749 / 2,518
偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と経験値ボーナス
しおりを挟む彼らは結局、人間らしい言語を出すこともなく消滅していった。
:言之葉:を使ってスタンバイしていたんだが……食欲に関する単語しか、終ぞ言ってなかったんだよ。
討伐されるのも仕方がない、そう目を背けてクラーレたちのために誘き寄せ続ける。
「もういっちょ行くよー!」
「まだいるんですか?」
「あと……三十匹ぐらいかな? 周辺の海域からアレを駆逐するなら、ますたーたちがスパパッとやっつけちゃった方がいいよ」
「駆逐する気はなかったんですけど……またリポップしますよね?」
「そりゃあもちろん。あくまでこの時間だけの話だよー。殲滅ボーナスってたしか存在してなかったっけ?」
「……『殲滅者』の称号は、ソロの方にしか与えられませんよ」
え゛、あれソロ専用だったの!?
貰えるスキルがレアだったし、まあ納得と言えば納得なんだが……。単独で殲滅する必要があったのかー。
「殲滅ボーナスね……そういえばそんなものがあるって噂があった気がするわ」
「そうなんですか、シガン?」
「検証班の努力の賜物よ。何度も色んなやり方でさまざまな魔物を狩り尽くして、経験値がどれくらい貰えるか調べたらしいの。ちょうどそれに、必要なスキルが発現したとか記載されていたけど」
「それで、殲滅ボーナスが有ったと……」
「フィールド上の魔物を一気に狩り尽くしたとき、心なしかいつもより経験値が多く手に入ったらしいのよ。他にも気づかれない状態で攻撃した際の暗殺ボーナス、相手の弱点を突いて倒した急所ボーナスもあるらしいわ」
へー、知らなかったなそんな概念。
とにかく倒せば{感情}様が経験値を異常な量に変換してくれる俺にとって、そういう細かいことは考えなくてもよかったし。
暗殺者なんてボーナス貰いまくりだな。
隠れて人の首でも狩れば、ガッポガッポの大儲けじゃないか……あ、だからこそPKがいるのか。
そうこうしていると、ノエルの索敵範囲に牽引してきた魔半魚人が侵入する。
すぐに存在がバレると、シガンの指示の元殲滅戦が開始された。
「さてさて、漂流物回収は上手くいっているのかな?」
手持無沙汰なので、神眼でゴミ拾い中のプレイヤーたちの様子を窺う。
せっせと流れ着いたアイテムをインベントリの中へ収納しては、また別のアイテムを探しに行く。
無機物感知系のスキルを持つ者は、迷うことない動きでポイポイと仕舞っているな。
「あーあ、揉めちゃってるよ。みんな金が無いのに海外なんて高望みするからこうなるのにね。金が無いなら諦める、それかなくてもどうにかなる別の方法を探せばいいのに」
それかいくつかのパーティーで協力して合同で船を買うとか……たぶん、もともとはそういう仕組みなんだろうし。
個人個人が大航海時代を始めるのではなくて、手と手を取り合って力を合わせて大海原へ出ることが望まれているのだろう。
たとえ海賊プレイに走ったとしても、それの方が一度の殲滅で済むからな。
「でも船か……みんなが遠出をしたいと言ったときには俺も手伝うべきなのか? それをやらないために弟子的な存在を用意したというのに。造船技術は教えてないんだが……そもそも、彼女たちにできるのか?」
根本的な問題だった。
いくらスキルが有っても、知識が無ければ完成しない。
俺のようになんとなく作成方法が分かるならともかく、普通の学生が造船技術を学べているというのはかなりレアケースではないだろうか。
……そのうち、教材を置いておこう。
◆ □ ◆ □ ◆
サルワス
無事依頼を完遂した彼女たちには、かなりの額の報酬が与えられたらしい。
そりゃあ殲滅なんてことをしていれば、結構な額になりますよね。
「メルはどれがいいと思いますか?」
「本音を言えばそれ全部よりも、私が作った物の方が品質いいよね」
「……それもそうですけど。メルがいると自給自作という概念が崩壊しそうです」
現在『月の乙女』は買い物中。
俺を連れたクラーレもまた、町の至る所を巡っている。
ただ、品質がな……どうにも納得のいく物がないんだよ。
「それに、私じゃなくてもあの娘たちでもこれ以上の品質で作れるよ。少なくともB以上のアイテムだけだね」
「『生産を極めし者』……恐ろしい効果ですね。初めて作る物であっとしても必ずBを超えるんですから」
「そういえばそうだよねー。最近はSか測定不能しか見てないから忘れてたよ」
「……一番恐ろしいのはメルでした」
まったく、ひどい言われようだ。
ある程度生産に慣れたからこその結果なんだから、ある意味当然なんだぞ。
それに、B以上が確定だとしても耐久度とかは技術相応の物になるんだから、使おうとしても使えない……なんてこともあるぞ。
「ますたーたちは船が欲しい?」
「そうですね……欲しいと言えば欲しいですけど、メルが用意したギルドハウスが飛べますから……」
「それもそうだねー。エリアボスとはしっかりと戦わないといけないけど、上から一方的な攻撃ができるからもほとんど勝ちが確定してるy──」
「やっぱり普通に船を買いましょう。なんだか罪悪感が湧いてきました」
まあ、さすがに俺もこれは分かる──少しだけ、やりすぎちゃったなと。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる