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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と神聖国浄化作戦 その03
しおりを挟む招かれたのはとある町のお屋敷の中。
スノー家が所有する土地を転々と飛びながらの移動だったので、場所の特定を防ごうとしていたのだろう。
そんな秘密保護をしてきた張本人は現在、目の前でニコニコと座っている。
きめ細かい肌は、この世界の住民とは思えないほどに白い。眼も髪も同様に白く、けれど顔は人懐っこさそうなものだ。
「初めまして、ノゾム様。私はスノー家の令嬢『リリー・スノー』。今回は私のお招きに応えてくれてありがとございます」
「いえいえ、これもカカ様のお告げ。貴女のような方であれば会って問題ないという崇高な意志の元動いたのです」
「そうですか。カカ様というお方のお蔭なのですね。ホワイト様の他にも、そのようなお方がいるなんて……」
「神とは唯一にあらず、人の心の数だけ存在する者である。貴女が祈りを捧げる、ただそれだけでカカ様は貴方の元へ現れて祝福を捧げるでしょう。これこそが神の偉大なる意図なのですから」
え、そんなわけないだろ?
うん、俺にはどうしようもできないな。
実際祈りが届いたなら、カカはどう動くつもりなんだろう。
俺の布教活動は強引じゃないので、国にはカカを崇める神殿を置いてはいるけど強制はしていない。
あくまで、祈りたい者だけが祈りを捧げていればいいというスタンスでいるのだ。
「初代法王様もそう仰っていたらしいですのよ。『神は全能にあらず、祈られし者によって姿を変える鏡である』──私の信仰心、それが確かめられているのですね!」
「『変わらぬのが過去、変わるのが未来、川えていくのが現在』──初代様と同じ意志を持つアナタ様だからこそ、今回私どもはこの場に呼んだのです」
「それは光栄極まりないことです。スノー家のご令嬢に褒められたとあれば、生涯の誇りとなるでしょう」
初代様──つまりは日本人と似ていると言われてもなー。
そりゃあ日本人なんだから、道徳心も似たりよったりのものなんだろう。
アイリスとカナタが居た世界でも、歴史以外はほとんど同じだったからな。
「──話を戻しましょう。私に、何か御用でしょうか? カカ様のお導きにそぐわぬ話であればしかと聞き入れます」
「今のホワイト教はその有り方を酷く変質しております。聖人であるはずの者たちが誰よりも欲に呑まれ、正しき道を歩むでもなくただ堕ちていくだけ……このままではいつか、完全に初代様の遺志は途切れます」
「そうでしょうね」
噂だけなら──奴隷に落としたシスターで遊ぶだの、硬貨の海で泳いでいるだのいろいろとあった。
シスターは……羨ましいが、【嫉妬】しているだけでは何も始まらないのは分かっているので、とりあえず別件だ。
「本来ならば歪んだ聖者を正すはずのスノー家は、代々汚れていった法王たちによって機能を失っております。誰も手を差し伸べることはなく、これからもそうしたことに悩まされていく──そう思っていました」
「何があったので?」
「いえ、ただある日アナタ様を街でお見かけした時に感じるものがあったのです。このお方には何かがあり、崇高な意志を抱えている者であると」
俺がブリッドを従魔にしに神聖国へ向かったその日、お嬢様は炊きだしを行っていたらしい。
そして途中で変装中の俺を見て……何かを感じたと。
「運命、と言っても過言ではございません。あの日アナタ様を知ったからこそ、私は真のホワイト教を知ることができたのですから。初代スノー家当主が、何を想い何のために生きていたのか……どうして補佐を務め続けよと子孫に残したのかが分かりました」
「それで、貴女は話したのですね」
「はい。ルーカス様は私の話を聞くと、いずれアナタ様が私の元に訪れると仰ってくれました。そしてそれが今、この場所で実現しているのですから……嗚呼、主よ!」
原本にまさか、ここまでの効果があるとは思ってもいなかった。
いちおう目は通してあるものの、少女一人にここまでの勇気を出させる内容は載ってなかったと思うんだが……。
「では、私が行おうとしていることは?」
「すべて把握しております……ですが、本当に可能なのですか?」
「ええ、当然です。偉大なるカカ様の祝福によって、この行いは絶対な成功が確約されています。これは始まりの聖戦ですよ、リリー様。終わりが始まり、真なるホワイト教が誕生する儀式。……なんて、妙に邪教染みたことを言ってしまいましたね」
「いえ、お気になさらず」
「ですが……邪教とは、いつの世も必ずどこかで現れます。それは人々の心をくすぐるだけの、何かがあるからです。ホワイト教に今は邪教扱いされるカカ教ですが、それでも愛される邪教とやらを目指したいですね」
まあそもそも、邪神を信仰している時点でアウトなんだけどな。
炎と密接に関わるこの世界であれば、カカは祈られれば祈られる程神格が上昇する。
まさに赤色に包まれたこの世界にとって、カカは主神にもなれる神材なのだ。
「……強いのですね、ノゾム様は」
「そうではありません、ただ願うだけです」
「願い、ですか……」
彼女の思考がどこへ向かっているのか、乙女心が分からない俺にはさっぱりだな。
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