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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と教導完了

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 そして数日後、再び集められた六人の新人さんたち。
 一人一人の顔を見ながら語っていく。


「おめでとう。貴女たちは辛く厳しい苦行に耐え、見事称号『生産を極めし者』を手に入れることに成功した。これは貴女たちの……いや、貴女たちと『月の乙女』の皆さんの協力があってこその結果です」

「そんな、ノゾムさんの指導のお蔭ですよ」

「いえいえ御謙遜を。しがないおっさんが一人いるかいないかなんて関係ありません。大切なのはもっと別のこと、このギルドに貴女たちがこれからどう貢献していくか……それだけですよ」


 しいて言うならば(指導)、ではなく(教導)のお蔭であろうか。
 一時的に共有させたスキルたちにも感謝だし、おっさんはただ見て(生産神の加護)を介して思ったことを言っただけだ。

 おっさん自身の意思は特に無かった。


「ノゾムのおっさんはどうすんだよ」

「貴女がたがここまでやってきた時点で、もう役目は終わりです。これからはひっそりと誰も居ない場所で、余生を過ごすようにプレイしていきますよ」

「先生、教えてもらいたいことがたくさんあるのに」

「何もこの世界に来なくなる、というわけではありませんよ。私の姿がこのギルドからいなくなる……それだけです」


 うん、この言い方間違いなく誤解される。
 姿は消えるだろう……そして、メルスかメルとして登場するだけだ。

 よくここまでバレなかったな、とも思うがなんとも言いだしづらい。
 こういう教師モノ? みたいなときは、どういったノリでいればいいんだろうか。


「オー。ノゾーム、もうトゥゲザーしないんですカー?」

「このギルドが私を必要としていればまだまだ居れますけど……先ほども言った通り、貴女がたが『生産を極めし者』を手に入れた時点で厄介箱なんですよ」

「わたしたちのせい?」

「そうではありません。これは決まっていたことで、私もこうなることを望んでいましたから。皆さんがしがらみに囚われることなく自由に生産できる姿を見れて、とても満足です」


 見た目二.五次元の美少女たちが俺を師と謳って話しかけてくれるのだ。
 男として、そこに興奮しない要素が無いというわけではなかった。

 だがいつまでも維持していると時期にバレるし、そろそろ潮時だ。


「の、ノゾムさん──これまで、ありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

「っ……!」

「わたしたちはここまでやってこれました。これは全部『月の乙女』皆さんとノゾムさんのお蔭です。お世話になりました」

「み、皆さん……」


 心にジーンと何かが響く。
 胸の中で熱い感情が渦巻き、喉が詰まり思うように言葉が出なくなる。

 それでもどうにか舌を動かし、感謝を告げようと思ったそのとき──凛とした声が、この場所に響く。


「霊呪を以って命ずる! すぐにこの場へと馳せ参じよ!」

「……あ、ヤバッ」


 言葉に連動するように、俺の体が淡い光を纏って消える。
 せっかくの別れのシーンだというのに、教師役の男がいなくなってしまう。

 新人たちはすぐに声のした方へバッとふり向き、そこにいる人物に気づく。


『──クラーレさん!』

「もう、クラーレでいいと何度も言ったじゃありませんか。そうですよね? ノ・ゾ・ムさん?」

「そ、そだねー」


 クラーレが来た時点で、半ば望む展開が訪れることはないと悟っていた。
 この娘、なんだかSの気質があるし。


「では、今は亡き・・ノゾムさんに代わり、わたしが最後に言わなければならないことを教えましょう。このギルド最大と言っても過言ではない、重要な秘密であり問題を」

「も、問題……ですか?」


 ニコッと笑ってこちらを見るクラーレ。
 ……そして、結果は予想通りであろう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「凄いですよね、まさか全員がそれを気にせずにいられるとは」
「私たちと違い、長期間隠されていたわけではないからじゃないか?」
「どちらにせよ、これで生産職を六人も確保できたってことになるのよね」
「メルのお蔭ってことになるのかな?」
「みんな~寛大だね~。刺されれば~よかったのに~」

「ひどいなー、私をなんだと思っているの」

『──性別詐称の犯罪者(~)』

「……うぐっ、否定できない」


 集会場として用意した広い部屋で、彼女たちは一連の話をネタに会話を行っていた。

 新人たちはシガンに連れられ、正式なギルドの一員として登録するために冒険者ギルドへ向かった。

 結局、お咎めなしで許されたメルこと俺。
 初期メンバーと違い、最初から男として接していたので気にならなかったのだろう。

 変身ができるプレイヤー、それぐらいの意識でしかないと思われる。


「けど、これで私の負担も軽くなったよ。全員がバランスよくスキルと職業を選んでくれたから、できないことを見つける方が難しいし。これでデザートの作成も、シーエに任せてくれれば……」

『それはまだ(~)メルがやるの(~)』

「ハァ……バニラアイスケーキとホイップクリームケーキどっちが食べたい?」

『両方(~)!』

「はいはい、今用意するから待っててね」


 デザート役からも解放されて、早く自由になりたいものだな。


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