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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と神聖国浄化作戦 その05

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 再び訪れた聖堂には、相も変わらず自作自演な光が降り注いでいた。

 薄めたとはいえ霧の効果に抵抗していたことに感服したが、濃度を上げたらすぐに止めることができたので満足である。


「いつから気づいてたんだよ」

「元を辿れば最初からだ。上に立つ者として兵たちの体調を見抜くだけの慧眼が必要。そうして嘘偽りを見抜く術も、身に付けたというわけだ」

「やれやれ、俺の演技力ってのはいつまで経とうが分かる人には分かるんだな」

「いや、そうでもないだろう。貴公に関心をいだかぬ者であれば気にしない程度だ」

「……つまり、普通に接するような者には簡単にバレると」


 そういうことだ、と言われ落ち込む。

 演技系のスキルをもう少し多く手に入れておこうかな? 表情でバレているわけでも声色でバレているわけでもない……いったい、何が理由でバレているんだ?


「あとはここのお偉い様方に処理を加えればお仕舞いなんだが……罠が多いな。俺が処理するから後ろをついてきてくれ」

「了解した……それは?」

「ん? ああ、便利な糸だ」


 罠解除はダンジョンで何度も練習しているので、目を瞑っていてもできる。
 十本の指すべてに『天魔の創糸』を括りつけて巧みに操り、罠が作動しないように加工していく。

 お偉い様に俺たちの情報がバレる警鐘系や矢が飛んでくる防衛系、動きを止める足止め系などがいくつか設置されている。
 それらすべてを解除して回収し、お土産として“空間収納ボックス”の中へ仕舞っていく。


「あんまり気にしなくてもいい罠ばっかりだけど、痺れ罠が設置されているのには驚いたな。痺れさせた後、聖職者たちは引っ掛かった相手にナニをするんだか。ちなみに邪な奴の部屋の近くに多い」

「……腐れ外道が」

「ああ、真面目に悪事を働いている奴は即死と束縛の二種類だな。侵入者の方で勝手に状態異常の対策をしてくるから、じわじわ嬲って情報を吐かせるんだよ」

「どちらにせよ、救いようがないな」

「だから救うんだよ。別に生きていなくとも彼らが最後に『救われた』、そう思えるようなものをプレゼントするのが偽善者のお仕事だ──嫌いか?」


 全部を生かすというわけではない。
 そんなことをすれば国が回らなくなって、民が苦しむことになる。

 歯車は必要なので残しておくが、仕事をしていないむしろ作業効率を悪くしている歯車だけを取り除く予定だ。


「政治とはそういうものだ。むしろ、最後に施しを与える分マシだろう。泳がせるのであれば別だが、膿は早めに切除した方が後に影響が残らないからな」

「そういうものなのか──よし、着いた」

「ここが……そうなのか」


 そこは、法王の間と呼ばれる教会のお偉い様方が会議を行うための場所。

 かなり厳重に罠を張り巡らせていたが……うん、いいお土産になったと思う。
 冒険者志願の子供たちの用に、練習用として使ってもらおうか。


「全員居るみたいだな。あのルーカスさんが選んだ日だし、まあ当然といえば当然だ」

「スノー家の者か……はたして上手くいくのだろうか」

「すべては計画通り────では、始めるとしましょうか。カカ様に捧げる儀式を」

「邪神教徒のセリフだな」


 ええい、本人が一番分かっとるわい!


  ◆   □   ◆   □   ◆

「法王様、今こそご決断を!」「このような現象は信仰が薄れてきた結果!」「すぐに民から布施を集めて力を蓄えましょう!」「信仰篤き者を集い、祈りを捧げるのです!」

「……誰一人、自分で動こうとする者はいないというのか」

 彼──スノー家の当主は誰にも聞こえないようにそう呟く。

 お飾りの補佐役として法王の隣で司教たちの言葉を聞かなければならない彼にとって、この時間は何よりの苦痛でもあった。
 誰一人として彼の言葉に耳を傾ける者などおらず、自分に都合のいいことだけをひたすら法王に告げるのだから。

 ちらりと横を見ると、法王が思考を巡らせているのが分かる。
 無駄な装飾語を外し、必要最低限の情報だけを彼らの言葉から抽出を試みている……しかし、それでも意味のない言葉の羅列なのだから救われない。



「──おや? ご歓談中でしたか」

 そんなとき、彼らはこの場に現れた。

 外套に身を隠した一組の男女。
 片方は無骨ながらも最低限の装飾が施された剣を引き抜いている。

 突然の来訪者に驚く聖職者を無視して、男が口を開く。

「初めまして、神聖国の皆様。私、偉大なるカカ様へお仕えする司祭でございます。これから貴方がたへ、祈りの儀を執り行うためにやってきました」

「曲者が!」「わけのわからぬことをほざいておる!」「兵たちよ、今すぐ奴らを捉えてしまえ!」「男は殺せ!」

「やれやれ、仕方ありません。──では、お願いしますよ」

「貴公も動いてみればどうだ?」

「私は司祭ですので」

 剣を持った女性はため息を吐き、この場の護衛に就いていた騎士たちと戦う。

 初めは数の利で攻めていた騎士たちだが、女性が動くごとに一人、また一人と数を減らしていく。

「これくらいならば魔物が相手でも変わらない。攻める、守る、魔法、この三つしか行えないのならばなおさらだ」

 騎士たちはこの言葉の後、さらに数を減らしていった。

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