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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者とチューニング
しおりを挟む夢現空間 修練場
「しかしまあ、上がってたなー」
彼女たちは無事、レベリングを終えた。
合計種族値は戦闘班が75、生産班が55になりスキルのレベルも急上昇。
魔物も大量の倒して金銭も大量……まさに一攫千金である。
「そろそろ、レベルキャップ解放クエストを始めるのか……どんななんだろう?」
俺の場合、{感情}に格納された固有スキルの影響でそれが必要なかった。
レベルキャップなど存在せず、今では当たり前のように三桁である。
なので逆に気になった。
少しずつ解放していくというのは、どのような方法でやっていくのかが。
そして──俺ぐらいのレベルになるのに、いったいどれだけのクエストを重ねるのか。
「ま、とりあえずは放置の方向で」
俺に受ける権利は無いので、彼女たちがそれを受けると言うのを待つ必要がある。
だからこそ、今はこうして夢現空間の中に居るのだ。
しかしまあ、それでもやることがない。
いつもの魔導で特訓する気はなんだか芽生えなかったので、ふらふらと彷徨っていく。
すると途中で、満身創痍なチャルを見つけたので近づいていく。
「……どうしたんだい、アンタ?」
「チャルか。そっちこそ何をした……って、戦闘関連か」
「機嫌の良さそうなソウがいたから戦ってもらったんだが、やっぱり強いのなんの。アンタがあの調子にしたのかい?」
「マッサージをしたからじゃないか? だいぶ凝ってたし、動きがよくなってただろ」
「なるほどね……生物じゃない私には縁のなさそうな理由だ」
魔導機人族の彼女は、疲れ知らずで戦える生粋の戦闘狂。
筋肉痛という概念は、知っていても経験はないだろうな。
「チューニングとかはしてるのか?」
「あー、してないね。自動メンテナンスの機能があるし、一定のスペックはいつも保てているからね」
現代の機械にそんな機能があったら、修理系の仕事は全部廃業だな。
「魔導と付くだけあって便利だな」
「アンには及ばないさ。神性機人、いつかは到達してみたいよ」
「まあ、同じ眷属だし方向は違うがたぶん神にはなれるんじゃないか?」
リーやギーという新人の神様や、リオンやカカという邪神様まで居るのが眷属だ。
導士の称号で変な方向に行ってしまうこともあるが、彼女自身が何かを強く望めば必ず到達できるだろう。
「そうだ。とりあえずチューンアップしてみるか? 調律はできても改良はたぶんできないんだろ?」
「そうだね。機能として相手への対抗策を用意することはできるけど、スペック自体を弄るのは試したことがないよ」
自分の体を自分で弄る……それはとても狂気的に思える。
まあ、因子を取り込む的な意味ではやっているし、最近はクエラムもやっているわけだが……。
「なら、チャルのオーダー通りに少し試してみるか。失敗は万に一つもないぞ、だって俺は元【生産神】だからな」
「神様にやってもらえるなら……少しお願いしてみるかね?」
「ああ、そうしてみろよ。何か変わって世界が視えるかもしれないぞ」
というわけで、一度修練場から移動する。
◆ □ ◆ □ ◆
修理室
機械神と機人神の加護を得た結果、たぶんこの部屋が解放されたのだと思われる。
中にはメカに関する機材が大量に置かれ、いつでも改造や改良が行えるようになっているのだから。
「まあ、適当な場所に座ってくれ」
「……こんな場所、初めて来たよ」
「チャルは修練場ばっかりだからな。これで何か変わったら、今度からは自分で行くようにすることをお薦めするよ」
部屋の奥に置かれた巨大なキーボードの前に座り、カタカタと操作を始める。
目の前のスクリーンが立ち上がり、複雑なプログラム言語が羅列していく。
「……よし、準備完了。チャル、そっちの台の上に寝てくれ」
「あいよ」
「一度全体をスキャニングするから、目を閉じて待ってろよ」
そう伝えてからキーボードを操作し、設置されたスキャン装置を動かしていく。
チャルの全身を隈なく調べ尽くし、画面上に詳細を表示する。
「もう終わったぞ。……自己申告があったように、劣化などの問題はいっさいない。だけど無茶な戦闘が多いからな、僅かながら損傷が蓄積してるみたいだぞ」
「あー、眷属になる前の分は寝ている間に直したけど、それからのはまだだったかい」
「というか、世界最強のドラゴンになんて挑むからカバーしきれないんだろ。神様の用意した設備だから直せるが、もう少し調べてからにするぞ」
「アンタの好きにしてくれ。こういう細かいのはよく分からないからな」
<千思万考>を起動して、より詳細な情報を集めていく。
機械仕掛けの体なため、そのパーツにほんの少しだけダメージが存在する。
パーセンテージにすれば小数点以下の損傷なんだろうが、チャルのような精密機械にはそれも大きな差となるだろう。
「──よし、とりあえずこんな感じか。そっちに情報を送ったぞ」
「……こりゃあ、なんとも。メンテナンスと修復機能だけじゃどうにもならないんだね」
「異常を異常だと気づかなきゃ、それを直すことはできないだろう。少しメンテナンス機能を改良すれば、直せると思うぞ」
「なら、そっちもお願いするよ。強くなった方が、もっと楽しめるからね」
「あいよ、少し時間が待っててくれよ」
まずはいくつかのソフトウェアを改良していくか。
画面を弄りながら、そう考えていく。
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