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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者とチューンナップ

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「──とまあ、改良してみたがどうだ? たぶん、動かずとも変化が分かるだろ」

「たしかに、処理が早くなったね。けど、まだハードウェアとかいう私自体の改良もできるんだろう? 機械の体は一石二鳥だね」

「そもそも、存在自体がファンタジーな種族なんだよ。機械仕掛けなのにプログラミング技術が使われるって……本当ならどちらかだけで、両立はできないんだ」


 それこそ、機械仕掛けの星でも無ければ。
 魔導の技術が使われているのか、それが可能となっている『種族:魔導機人』。
 製作者は何者なんだろうか。


「アンとの明確な違い……俺は最初、それは機人自身の意思だと思っていた。まあ、それもすぐに覆す必要ができたけどな」

「なら、今はどう思うんだい?」

「作り方と到達地点だけだな。神の力を最初から宿した神性機人、やがて別の極地へ辿り着こうとする魔導機人。チャルなんて、もう神気を宿しているから極地にいる。さほど違いなんて無かったのさ」


 ただ、チャルは進化しても神性機人にはならないだろう。

 ──何度も言うが、導士に導かれているし作り方と到達地点が異なる。

 似たような性質を持つかもしれない……しかし、明確な差も生まれるはずだ。


「さて、次はハードウェア……というより歯車と回路の弄りだな。これはヤバいとチャルに悪影響がありそうだし、一度スリープモードに入ってもらうぞ」

「ああ、私をアンタ色に染めてくれ」

「……妙な言い方は止めろ。ほら、さっさと始めるぞ」

「ケチなご主人様だね。はいはい、分かりましたよ──スリープモードへ移行」


 チャルの瞳は何も映さなくなり、意志を奥へ封じ込めた人形に成り果てた。
 虚脱した肉体はとても無防備で、俺にすべてを委ねてくれていることがよく分かる。


「さて、チャルにここまでのことをさせたんだ。俺は期待に応えないとな」


 解析はすでに終わらせてある。
 歯車と回路の改良案も、<千思万考>でこの思考以外すべてが働いて作成済みだ。

 歯車自体に魔力が籠められているのだが、それを俺お手製の歯車と組み替えていけば変化を起こせる。

 その回路は彼女の内包エネルギーに関する物が多い。
 こちらが上手くいけば、高出力での攻撃や移動が可能となる。


「歯車自体は創作物からイメージを借りて用意してきたが……イケるか?」


 闇雲に突っ込むだけでは、おそらくチャルにも耐えられないだろう。
 適切な数だけ入れ、それ以外はパージできるように変更だ。


「チャル、お前はまだ強くなるのか……俺も頑張らないとな」


 小さく呟いてから、キーボードに向き合い作業を始めていく。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 修練場


 戻ってきた修練場では、再起動したチャルが体を慣らしている。
 主に格闘家スタイルの動きをして、用意した魔物と対戦中だ。


「ついでに入れといた日本武術、情報は使えるか?」

「ああ、すぐに理解できた。柔よく剛を制する、良い言葉じゃないか」

「……違うからな、少なくとも今俺が見ているのは別物だ」


 柔もどく業をせいす──柔術に似たナニカで魔物を一撃で倒しているだけにしか見えない。
 関節技を決めようとしてそのまま全身を粉砕する技は、柔術でも禁忌に近いだろう。


「いちおう俺の知識にある物、プレイヤーの一部に協力して集めてもらった戦闘データをインストールした。身体的な差異が問題だから、そこは早急に埋めといてくれ」

「アンタにしてはやけに詳しいと思ったが、そういう種があったのかい」

「まあな。使えそうなものがあれば後で言ってくれ。もう一回頼んでその武術に関する情報を集めてもらうから」


 そのときの報酬は……魔道具だったかな?
 まあ、すぐにできる物で満足してもらえたから、こちらとしても助かった。


「魔法も……使えるんだね」

「前に言われていたし、もののついでに放出用の回路に組み込んでおいた。チャルの戦闘スタイルと合わせて、とりあえずは握り拳でも出せるようにしておいたぞ」

「あとはいくつか知らないスキルも」

「それは歯車だ。オプション機能もいくつかあるが、それは起動したときのお楽しみに」

「私の体なんだがね……」


 身体強化など──体内循環の魔法は使えていたのだが、外に飛ばす放出系の魔法が使えていなかったチャル。
 今回の改良でその問題も解消し、体外へ魔法として魔力を放出できるようになった。

 スキルは歯車に組み込んで入れたものだ。
 歯車を配列などで変更可能なのだが、とりあえず彼女の体に歯車自体を慣らすまでは使用不可能としてある。

 その分、解放されたときのチャルの喜ぶ顔が目に浮かぶ……といいなあ。


「ふぅ……これぐらいにしておくかね」

「ボロッボロじゃないか──魔物が。せっかく召喚したのに」

「なら回復魔法をかけてやろうか? ちょうど試したくなってきたよ」

「……それもそっか。細胞まで意識してやった方がいいぞ」

「分かってるって──“肉体復元レストレーション”」


 ポワッと温かな光が魔物を包み、チャルにボコボコにされた跡が消えていく。


「完璧じゃないか。これならまたダンジョンで働けるようになる」

「初めて使ったんだが、意外と外に出すのは燃費が悪いんだね」

「そりゃあ、他の魔力を掻き分けて移動させてるからだ」


 この後は少し、魔法についてのおさらいをすることになる。
 ……天才という者たちは、どうして一を訊くだけで万を知るのだろうか。


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