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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と過去のセッスランス 前篇
しおりを挟む「……さて、だいたい把握した」
いちおうだが、男がこの国に瘴気纏いの魔物たちを送り込んだ張本人みたいだ。
首だけとなった今、奴が知られた過去の経歴をどう思うかは知らないが……眷属に関するものへ手を出していたんだから、仕方ないだろう。
「とりあえず一気に(──“聖神結界”)」
最大出力で浄化用の魔法を使い、この部屋に集まった瘴気すべてを洗っていく。
男が死んだ辺りが少し抵抗してきたが、それでも少し多めに魔力を籠めると消えた。
元の景観を取り戻していく王の間。
灯りが点いていないのがあれだが、聖神気が神々しく輝いているのでなんだか不思議と明るい。
「これでいちおう、全地域の浄化が終わったな。国外の地域はまだ終わってないけど、少なくとも内側はできた」
王の間から出て、バルコニーへ向かう。
そこから翼を生やして上へ飛ぶと、辺り一帯を俯瞰して眺める。
「浄化が終わったら次は再建か? 誰もいないし、ここはサービスにしておくか」
さすがに俺も、そっくりそのまま街並みを再現する魔法は持ち合わせていない。
建国魔法とも呼べる魔法はあるが、家の造りが違うから今回は却下だ。
「とりあえず確認しとくか……『ウィー』」
地上に降り立つと、白色の魔本を開いて少女を呼びだす。
かつてこの国を治めた王族──ウィー。
彼女は再び、この地に舞い降りた。
「──もう、終わらせたのか」
「最後にこんな奴が玉座に座っていたが……知ってるか?」
光魔法で幻影を作り、ウィーに見せる。
「声は──こんな感じだったかな?」
「! 覚えている。あの声に合わせて、魔物たちが動いているように見えたからな」
「こほんっ……。やっぱりそうだったか。記憶を奪ったんだが、この国を攻めている様子が映っていたんだ」
「そのとき、ソイツは──」
「いたさ。最後に王城に向かい、そこから瘴気の炎を廻らせたのも奴だ」
闘っているウィーの姿も一瞬映ったが、興味が無かったのか本当に少しだった。
それから男は少しずつ魔物に攻められるこの国を眺め、しばらくすると王城へ向かう。
そこで王を待ち構え──殺した。
「王様って、前で戦うものなんだな」
「この国は力がすべてだ。なれば強き者が前で戦い、あらゆる外敵を払いのける。死んだならばそれだけだったということになる」
「それでよく、王族が残ってたよな」
「それだけ一族が強かったということだ」
まあ、俺も戦う王様といえば王様だし、ある意味で似ているんだけどな。
王が何を望んでいたか、すべての魂を浄化させた今では分からない。
ただ娘のことを想っていた死んだ……そこは言わずとも、理解しているだろうか。
「父の最期は……勇敢だったか?」
「どっちがいい? 言葉でそのまま伝えるのと、その光景を観るの」
「……見せてくれ。王としての最期。次代を継ぐ者として──娘として、見ておきたい」
「あいよ(──“偽りの世界”)」
かつてシャインに使った合成魔法。
それを今一度使い──男から奪った記憶を彼女へ見せる。
◆ □ ◆ □ ◆
瘴気の炎が王都を包む。
俺たちはそんな景色を──空の上から眺めていた。
何もかもがリアルに感じられ、憂うウィーがなんとも俺の目を奪う。
「さて、ここは夢幻の中。これからウィーには国の最期を見てもらう」
「……ああ、頼む」
「それじゃあいろいろと端折って──王様が王の間に戻ったシーンからだ」
指を鳴らすと、空間が歪み辺りは王の間へ作り変わる。
玉座には先ほどと同じく男が座っており、辺りに闇色の炎が広がっていた。
『……賊が。瘴気を操る人が生まれるとは』
『やあ、よく来たな国の王よ。聖なる炎の加護を拒み、抗おう愚かな民の長』
『黙れ。貴様が引き起こした魔物の騒動はすべて片付いた。お前が死ねば、炎も無事収まるだろう』
彼女の持つ剣と同じ物を引き抜き、男の眼前へ向ける。
その者こそが──この国の王であった。
「父上……」
憂う彼女に悲劇を見せる。
罪悪感が込み上げるが、これも彼女が願ったことだ。
……せめてもの精神安定を施すだけで、あとは傍観しておこう。
『行くぞ、賊よ!』
『ふふっ、どうぞご自由に……愚かな王よ』
激しい戦闘が繰り広げられる。
宝剣を振るう王は、瘴気の炎から生み出される魔物たちを斬り払っていく。
気を操れるのか、いっさいの詠唱も必要とせず剣に力を宿して炎を振り払う。
何も動作をさせることなく、魔物たちはそのまま消滅する。
『まだ足掻くんだね……これだから愚かな人という者は』
『愚か? 魔物を使って後ろから戦うだけの臆病者に、それを言われる筋合いは無いな』
『ふっ……。ならその臆病者とやらに、貴方はやられることになるのさ』
『言ってくれるじゃないか!』
鍛え抜かれた肉体をフルに使い、王は抗い続ける。
この先にあるかもしれない勝利の可能性を手繰り寄せ、生き残るために。
「…………」
だからこそ、その娘も必死にその戦いを見続ける。
その先に何があるかを知っていようと。
──生き様すべてを、見届けるために。
『はははっ! そろそろ終わりだよ! いくらここまで力を高めた貴方でも、人間である以上終わりは訪れるのさ!』
『……ゴボッ』
王の顔から血が噴きだす。
──間もなく、国に終焉が訪れる。
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