738 / 2,519
偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と神聖国浄化作戦 その01
しおりを挟む赤色の世界
「──放蕩王か、今度は何をしに……」
「準備が整った、といえば分かりますか?」
「私たち以外にも動いていたのか」
「全てはカカ様の御心のままに、神聖国に巣食う邪悪なる意志を取り除く偽善です」
さて、所変わって赤色の世界に誕生した新しい都市。
眷属の協力もあってか、もうほとんど完成していると言ってもいい。
有り余る財力を用いて奴隷を買っては、この国に連れ込んで働かせている。
別に強制労働ではないし、帰りたいと願った者は本国送還しているので、ブラックではないと思いたいんだけど……近況報告を聞くたびに心配になってたんだよ。
そんなある日、連絡が届く──すべてを終わらせる準備ができたと。
なので今回はここへ向かい、神聖国の上層部に蔓延る悪玉菌を駆除するのだ。
「細かいことはお任せしますよ。カカ様の素晴らしさを伝えることはできますが、それ以外のことは何もできませんので」
「何を言うか、あれだけの女性たちを貴公は良好な形で取り持っているではないか」
「彼女たちもまた、カカ様のことを──」
「『知っている……というか、家族だ』そんな言葉を発した者もいたぞ?」
「…………」
誰だ! そんな好い言葉を言ったのは!
眷属が家族として周りを認める、それは俺にとって望んでいたことだしな!
いやまあ、少しずつ距離が縮まり家族の環が形成されつつあることは知っていたが……外部に言えるほどになっていたとは、思いもしなかったよ。
「細かいことは訊かん。謎が一つ増えたところで、貴公は貴公で何も変わらない」
「感謝します。嗚呼、偉大なるカカ様」
「……そういえば話は変わるが、聖炎龍に関してはどうなった?」
本当に急だな、とは言わないでおく。
実際問題神聖国に盾突く者たちにとって、聖炎龍は最大の難関と言ってもいい。
なんせ、赤色の世界最強のドラゴンが襲いかかってくるんだからな。
「──従魔にしました」
「…………は?」
「いえね、ですから──」
ニコニコと笑顔を浮かべ、黒い魔本をこの場に持ち込む。
ペラペラとページを捲り、該当の魔方陣を見つけるとその場に召喚する。
「この場ですしミニサイズですが……現れなさい、『ブリッド』」
「この力! まさか本当に──」
なんだか驚愕している『姫将軍』。
宗教家には難しいが、偽善者ならばどうにかできた。
自分の近くに縮小投影した魔方陣から炎と雷のエフェクトとともに──ドラゴンが出現する。
『久しぶりだな、ブリッド』
『ああ、すぐに呼んでもらえると出番を待っていたのだが……まったく別のことをしているとは』
『俺は召喚士だけじゃなくて、あらゆる方面から偽善の可能性を探しているんだよ。少なくとも、出番があるのはこういうときか召喚士として動いたときだけだ』
『むぅ……仕方あるまい』
ドラゴンの言語で会話を行っているので、『姫将軍』が俺たちの会話を聞き取ることはほぼ不可能。
言語をマスターしているというならば別だが……(言語理解)や(○○言語)スキルは見つからないからな。
再び言語を共通語に再設定して──
「改めまして。聖雷炎龍のブリッドです。最初は普通の聖炎龍だったのですが……こう、いろいろとありましたね?」
「貴公のいろいろは複雑すぎて凡人には理解しがたい。いずれしっかりとした形で訊いてみたものだが、今は止めておこう」
「それが正しいだろう。聖炎龍にいっさいダメージを与えられずに完封した男だ。ただ者ではないぞ」
「そこまで言われるとは……さすが放蕩王」
それ、どの辺りが褒め言葉なの?
俺にとって放蕩王はそこまで褒める意味が無いんだけど……。
ブリッドも、共通語に切り替えてなんか大げさなことを言ってるし……自分が敗北した話をどうして楽しそうに語ろうとしてるの。
「とにかく、神聖国の守護龍である聖炎龍はいなくなりました。この事実は私たちしかまだ知っておらず、また他国に知られてしまえば先を越されてしまいます」
「もともと怒りを買っている国だ。聖炎龍の力を恐れて動けなかった国は……これを知ればすぐに動くだろう」
「ですがそれは困ります。偉大なるカカ様のため、浄化すべき人物以外には救いの手を差し伸べるのです!」
俺流の偽善としては尤も事柄だ。
罪なき女子供に災禍を及ぼす──それこそが戦いだ。
国によっては無血開城的なことをしてくれそうだが、逆に言えばそういったことをせずに滅ぼす国家もある。
誰かが不幸になって成り立つ運命など、偽善者は拒絶するし否定する。
だからこその『運命簒奪者』……あ、この単語が出てきたのだいぶ久しぶりだな。
「方法はすでに揃えてあります。たとえ望まれずともこのときがチャンス。私はこれから支度を整えまが……いっしょに行きます?」
「ああ、ぜひお供しようではないか。貴公がどのようにあの国を変えようとするのか。それを己が両目で見届けたくなった」
「そうですか……ブリッド、準備を」
「了解した」
俺が不可視の魔法をかけると、ブリッドはこの場から離れて外に向かい──元のサイズに戻る。
俺たちはそれに跨り、目的の地へ向かう。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる