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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と取り戻す声

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「無駄にイケメンになった俺……何? あれが俺の理想像?」

「君の、じゃなくてカグのだね。カグにとって君は救世主であり守護者。夢の中の自分を守ってくれる存在として彼を配置したのさ」

「おにーちゃん……だめ、かな?」

「「構わないさ! ……ん?」」


 自分と同時に別の場所から声が……と思えば、もう一人の自分だった。
 ここでドッペルゲンガーだ、とか本物は俺だ、というイベントが普通は起きるのだろうが……。


「せっかくカグが作ってくれたんだしな。よし、そっちの夢の俺」

「なんだ? 現実の俺」

「お前の任務はカグを守ること。そこに問題はないな?」

「ああ、まったくない」

「なら簡単だ。俺の術式でカグの精神領域にお前を刻み込む。憑依霊とかスタソドみたいな感じだな」

「……よし、それじゃあ頼む」


 どっちも俺なので話は早く進む。
 ただ夢版の俺はカグ限定の守護者であるため、別の眷属はあくまでおまけだ。

 こうして交渉を持ちかければ、すぐに応じることもなんとなく分かっていた。


「カグ、大丈夫か?」

「おにーちゃんがまもってくれるの?」

「お前が必要としなくなるまで、いっしょに居ようじゃないか。安心しろ、カグの嫌がることはしないさ」

「……うん。ありがとう、おにーちゃん」

「「可愛いなー、カグはー」」


 そこら辺の感性は同じだな。
 互いにもう一人の自分をジッと見ると、ガシッと腕を交わす。

 すると、夢の俺は小さな飴玉に形を変えていった。


「はい、完成。あとはこれにちょいちょいっと細工を入れれば……よし、できたぞ」


 夢の俺は当然現実だと活動できなくなるので、こっちでそれが維持できるように細工しておく。

 俺そのものを突っ込むことはカグの体にも多大な影響を与えてしまうので、弱体化させてカグの意志に従う存在にしてみたぞ。


「あとはこれを呑み込むだけだが……嫌なら止めて良いからな」

「ううん、おにーちゃんがまもってくれるんだもん。にがくてもがんばってのむね」

「……いや、いちおう甘くしてあるぞ」


 勇気を振り絞り、俺が渡した飴玉を口に含むカグ。
 その甘さに少しビックリしてから、ゆっくりと口の中で溶かしてから嚥下していく。


「リア、ここは興奮した方がいいのか? 可愛い女の子が自分を食べてくれるって」

「そうだね。それはそれで一部の男性を刺激しそうな状況さ。……ただ、巨人族に食べられる小人族をイメージすると、それも簡単に覆ると思うよ」

「…………ああ、うん」


 どれだけロリの巨人だったとしても、さすがにそれは無理だな。
 ケースを眷属の場合に絞れば、俺はそれでも構わない気がするが。

 とにもかくにも呑み込んてくれた。
 鑑定眼で確認して視ると、しっかりと擬似精霊という形で定着している。


「擬似精霊というと……微精霊が集まってできた存在だったかな?」

「具現化魔法で魔力を微精霊にして、それを擬似精霊という形に押し込んだ。あとは夢の俺を組み込めばできあがりって寸法」

「相変わらず不思議なことをするね」

「そうか? 頭の良い奴なんて、俺以上に奇想天外なアイデアの宝庫だろ」

「君もその一人さ。それに、天才とアイデアの宝庫かはまた別の才能。いくら天才と呼ばれる人でも頭が固ければ柔軟な発想なんて生まれないさ」

「それもそっか」


 これにはすぐに納得できた。
 一時的に天才みたいになれる今の俺だが、柔軟な思考なんて全く持てないからな。

 頭が固いというか諦めが悪いというか……本当、いつまでも変わらないんだよな。


「おにーちゃん、もうないの?」

「飴ならまだあるけど……せっかくだし、自分の夢を自由に操れるようになろうか。掌に飴があるイメージをしてみるんだ」

「わかった!」


 リアに付き添いを頼んで、明晰夢を操れるように修業してもらう。
 ある程度でも感覚を掴めた方が、“夢現返し”をやったときに意識を保てられそうだからな。

 カグが修業をしている間に、俺は最終段階の作業を進めていった。



「おにーちゃん、できたー!」

「おおっ! 凄いなカグ! さすが、俺の自慢の眷属だな」

「えへへ」

「うんうん、可愛いぞー」


 頭を差し出してきたので梳くように撫でておく。
 ……これが最後の声になるかもしれないので、しっかりと覚えておこう。


「(リア、始めるぞ)」

《うん、了解したよ》


 アイコンタクトと念話で連絡をしてから、カグには内緒で実行する。


「(──“夢現返し”)」


 夢と現実の境は曖昧に、現は夢へ夢は現へ裏返る。
 ただし、歪みをカグに察知させないように最大限まで気を遣ってではあるが……。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「……な、なあ、カグ」

「──ん、どうしたのおにーちゃん?」


 俺とリアはその質問に歓喜を感じる。
 たが、まだ完璧ではない。
 精神状態を確認しながら、少しずつ本人に自覚させる。


「もう少し、頭を撫でていいか?」

「ぼくも構わないかい?」

「うん、いいよ。おにーちゃんもリアおねーちゃんもどうぞ」


 二人で頭を優しく摩りながら真実を話す。


「あのな、カグ。言わなきゃいけないことがあるんだ」

「どうしたの? おにーちゃん」

「もうね、君は声で悩まなくていいんだ」

「え? どういうこと……っ!」

「ああ、その通りだ。だってここはもう、現実なんだからさ」


 修練場の隅で、俺たちはカグを撫でる。
 精神状態が一瞬不安定になったが、そこは魔法で平静な状態に少しずつ抑えていく。


「どうだ? ……平気か?」

「大丈夫、君はもう話せるんだ。あとは言ってみるだけだ」


 二人で言葉をかけて、カグの声が出るかを慎重に尋ねる。

 そして──

「……あ、ありがとう」

「「おおっ!」」

「お、おにーちゃんもり、リアおねーちゃんも、ありがとう。わ、わたし……こ、こえがだせるよ」


 今日、カグが声を取り戻したのだった。


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