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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と神聖国浄化作戦 その04

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「──といった具合です」

「本当にそれが可能なのですか?」

「やるだけやってみる……といった感じですね。先に挙げた通りの作戦を決行すれば、ほぼ確実に革命は起きます。ですがそれでは、救われない者が救われない……ただの救済となってしまいますので行いたくありません」

「『人が与えざるは救済にあらず、其は願われし断罪である』……ですか。悪を断つのではなく、救おうとするとは……」

「嫌いますか? 偉大なるカカ様はすべてを肯定してくれました。たとえ偽善と蔑まれようと、生きていれば変わる未来もあります。可能性が零でないならば──あらゆる手・・・・・を尽くして救おうとしますよ」

 そこに生死は関係ない。
 最後に生きていれば、結果的に生き残るのだから。

 生きながらの死も死んで生き返るのも同じ生であり、違いは本人が考えるほど大きくないはない。
 その後どう生きたかどうか……そこさえよければ、すべて良しだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


『では、私はノゾム様の指示通りに動かせてもらいます……その、これが終わったら、ぜひお茶会を──』


 といったお言葉を貰えたので、とりあえず話し合いは上手くいったといえるだろう。
 後半はなぜだか分からないが、最高の茶菓子を用意して待っていることにしよう。


「さて、これから国を変えるわけですが……どうしましたか? そんな顔で」

「二人で、か? 貴公は国をたった二人で盗る気なのか」

「いえいえ、独りで行いますよ。あちらで内容は説明しましたが、私独自の企業秘密が多いもので……申し訳ありませんが、外部に情報が漏れるようなことは可能な限り避けたいのです」


 ずっとついてきていた『姫将軍』だが、そろそろ同行は控えてもらうことにしよう。
 さすがに国へ還れ、とまでは言いづらい。


「魔道具を貸し与えますので、それを介して映像にて観戦を──何をしていますか?」

「私はもう奴隷ではない、すべて貴公の指示に従う筋合いはないのだ」


 剣を抜き、その調子を確かめているその様子は……まさに戦準備をする軍人のようだ。
 たしかに解放したし、どうしようもない。


「……それもそうですね。ならばどうしますか? これから暗躍する私を止めて妨害を行います?」

「いや、そうではない。何かできることをやらせてくれ、ということだ。放蕩王が国に戻らずふらふらとしていて、内政ばかりで体が鈍っている……責任をとってもらいたい」

「なるほど、それは困りましたね」


 彼女は国を回すために重要な人物だ。
 いつも国に居ないダメ国王の代わりにビシビシ働いている。

 ここで腹を立てて仕事をしなくなったときは……国、少しずつ瓦解していくな。


「条件を一つ──指示には絶対従う。あとは好きにしてくれて構いません」

「ああ、誓おうではないか。この宝剣にかけて、ともに行こう」


 ならばどうとでもなる。
 先ほどの用途とは別の魔道具をいくつか持たせて、俺たちは聖堂へ向かう。

 どうなるかな……革命。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 その日、神聖国内ではさまざまな異変が何度も発生した。
 国の至る所で霧が発生し、家から出ることもままならなくなる。
 魔力を外部に放出することもできず、魔道具さえ機能しない。

「く、来るな! 何が目的なんだよ!」

 そんな中一人、また一人と霧の町で悲鳴を上げていく。
 それはすべて犯罪に関わった者、意図してそれを楽しんだものであった。

「すべては歪んだ白を赤に塗り替えるため。お前たちはその生贄だ」

「ま、待ってくれよ。金ならある、だから、俺だけうぎゃあああああ!」

 鋭い一撃が男の体を一突き。刺さる剣の輝きに男はショックして気絶する。

「……本当に、死なないんだな」

「当然ですよ。すべてはカカ様のご加護、許されざる行いをした者たちにも救いの手を差し伸べられるのです!」

 剣を鞘に納めて呟く女性の元へ、男が現れてそう答える。
 倒れた男の頭に触れると、魔力を流し込んで一息吐く。

「彼もまた貧しい家計を救おうと悪事に手を染め……呑まれた一人です。願わくば、変わる彼を皆が受け入れますように」

「変わることは前提なんだな」

「カカ様のご加護を強く纏える今だけ、私でも一人一人意識が無い者ならば、カカ様の御業の近しいことができるのですよ」

 手を十字に切るジェスチャーを行い、男は立ち上がる。

「この場所で暮らす救済対象は、皆救うことができました。これから何が起こるか分かりませんが、共に団結してもらいたいです」

「となると、次は街で暮らす者たちか」

「ええ、そうなります。いつの世も平穏な生活というものはなかなか訪れないもの。小さな種火が燻れば、やがてはすべてを呑み込む絶望の炎に──」

「放蕩王、そろそろ行くぞ」

「……ここで放蕩王と呼ぶのは、止めてもらいたいですね」

「あえて言わずにいたが、その飽き飽きするほど下手な芝居を止めたらな」

 女は男を置いて別の場所に移動する。
 そこに残されたのは、愕然したまま硬直する紅の神父だけだった。

「えー、いつから気づいてのさ……とは言わないけど、どうせ気づいてたならもっと早く言ってくれよー。眷属も眷属で気づいているのに気づいていたんだから、言ってくれればよかったのに」

 口調を改め、丁寧語を捨てた適当な言動となる。

「魔力は消費以上に回復してるからよし。作業の方もまあどうにかなってる……けど、少し見栄を張りすぎたな」

 再び息を吐いてから──男もまたこの場から立ち去っていった。

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