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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と魔法の布
しおりを挟む結局、商品はいっさい売れずに店仕舞い。
やることもなくふらふらと町を彷徨ったのち、一つの建物を訪ねる。
「ごめんくださ──」
「師匠!」
「……ユウ、お前にはレーダーでも付いてるのか?」
「ちょうど外に出ようとした時に、師匠が訪ねてきただけだよ」
まあ、細かいことは考えない方がいいか。
それより本題に入ろう。
「ナックルは居るか?」
「うん、居るよ。すぐに呼ぼうか?」
「ああ、急ぎじゃないからゆっくり待たせてもらうぞ。あまり急かすなよ」
そう言ってソファにどっかり座ると、ユウは目を瞑り集中する。
ウィスパーじゃなくて念話にしたか。
「さて、ゆっくりとお茶でも──」
「ま、待たせたな!」
「……いっしょに茶でも飲むか?」
「あ、ああ……た、頼む」
ドタバタと階段を降りる音が響き、ナックルが俺の向かい側のソファに座る。
結局慌ててきたようなので、疲労回復用のポーションを混ぜたお茶を飲ませておく。
「落ち着いたか?」
「……ああ、だいぶ」
「なら平気か。安心して話ができる」
「…………落ち着けなくなりそうだな」
「そう言うなって。たぶん、そっちにも有益な情報も含まれてるからさ」
一度茶を口の中に含み、その美味しさに舌鼓してから話を続ける。
「──サルワスの海は繋がった。船があればとりあえず外へ向かえるようになった」
「らしいな。進展速度が速いところから察するに、お前の仕業だろう」
「そうだけどな。だから──これをいちおう渡しておく」
「……なんだ、これは。俺には布にしか見えないんだが」
「『スキーズブラズニル』のレプリカ……というかパチモンだ。どうせ、それだけで全部理解できるだろ」
AFOの開始初期から、ギルド運営をずっとやってきたリーダーだ。
それだけで俺が何を言いたいのか、そのすべてを把握する。
「……海を渡らせるだけが目的じゃないと。今度はどんな面倒事の用意だ」
「ただのサービスじゃないか。そこまで疑われると心が折れるぞ」
「宇宙船で無かっただけまだマシか……何を用意すればいいんだ?」
何やら諦めムードで受け入れるナックル。
仕方ない、もう少し餌を増やそう。
「情報、それだけで充分だ。レンを介せばすぐに伝わる、情報をランク別に分けて高ランクを取ればダンジョン入場券が手に入──」
「最大はどこまで行ける……言え!」
「前の赤ずきんの情報でA級、『偽・世界樹の迷宮』ぐらいだな。S級なら『千尋山』にしておく」
「……となると、神ぐらいは必要か。気が長くなりそうだが、どうにか集めてみる」
「頼んだぞ」
そう言って、席を立つ。
もっともAFOをゲームとして進めている『ユニーク』の奴らなら、俺とは違う角度で神を見つけてくれるだろう。
「あれ? 師匠、もう行くの?」
「やることは別に無いんだが、またクラーレたちの所に行っといた方がいいかなと思ってさ。ユウが代わりに行ってくれるなら、今日はゆっくり休めるんだが」
「……弟子の使い方がおかしくない?」
「隠蔽してけばバレないんだし、せっかくだから行ってみたらどうだ? というか、やっぱり行ってもらうか」
「えっ、どういうこと?」
ちょうどクラーレが呼んでいるし、代わりに向かわせよう。
「──よし、これで完成」
「あの、師匠」
「どうした、我が弟子よ?」
「僕の足元がなぜか光ってるんだけど……どういうことかな?」
「強制転送だ」
覚えてろよー! という声を聴きながら、再びお茶を啜る……うん、美味しいな。
「……あれでいいのか? ユウの奴。たぶんだが、さすがにあの扱いには怒るだろ」
「アイツには、可愛い物好きという業があるだろ。そこを突けばほぼなんでも許される」
「……少し違うと思うがな」
「そうか? まあ、アイツはアイツでやることはやってくれる奴だし、任せておけば大丈夫だろう」
困ったときは、[スキル共有]でも使ってくれればほぼ解決だ。
というか、本当に不味い時は念話で連絡してくるか。
「──あ、そうだ。ノロジー居るか?」
「ああ、居るぞ。ギルドに調査を頼まれた薬物の調査をしているらしい」
「うーん……遅かったか。もう解決したって伝えてから呼んでくれ」
「……お前はいつも騒動の中心にいるな」
「昔は自分からそうしていたが、今は巻き込まれてるだけだ」
そして呼ばれたノロジー、渡した資料を見て唖然とする。
あったことを纏めるとこんな風になるな。
「……これ、調べるのにどれだけかかったんですか?」
「数十秒」
「…………もういい、ログアウトする」
「待て待て待て! ほらほら落ち着いて、ここにあるチョコレートも食べていいから!」
「…………もうやだ、この人。時々何かしてると思ったら、本当にロクなことをしない」
『天粉』の調べすぎて疲れてるみたいだ。
魔法で精神を整えてから、チョコを融かして口に含ませる。
「落ち着けって。美味しいだろ?」
「…………うわー、甘いー」
「ナックル、これはもう駄目だな」
「もう帰った方が良い。ユウとアルカから、お前が自分の固有スキルをとっくに進化させている、と聞いたときぐらい落ち込んでる」
「…………美味しいなー、旨いなー」
「うん、駄目だなこれ」
ノロジーに見せるべきだった資料をナックルに預けておいて、この場を出ていく。
……こっちもこっちで多忙そうだな。
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