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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と神聖国浄化作戦 その06

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「──弱い。私はこのような輩に捕まったというのか」

「落ち着いてください。まだすべてが終わっていませんので」

「……そう、だったな。すまない」

「いえいえ、お気になさらず」

 騎士たちが倒れ伏した中心で話す二人組。
 平然とした顔で、それが当然だと言わんばかりの振る舞いであった。

「き、貴様ら! こんなことをしてもよいと思っているのか!」「早くここから去れ!」「ここをどこだと思っている! 法王様が居られる神聖国だぞ!」

「ええ、ですから来たのですよ。先代の毒を払うこともできず、ただ食い止めることしかできない法王を救うために」

 男は外套を脱いで……そう言った。
 血のように真っ赤な司祭服、首から不思議な方陣の装身具を下げた仮面の男であった。

「お前は! あのときの!」「まだ証拠にもなく生きていたのか!」「! ならばそこにいるお前は!」「『姫将軍』か!?」

「宝剣で気づけず、自身の向かった闇オークションで思いだすとは……つくづく腹を立たせる者たちだ。本当に、救う価値などあるのだろうか」

「ありますよ。生きとし生きる者すべてに価値はあります。だからこそ奴隷として売られた貴女も今では、立派に内政をしているではありませんか」

「……放蕩王が働かないからな」

(やはり司祭どもは向かっていたのか)

 スノー家の当主にして、法王の補佐役である男は思う。
 闇オークションと呼ばれる裏社会の祭りに司祭の誰かが関わっていることには感づいていたが……複数だとは思ってもいなかった。

(そして現れた女性、彼女が『姫将軍』だとは。国が滅んだあとは消息不明だと聞いていたが、司祭どもの手によって捕まり闇オークションで隣の男に落札されたのか。……いや待て、ならどうして──っ!)

 男が思考に没頭する最中、彼女は外套を脱ぎ去っていた。
 紅い髪を光に透かし、女王のような気品を放つ少女。

 ──奴隷の証である首輪を嵌めておらず、主人である男に無礼な言葉を告げている。

(解放されている。男にとって縛りつけておく必要はない、そうであっても困らないだけのナニカがあるというのか……)

 奴隷に首輪を嵌めず、従わせることは一部の物好きのみ行う趣向だ。

 どれだけ自分の元にいることが居心地の良いことかを知らしめる、証明にもなるからである。

「──しかしまあ、そろそろ本題に入るとしましょう。ああ、先に無駄なお喋りをしている方はお静かに」

『────!』

「口を動かせるのは法王様、それにそちらで私たちのことを調べようとしている補佐役のお方だけですよ」

「……気づいていたか」

「すべて、神のご加護ですよ」

 やりづらい相手になりそうだ、そう彼は思いながら男と話し合う。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──まあ簡単に言えば、貴男の娘さんに依頼を受けました」

「!? 娘に、だと……」

「伝言もありますよ──こちらがそれを録音した魔道具です。魔力を籠めれば再生されますので」


 訝しげにしつつも、娘からのメッセージともあっては取らざる負えない。
 法王に危険が及ばないように距離をとってからお父さんは魔道具を再生する。

 すると──


『えっと……これで聞こえるんでしたね? お父様、私です。リリーです。私はそちらにいらっしゃるノゾム様という方を信じてみます。お父様でも見つけられなかった初代様が記した聖書、それを民たちにお配りになられていたのですから。『救わぬ者よりも救えぬ者と関われ』、そう記されていました。お父様、どうかご決断を』


 録音はここで止まり静寂が訪れる。
 法王もお父さんも沈黙したまま、何かを考えこんでいる。

 ちなみに、彼女の真意に関して……俺は未だに理解できていない。
 スノー家の者が純粋にこの国のことを想っているのだろうか、それともまた別の理由が存在するのか?


「いい方向に向かえばいいのですが……先に作業を始めましょうか」

「彼らの前でアレを行えば、あらぬ誤解を生みそうだな」

「なので少しやり方を変えます。残念ですけど、一々刺す必要はありません」

「それは……とても残念だな。だが、奴らが生まれ変わる様子で解消するとしよう」

「そうしてください」


 バレないように不可視の毒霧を流して、結界内に封じた司祭たちに吸わせる。
 暴れていたがだんだんと大人しくなっていくので、外からはそのままの状態を幻覚で見せておく。


「さて、ここからが本番です」


 一人一人に糸を繋ぎ、記憶を丁寧に洗って・・・いく。
 調べることと意識改善を同時に行い、少しでも真っ当に生きていた頃があるならばその意識を上書きする。


「普通ならこれで全部済むのですが……いちおうは聖職者を目指していたのですから。しかし、彼だけは例外ですね。すでに憑りつかれております」

「……放蕩王、それは?」


『姫将軍』が尋ねるものは、体から禍々しい瘴気を漂わさせる一人の司祭である。
 もう一枚内部で結界を張り、漏れを遮断しているので影響はない。

 だがそれでも、見覚えのあるものを見ればそういった疑問が口から出てしまうだろう。


「予想通り、だと思いますよ?」

「ならばこれが──!」

「はい、おそらく」


 彼女の国を滅ぼした間接的な原因──カカから漏れ出した瘴気の炎。
 関わりたくないと思っていても……凶運が逃してくれないみたいだな。


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