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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者とボス
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少しの間、二話投稿にして補う予定です
更新は午前・午後の12時とします
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始まりの町 路地裏
「旦那、最近忙しかったんですかい?」
「ああ、いろいろと立て込んでてな。まあ、それも落ち着いたしこうして納品をやりに来たってわけさ」
「……アッシらはともかく、最近ボスがこれに依存し始めましてね。旦那にどうにかしてもらおうって相談したかったんですよ」
「そりゃあ悪いことをしたな。体に悪影響はなんもねぇけど、使いすぎるとやっぱ体に響くぞ。どうにかして隠せねぇのか?」
「あの人相手に隠し事なんて、サブさんとアニキと旦那ぐらいでっさ」
今日は久しぶりの裏路地であり。
ちょうど『ハッピーポーション』の納品もあったので訪れてみたが、ボスが依存症になりかけるという危機的状態みたいだ。
……何度も言うが、依存性のある成分は入れてない。
「サブさんもアニキもむしろ自分たちが飲んで協力してますし、旦那ぐらいしかいないんですよ。どうにかできませんかねぇ」
「無理だ。俺はここを借りている立場だ。なのに約束の品を出しといて飲むなってのは、さすがに駄目だろ」
「そこをなんとか! このままじゃあの人、会話の所々に『ハッピー』か『ポーション』が付いちまいそうなんです!」
「……そこまでひどいのかよ」
「祈念者の騒動に関する纏めに、ひどく疲れているらしくて……」
町の裏ボスが、プレイヤーの厄介事を鎮圧するために頑張っていた。
同じプレイヤーとして、なんだか罪悪感が湧いてくる理由だな。
「俺じゃあどうにもならん、あの二人にどうにかしてほしいと俺が言っていたと伝えておいてくれ。願いを聴いてくれるなら……そうだな、和菓子か洋菓子、どっちか好きな物を一つ作ってやるともな」
「旦那のですか!? あの、食べただけでボスが昇天したという!?」
そんな凄そうに語られてもな……。
あの頃はまだ、職業として【生産神】に就けていたからか?
「あのときは働き詰めだったんだろ? やけにそのあとはスムーズに話が進んだが、俺のお菓子程度で二人がその気になるってんなら少しはやる気になるさ」
「それ、ボスにも頼めませんかね?」
「二人が説得を終えて、二人が要求した物と同じ物でいいなら構わないぞ」
それを聞くと彼は、俺に礼を言ってから空間魔法で消えていった。
あんなふざけた口調だが、組織の中でもかなり上の人だからな。
「あの人、口癖が『ッス』にならなきゃいいけど……」
なんだか、モフモフ好きの獣人娘みたいになりそうだからな。
しばらくすると、客が現れる。
いつものように無駄に腹の立つオッサンを演じながら売ろうとしているのだが、やはりまったく買う気配が無い。
復讐者の彼ぐらい、何かに燃えていないと買ってくれないのかね?
「ったく、誰も買いやしねぇ。もっとマシな客は来ねぇかねぇ……」
結局客は何も買わず、この場を去った。
クレームは吐けなかったので、手を出させずい放置……命拾いしたな。
「──見つけた」
「ん? 客か……って、アンタは!」
さらに時間が経つと、どこからともなく少女が現れる。
身長は小学生ほど。
アンのようなアルビノの体を持つ華奢な彼女だが、瞳だけは爛々と輝かせて俺の前に立つと──
「ケーキと大福だ」
「……あの二人が、ですか?」
「ああ、だからわたしにもそれを寄越せ」
「…………少し待ってくださいね」
言われるがままに“空間収納”からそれを取りだし、皿に載せて差しだす。
「とりあえず辺りは浄化と偽装をしたんで、バレないとは思いますよ──ボスさん」
「お前もウッスも心配しすぎだ。わたしがいなくとも町は回るし、わたしがいなくともサブかザヤが回してくれるさ」
「二人共愚痴ってましたぜ、ボスが自分を大切にしないって」
「知るか。わたしの価値はわたしが決める、そしてそれは無価値だと定めた。だから裏方に徹しようとしたのに……今大人しくしているだけで満足しろ」
「満足してる人は、店まで乗り込んで物を要求したりはしませんよ」
目の前でパクパクとお菓子を食べるその少女こそ──始まりの町を支配する、裏のボスその人である。
初めて会ったときはビックリした。
まさか少女がボス、なんて創作物の王道みたいな展開に遭遇したんだからな。
「なら乗り込んだ理由を簡単に済まそう──どうやって『青』と関わった」
「祈念者絡みの案件で会いました。そしていちおうリーダーの座を奪いました」
「なら話が早い。うちのリーダーとしても働け、わたしはお菓子だけあれば充分だ」
こんな適当な報告で、すべてを理解してしまうのだから天才は末恐ろしい。
お菓子で懐柔できている現状にも、何か裏が無いか疑ってしまうよ。
「後ろでウッスさんが驚いてますから。それにあちらも代理として、元のリーダーが働いていますので同じ状況ですよ」
「構わん。建前上でも変わっておけば、文句は上に取らせろと言える」
頭が良い、その才で上に立った少女。
眷属と同じくらい頭がいいので、世が世ならば封印されていただろう。
おそらく言葉以上に深い意味があるのだろうが……俺にはさっぱりなので直勘に従って話し合っていく。
「貴女を必要とする者はいくらでもいます。少しでも自分の価値を上げるならば、引き受けることにしましょう」
「そうか。わたしの体に価値はあったか」
「そういうことじゃないんですが……少なくとも、こういうことがあまりないように控えてくださいね。こっちも立て込むことが多くて、なかなか来れませんし」
「祈念者ならば仕方がない。ウッス、そろそろ帰るぞ」
「へ、へい!」
少女はウッスの肩に掴まり、転移の光と共に消える。
……あの人、忙しすぎやしないか?
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