………』
すでに限界突破の制限時間も過ぎ、王は満身創痍の状態だ。
それでも意志の力だけで体を動かし、魔物たちを捌いているのだから異常とも言える。
最初は慌てふためいていた男も、自分を殺す可能性を失くした王にニヤニヤとしながら近づいていく。
『んー? 何か言いたそうだねー? いいんだよ、死ぬ前に訊いてあげるよー』
『…………った』
小さく呟く王。
だがその声は男に届けるものではなく、独り言のようなものだ。
それからも王は何度か呟いていく。
一つとして、それが男に届くことは無かったが。
「それじゃあ、音声補正を施します。しっかりと聞いてくださいね」
だがここは夢幻の世界。
それぐらいのことは簡単にできる。
ウィーに王の言葉が伝わるよう、ボリュームを弄ると──
『ウィーゼル……すまなかった』
「父上……」
『この宝剣に賭けてまた会う。あのとき、そう誓ったのだがな』
死の間際、呟いたのは一人娘への謝罪。
奥さんはすでに他界しているらしく、妻の分まで娘を育てようと頑張っていたらしい。
『宝剣は王家に渡る。そういった呪いが施されているらしいからな。握っている限り、再会できると思ったのだが……届けられるのは剣だけか』
「届きましたよ、父上。この宝剣も、父上の想いも!」
『……耳も使いものにならないか。愛しい娘がここに居るようだ』
王様、見えているんじゃないだろうかと疑いたくなる……しかし、これは過去の記録であって再現では無い。
事実、男はいつまでもボソボソと呟く王に苛立ちを感じ始めている……自分で言っていいと言っておきながら。
『ウィーゼル。お前はいつか、この国を取り戻そうとするだろうか。お前のことだ、頼れる仲間と共にコイツも倒すのはなんとなくだが頭に浮かぶ。──そこに、心から頼れる者はいるか?』
「はい、居ますよ」
俺の方を見ながら、そう応えるウィー。
聞こえたか聞こえてないのか。王はその返答に笑みを浮かべて、最期の言葉を続けて述べていく。
『女性であれば何も言わない……が、男ならばアンデッドとして蘇ってでも阻むだろう。ウィーゼルの認めた者だ、少し捻くれてはいるが芯が真っ直ぐな者だと思う』
「……あのさ、特に未来が視えるとかそういうスキルを持ってないよな」
「そういった話を聞いたことはない」
なら、父だからできたってことだな。
そして、最期に一言。
『仇なんて討たずとも構わない。だが、どうか民たちに救いを齎してやってほしい。この事態を防げなかったことに民は被害者でしかないのだ。安息の地を、安住の場所を用意してほしい。……リンゼル、今向かうぞ』
「父上!?」
音声はカットするが、男が魔力を練り上げて魔法を使おうとしている。
死ぬことが分かったのか、どうやら亡き妻の幻影を見ているようだ。
『せめて最後に、ウィーゼルの花嫁姿が見たかった──』
「ち、父上!?」
違った意味で悲鳴を上げるウィー。
しかし、ここで夢幻の世界は解除される。
この先は……見ても吐き気がするような記憶しか残ってないからな。
(しかし……少し記憶以上に映像が再生できたな。魂の残滓は無くとも、想いだけは残留思念として残っていたのか?)
少なくとも最後の部分、あそこは初耳だ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる