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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と神聖国浄化作戦 その02
しおりを挟む「ノゾムさん、お待ちしていましたよ。すでに滞りなく進行中です」
「ありがとうございます、ルーカスさん」
「いえいえ、私たちは同じ目的のために動く同志。そこに遠慮をする必要はございませんよ。お気になさらず」
「ははっ、そういってもらえると安心です」
ブリッドに乗るという無駄な演出をしてみたものの、結局まだ国内にいる俺たち。
あのときの商人が運営を行う商会を訪れ、話を行う。
「こちらのお方はたしか……『姫将軍』であらせられるセッスランス国のご令嬢ではございませんか。これはこれは、商業会以来でございましょうか?」
「この国で貴公を見たときは驚いた。まさかあの『狂商人』がいたのだから」
「ノゾムさんに頼まれましてね、こちらと外の中継役になってもらいたいと。使いの者を送るようにしてましたが……どうでした?」
「……生憎、貴公からの情報は放蕩王の元へ直接送られていてな。私が読む機会は一度もなかったのだ」
商人──いや、ルーカスさん→使いの者→眷属→俺といった流れで情報が流されていたからな。
『姫将軍』には悪いことをした。
「えっと……『姫将軍』さん」
「ウィーゼルで構わん。貴公は元とはいえ私の主人だ。解放した者に名も呼ばせぬほど、私は恥知らずではない」
「そうですか……ではウィーゼルさん、こちらがルーカスさんから送られてきた情報を纏めたものです。情報量が多かったのでこちらで少しだけ余分なものは割愛しました」
それを聞くと──ルーカスさんが話しかけてくる。
「おや、どこか不手際が?」
「いえいえ。私と貴男だけが知っておけばいいということもありますので」
「なるほど、そういうことですか。たしかにそれもそうですね」
何が悲しくて、上層部の性癖や性事情にまで目を通さなければいけなかったのか。
姫様がじっくりと見る必要があるものでもないし、何より見せたくなかったしな。
頭の回転が速そうだし、早く話題を本題に戻すことにしよう。
「自然な形での誘導は?」
「ある程度。貧しい者たちへ原本を配り、違いを伝えることからでしたが」
「優しい恩人が古き伝統に従い、さらには今のソレを嫌っている……悩むでしょうね」
「押しつけてはいませんので、美辞麗句の記されないありのままを受け取るでしょう」
「あれには、初代が記した特殊な倫理観が載せられています。まさに夢幻の類いですが、それでも下地が一度はあの場所で整っていたものですので……効果は絶大ですね」
初代法王が残したホワイト教の教え、それは継いでいく者が【強欲】であればあるほど削られていった。
だが二代目法王は初代を直に見ていたからか、汚れることなく正道を歩んだ。
しかしだからこそ……三代目が欲深な願いに溺れていることに気づきながらも、気づかぬふりをしていた。
偉大な初代法王の意志がいずれ失われることも知っていた……故に、予め原本を一部聖堂に隠していた二代目。
俺はそれを回収し、複写したものをルーカスさんに頼んでばら撒いてもらっていた。
耳触りのいい言葉だけが並んだものではないが、人々の心にしっかりと響かくものが記された内容である──今の神聖国に疑念を抱く者たちにとって、それはまさに救いとなるだろう。
「困った人々へ手を差し伸べ、苦しむ人々を無償で助け、泣いている人々にそっと寄り添えるような国を……今はすべてが反転し、困らせ苦しませ泣かせる国です。上層部のすべてがそうとは言いませんが、大半が金という欲に憑りつかれています。少しでも早く、動かねば」
異世界人の言葉だからこそ、こちらの世界とは異なる視点での意見が記されていた。
それは民からしてみれば本来考えられないようなものであったが、当時の彼が上手く法王をやりきった結果なんだろうな。
当時を調べる際、初代法王について民からの意見を纏めた本を見つける。
上も下も関係なく、彼のカリスマに惹きつけられた者たちが当時はたくさん居たのだとよく分かる内容だった。
……いつか俺も、そういった風な好い王だと言われるような者になりたいよ。
さて、話はルーカスさんの一言で大きく変化する。
「ところでノゾムさん、貴方に会ってもらいたい人物がいらっしゃるのですが」
「私にですか? ルーカスさんの紹介であれば、突然攻撃してくるはずはありませんので構いませんが……いったいどなたで?」
「ちょうどその神聖国、中でも上層部で働くお嬢様ですよ。まだ汚れておらず、初代法王に篤い信仰を抱く年若いね」
「…………ああ、居ましたね。二代目法王の家名が『スノー』。本来ならば代々法王の補佐に就く一族のはずでしたが……今回はどういった用件だと?
二代目法王は、以降一族の者に補佐役を務めるように言い渡したらしい。──もしも、歪んだ法王が生まれたならばその暴走を食い止めるように。
彼らの奮闘のお蔭で、まだ国として神聖国が残っているのだが……補佐役でも暴走が抑えられないように代々法王が縛りを加えていたため、今ではお飾りの役職となってしまっている。
そんな窓際族のお嬢様が、この国の──しかも放蕩王に会いたいという。
……偽善の出番だろうか?
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