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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と生産要員面接
しおりを挟む「──むしろ、その条件でどうして入ろうとしてくれると思うの? どれだけ【傲慢】で【強欲】な要求をしていると思うのさ」
「ですが、メルの後釜となりますと……」
「それくらいの水準が必要、ね。私が最初から本気を出していれば、二つの意味で廃人が生まれるから本気は出してないよ」
ギルド『月の乙女』が生産職を募集している……そういった話はプレイヤーの中でも知られている。
パーティーメンバー全員が女性という、そのメンバー構成が女性プレイヤーたちの中でも人気の秘訣だ。
しかし、あまりに面接を受ける前の前提条件がシビアだった。
──称号『生産を極めし者』の所持。
生産特化のプレイヤーの中でも、ごく一部しか獲得していない称号の保持者のみしか受け入れようとしていなかったのだから。
さすがにこれには俺も呆れた。
そんなプレイヤーは、もうソロを貫くかギルドに所属しているかしているだろう。
せめてもう少し、一職を極めたぐらいで満足しておけよ。
「あれで、ですか?」
「本当に知りたいの? 一度知ったら──嘘でも誇張でもなく、私の創った物が欲しくて欲しくてたまらない中毒者になるよ?」
精神が強くない者からすれば、俺の創るアイテムは他者を犠牲にしてでも得たい代物ばかりだ。
作った物ならばともかく、さすがに創った物だと……最悪、ギルド内で仲間割れが起きたりするかもな。
そう脅すと、クラーレはそれが事実だと悟り首をブンブンと横に振る。
まあ、作った物の中には創るに近しいアイテムも含まれているんだけどな。
「──と、いうわけで条件を緩和してくること。生産に熱い思いさえあればいいから、自分たちの目で一人見つけてきてよ。複数人でも構わないけど、途中で投げ出すような人は勘弁してほしいな」
「……えっと、何をするきなんでしょう?」
「鬼教官の台詞みたいだな」
「やる気があればいいのね」
「でも、逃げちゃだめだと」
「難しいな~」
「まあ、私たちにも責任があるわけだし……みんな、張り切って探すわよ!」
『おー!』
いや、責任は最初からそっちにしかないんだからな。
俺にもあるみたいに言うんじゃないよ。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの町
「──では、これから面接を始めよう」
せっかくの機会と脅しも兼ねて、『月の乙女』と生産のメンバー候補を『ユニーク』のギルドハウスに連れこんでみた。
部屋の一つ──なぜかあった俺の分の部屋で、面接は行われる。
今この場には候補生だけが残り、他は全員『ユニーク』のメンバーたちと交流しているだろう。
今はメルではなくノゾム──生産スキル指導教官として、この場で座っている。
「面接と言っても、私も生産スキルを教えるためだけの雇われだからね。そんなに固くならなくても大丈夫だよ」
「あの……なら、どうして『月の乙女』の皆さんに頼まれたんですか?」
おずおずと、一番右側に座っていた黒髪の少女が尋ねてくる。
まあ、女性限定のギルドだしな。
見た目おっさんが混ざっていれば、普通それを質問してくる。
「メンバーの一人に、昔助けてもらいましてね。そのときに生産のことを話したので、おそらく声をかけてもらえたのでしょう」
「そ、そうですか……」
納得のいく答えではなかったんだろうか、微妙そうな顔を浮かべていた。
正直に──召喚獣と身を偽って潜りこみ、しばらく過ごしてから正体を晒して無理矢理溶け込んだ結果です、などと言ったらGMに連絡されてしまう。
そして、レイたちから長い長いお説教を受ける……うん、逃れなければならない。
「それじゃあ、面接を始めよう。私というプレイヤーに教わりたくないというのなら、先にこの場を去ってほしいけどね」
『…………』
「うんうん、さすがあの人たちが直接スカウトしてきた人たちだね。てっきり、一人ぐらいは男だからと帰ると思ってたんだけど……ごめんね、それは謝罪するよ」
『っ……!』
何やら驚いている気がするが、さすがにこれには反省だ。
だって、プーチが連れてきたプレイヤーもいるんだから……絶対男性嫌いを混ぜ込むと思ってたんだよ。
アイツ、表面は取り繕ってるけど実際の態度は変わってないし。
だがまあ、よくよく考えれば今回の面接は全メンバーに関係するイベント。
私情を挟まずに動くのが普通だよな。
「では改めて、よろしくね」
『よろしくお願いします!』
そして、面接が始まった。
◆ □ ◆ □ ◆
面接も終わり、今日は一度帰ってもらうことにした。
メンバーをいったん集めて、そちらにも質問しておきたかったからだ。
「──いちおう全員に訊いたけど、どうやって見つけたの?」
「何がですか?」
「全員が全員、『生産を極めし者』を欲しがるって凄いね」
まあ、ランクB以上固定はかなり便利な効果だと思うけどな。
オリジナルアイテムの作成率も上がるし、俺みたいに【生産神】とかわけの分からない展開にならなければ……普通欲しがるのか。
「……むしろ、メルが持っている方が異常だと思うんだけれど」
「え? 六職以上の二次生産職をカンストさせるだけでしょ? あとはそれらの職業に関するアイテムの品質でSを取る必要があるくらいだけど……」
「生産だけを行う者ならばともかく、戦闘を兼ねている者が持っているのはメルだけしか知られていないのだ」
まあ、平行してレベリングするのはキツイからな。
片方をやってももう片方は上がらないし、それでも種族レベルは上がるから少しずつ成長しづらくなる。
だんだんと疲弊してくるだよ。
「ま、できるだけ教えてみるよ。それが終われば──私がデザートを作る必要がなくなるから『それは駄目!』……えー」
どうやら、このギルドは料理を生産プレイヤーに任せる気はないようだ。
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