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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と神聖国浄化作戦 その01

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 赤色の世界


「──放蕩王か、今度は何をしに……」

「準備が整った、といえば分かりますか?」

「私たち以外にも動いていたのか」

「全てはカカ様の御心のままに、神聖国に巣食う邪悪なる意志を取り除く偽善です」


 さて、所変わって赤色の世界に誕生した新しい都市。

 眷属の協力もあってか、もうほとんど完成していると言ってもいい。
 有り余る財力を用いて奴隷を買っては、この国に連れ込んで働かせている。

 別に強制労働ではないし、帰りたいと願った者は本国送還しているので、ブラックではないと思いたいんだけど……近況報告を聞くたびに心配になってたんだよ。

 そんなある日、連絡が届く──すべてを終わらせる準備ができたと。
 なので今回はここへ向かい、神聖国の上層部に蔓延る悪玉菌を駆除するのだ。


「細かいことはお任せしますよ。カカ様の素晴らしさを伝えることはできますが、それ以外のことは何もできませんので」

「何を言うか、あれだけの女性たちを貴公は良好な形で取り持っているではないか」

「彼女たちもまた、カカ様のことを──」

「『知っている……というか、家族だ』そんな言葉を発した者もいたぞ?」

「…………」


 誰だ! そんな好い言葉を言ったのは!
 眷属が家族として周りを認める、それは俺にとって望んでいたことだしな!

 いやまあ、少しずつ距離が縮まり家族の環が形成されつつあることは知っていたが……外部に言えるほどになっていたとは、思いもしなかったよ。


「細かいことは訊かん。謎が一つ増えたところで、貴公は貴公で何も変わらない」

「感謝します。嗚呼、偉大なるカカ様」

「……そういえば話は変わるが、聖炎龍に関してはどうなった?」


 本当に急だな、とは言わないでおく。

 実際問題神聖国に盾突く者たちにとって、聖炎龍は最大の難関と言ってもいい。
 なんせ、赤色の世界最強のドラゴンが襲いかかってくるんだからな。


「──従魔にしました」

「…………は?」

「いえね、ですから──」


 ニコニコと笑顔を浮かべ、黒い魔本をこの場に持ち込む。
 ペラペラとページを捲り、該当の魔方陣を見つけるとその場に召喚する。


「この場ですしミニサイズですが……現れなさい、『ブリッド』」

「この力! まさか本当に──」


 なんだか驚愕している『姫将軍』。
 宗教家には難しいが、偽善者ならばどうにかできた。

 自分の近くに縮小投影した魔方陣から炎と雷のエフェクトとともに──ドラゴンが出現する。


『久しぶりだな、ブリッド』

『ああ、すぐに呼んでもらえると出番を待っていたのだが……まったく別のことをしているとは』

『俺は召喚士だけじゃなくて、あらゆる方面から偽善の可能性を探しているんだよ。少なくとも、出番があるのはこういうときか召喚士として動いたときだけだ』

『むぅ……仕方あるまい』


 ドラゴンの言語で会話を行っているので、『姫将軍』が俺たちの会話を聞き取ることはほぼ不可能。
 言語をマスターしているというならば別だが……(言語理解)や(○○言語)スキルは見つからないからな。

 再び言語を共通語に再設定して──


「改めまして。聖雷炎龍のブリッドです。最初は普通の聖炎龍だったのですが……こう、いろいろとありましたね?」

「貴公のいろいろは複雑すぎて凡人には理解しがたい。いずれしっかりとした形で訊いてみたものだが、今は止めておこう」

「それが正しいだろう。聖炎龍にいっさいダメージを与えられずに完封した男だ。ただ者ではないぞ」

「そこまで言われるとは……さすが放蕩王」


 それ、どの辺りが褒め言葉なの?
 俺にとって放蕩王はそこまで褒める意味が無いんだけど……。

 ブリッドも、共通語に切り替えてなんか大げさなことを言ってるし……自分が敗北した話をどうして楽しそうに語ろうとしてるの。


「とにかく、神聖国の守護龍である聖炎龍はいなくなりました。この事実は私たちしかまだ知っておらず、また他国に知られてしまえば先を越されてしまいます」

「もともと怒りを買っている国だ。聖炎龍の力を恐れて動けなかった国は……これを知ればすぐに動くだろう」

「ですがそれは困ります。偉大なるカカ様のため、浄化すべき人物以外には救いの手を差し伸べるのです!」


 俺流の偽善としては尤も事柄だ。
 罪なき女子供に災禍を及ぼす──それこそが戦いだ。

 国によっては無血開城的なことをしてくれそうだが、逆に言えばそういったことをせずに滅ぼす国家もある。

 誰かが不幸になって成り立つ運命など、偽善者は拒絶するし否定する。
 だからこその『運命簒奪者』……あ、この単語が出てきたのだいぶ久しぶりだな。


「方法はすでに揃えてあります。たとえ望まれずともこのときがチャンス。私はこれから支度を整えまが……いっしょに行きます?」

「ああ、ぜひお供しようではないか。貴公がどのようにあの国を変えようとするのか。それを己が両目で見届けたくなった」

「そうですか……ブリッド、準備を」

「了解した」


 俺が不可視の魔法をかけると、ブリッドはこの場から離れて外に向かい──元のサイズに戻る。

 俺たちはそれに跨り、目的の地へ向かう。


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