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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者とサルワス
しおりを挟むサルワス
辿り着いたその町は、活気あふれる港町であった。
新鮮な海産物が安く売られ、大量に購入されては魔道具の中に仕舞われている。
スロートでは、そうしたアイテムを持っていない者たちが加工した魚を販売していたのだが……この世界には魔法という概念が存在するため、新鮮な魚をいつでも食べられるようにすることもできる。
「うーみー!」
「それ、前にもやりましたよね? 今回は泳げませんよ」
「私は泳いでなかったよ。それに、海がある限りこのネタは続くんだよ」
「そうなんですか?」
来る途中から潮の匂いが漂って来ていたので、その期待感は少しずつ高まっていた。
その上で、魚市場などでよく見かけるあの光景が視界に入れば──こうなるのも仕方あるまい。
俺は違うが、海なし県に住んでいる者にはこういうテンションになる奴がいる……かもしれないからな。
実際、海を知らなかった眷属を海へ連れだしたら大興奮だったし。
「一日目は遊ぶんだ! ますたーたちも、それで構わないよね?」
「はい。土地を覚えることに、今日は時間を使いたいので……メルは非常時以外はお好きにしてください」
「ひゃっふー! 行ってきまーす!」
空間魔法“空間転移”で死角に移動してから、姿を変えておく。
少女ではなく少年に、普人ではなく鬼人になり、額から角が生えた緑髪の子供になる。
そして心の底から無邪気にはしゃぎ、しばらく巡ってみる。
「海といえば……うん。肉好きな俺には、あまりいいアイデアが浮かばないな」
やっぱり普通では高すぎて買えない海産物の購入、というのが一番なんだが……どうにも肉の方がな。
「ハッ! 肉の味がする魚もファンタジー世界として存在するのかも! というか、海に住む竜の肉があった!」
ドラゴンの肉は旨い、それはゲームとしてAFOを始めた頃から知っている。
なんせ、こっち側で一番最初に食べた肉が亜竜の物だったし。
「ソウの肉、旨いんだよなー。人肉嗜食は無いけど、さすが世界最強って実力を発揮していたよ」
ドMは時々人の姿となり、食糧庫の中に自分のドラゴン状態の部位を抛り込んでいる。
……旨いんだよ、それが。
素材としても最高級のドラゴンが、望んで献上した肉……鑑定眼で視るとそこに補正がかかっていた。
「いやまあ、さすがに眷属たちに食べさせるわけにはいかないからな。基本は俺とソウで全部食べてるけどさ」
ソウとしては、自分の体を俺が満足そうに食べてくれるのが至福なんだそうで。
しかし、眷属同士で人肉嗜食をやらせるのはあれだからな。
ちなみにグラは例外として、いっしょに食べることがある。
最初は駄目だと言っていたんだが……目の前に食事があるのに云々と怒られてしまったので諦めた。
「──って、そろそろ実際にどうなのかを調べないとな」
どれだけこうして考えていようと、所詮は机上の空論状態だ。
何がどれだけあるかを知るには、己の体を動かして探索するのが一番であろう。
<八感知覚>をフルに作動させ、この町に何があるかを調べていった。
途中までは順調に行っていたが、なんだか寂しくなってきたため眷属を呼びだす。
嗅覚が優れすぎた者にとって、この町の香りは少々アレなので……今回はそうではない眷属を選んでみた。
「──と、いうわけでリー隊員。君には期待しているぞ」
「……いや、何がですか」
「おいおい、話を聞いていたか? リーに頼みたいのは…………あれだ、任せたぞ!」
「何も言ってないじゃないの!」
はははっ、冗談さ冗談……ほぼ。
いつもいつも、リーのツッコミは冴え渡っているなー。
さすが、いずれ神の領域へ(ツッコミが)達するであろうリー様だ。
「なあ、可愛い可愛い俺のリー。今からいっしょにデートでもしないか?」
「かか、可愛い!? そそそ、それにおお、俺のリーだなんて!?」
紅潮するリー。
いやまあ、リーを呼んだ時にギーからそう言うように連絡が来たからな。
本音を言うの恥ずかしいが、まあ嘘は無いから言うこと自体は構わない。
……だが、普通『俺の』だなんて言われたら怒るもんじゃないのか?
「と、ここまではギーのカンペ通りに読んだ俺の本音なんだが……そろそろ行こうか」
「って、カンペ!? え、でも本音? どど、どういうことなの?」
「本音を話せと連絡が来た。だからリーに対する気持ちをそのまま言っただけだ。俺がお前を好きだと思う気持ちに、嘘偽りなんて存在しないさ」
さらに顔を真っ赤に染める。
いや、そこまで反応してくれると俺としてもありがたいんだが……いつまでも、初心で可愛いな。
やんややんやでクネクネと踊るリーの手を取り、優しく引っ張る。
「きゃっ!」
「ほら、行こうぜリー。二人っきりのデートが待ってるからさ」
「は、ひゃい!」
こういうのも、俺のキャラではないんだけれど……まあ、たまにはやってみるのもありなのかな?
リーもおずおずとだが手を握り返してくれるし、まんざらでもなさそうな至福の顔を浮かべてくれている。
そして、二人っきりのデートを楽しんだ。
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