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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と処女航海 前篇

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 カルモ海


 潮風を浴びながら移動は続く。
 燦々と照りつける太陽の光は、暖かなこの時間をよりゆっくりと感じさせる。


「いやー、平和だねー」

「そうですねー」


 突然だが、クラーレたちは海へ進出した。
 今回は生産室に籠もっていた少女たちも連れだし、レベリングも兼ねた遠征だそうだ。
 そこには複雑な理由……はないので、簡単に説明しよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

「誰かさんのお蔭でしょうか、船がレンタルできるようになって海上の依頼も受けられるようになりました」

「……みんな、私の方を向いているのはなんでかな?」

「船の設計図をあの娘たちに渡していた誰かさんのお蔭で、わたしたちは幸いにもその依頼をレンタル無しで受けられます」

「だから、なんでこっちを向くの?」

「本来ならば申請を受理する必要がありますが、そこは先日なぜか現れたユウさんと済ませているので問題ありません」

「あ、今度は眼を逸らした」

「レベリングです。メルにはみんなが安全にレベリングできるよう、協力してもらいますからね」

  ◆   □   ◆   □   ◆


「──レベリングって言っても、具体的にはどれくらい上げる気なの?」

「フォルちゃんたちは15、わたしたちは5は上げてもらいたいです」

「本気でやれば簡単だけど……間違いなく死ぬからねー」


 クラーレたちの平均レベルは70。
 生産少女たちの平均レベルは50。

 クラーレたちは……なんだか厄介事に手を出し続けた結果。
 生産少女たちはいろいろ作りすぎた結果、急速にレベルアップしたのが原因だ。

 プレイヤーのレベル限界が一度80で止まることを考えると、かなり高いことが分かるだろう。

 なのにそれをまだ上げるって……いったい何を目指しているんだ?


「マーヌ、例の物は?」

「バッチリ」

「アルミーも?」

「イエース!」

「なら大丈夫かな? ……魔力はみんな足りているし、いちおう試してみようか」


 悩んでいてもレベルは上がらない。
 すでに海に出ているし、魔物の反応も知覚している。

 試すだけ試して、駄目なら諦めようか。



 大砲、それは男のロマンだ。
 火薬の燃焼力を使って弾丸を飛ばし、その運動エネルギーと爆発で相手にダメージを与える兵器。

 AFOにもそれは実在しており、海戦などでよく用いられている。
 ……なお、火薬は錬金術の産物だ。

 生産少女たちに造らせた船にもそれは組み込んであり、設計通りに作れば使用者に強大な力を与えるように仕込んでおいた。


「──なぜなら、魔法陣が組み込まれているから!」

「……さすがに絶句です」


 サーチ&デストロイ。
 同じく取り付けたソナーの反応に従い、少女たちは大砲に手を当てる。
 大量の魔力が吸い取られて少し顔色が悪くなるが、それでも準備は整う。

 大砲はソナーと連動して目標に狙いをつけると、集めた魔力を何倍にも増大させて弾として使用する。

 そして勢いよく──飛ばす。


「撃てー!」

「ヤー!」


 コパンが発射用のスイッチを押すと、中で噴射用の魔力が噴き出して砲弾が飛ぶ。
 火薬ではなく魔力を弾丸としたそれは、水中の中だろうとお構いなしに対象に迫る。
 危険を察知して逃げる魔物だが、逃げ切ることもできずに炸裂。


「はい、これで海蛇シーサーペントの討伐完了! 依頼の分はこれで最後だよね?」

「どれだけ威力が高いんですか! MPの消費が激しいとはいえ、さすがにあれと同じ分消費する魔法でも倒せませんよ!!」

「増幅回路を組み込んでもらったからね。籠めた魔力の数倍は内包されてたよ」


 アルミーとマーヌによる合作。
 錬金技術と機械技術、二つを合わせた魔力増幅回路が大砲には入れてある。

 こういう難しいのもあるから、船の完成にはまだ時間がかかると思っていたんだ。
 まさかここまで早く作り上げるとは……。


「あ、浮かんできた。シガン、早くあそこに行って行って」

「結構難しいのね。その分スキルはすぐに上がるんだけど」

「……おまけに船自体が魔道具なんて、乗るまで気づきませんでした」


 もう一度言おう、だからすぐに完成しないと思っていたんだ。

 船そのものが魔道具の塊だというのに、なぜあの娘たちはすぐに造ったのだろう。
 ゆっくりと手を付けていれば、もう少し完成に時間がかかっただろうに……。


「というより、なんで少し籠めるだけでこんなに稼働するのかしら」

「安心の錬金技術と機械技術、それらを合わせた副産物でございます」

「……安心って単語が安心に感じられないのはこれで何度目かしら」


 浮かんできた海蛇の死体の元へ、シガンが船を操って移動させる。
 魔力で動くエンジンが内蔵されており、誰かが籠めればそれだけで移動可能だ。

 シガンが操っているのは、(操縦)スキルのレベリングのためだ。

 大砲で(射撃)や(砲術)、他にはこの船そのもので(機械操作)や(魔力操作)のレベリングまでできるからな。
 必ず一人一つは何かを行い、一気に成長させている。

 ──(教導)があるのですぐに上がるんだ。


「ますたーもみんなといっしょにレベリングしておきなよ。……そのうち、あっちのみんなも耐性に目覚めて動けるようになるし」

「……そうですね」


 俺たちの見つめる先、そこでは(乗酔耐性)の習得を求める者たちが休んでいた。


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