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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者とカウム海道
しおりを挟むカウム海道
スロートでの思い出作りも終わり、クラーレたち『月の乙女』は港町サルワスを目指して移動を開始した。
ただ、有料の道を使っての行軍なため、魔物に襲われるといった心配はいっさいない。
彼女たちは、ただ安全な道を進んでいくだけである。
「晴れてよかったです。絶好の移動日和、といったところでしょうか」
「天気ぐらい、私がえいやーってやれば変えられよ?」
「メルが言うことはほぼ事実ですけど、それは止めてくださいね」
「はーい」
風を操ってよし、蒸発させてよし、消失させるもよし。
強引にやる系なら、ほぼどんなやり方でもできそうな気がしてきた。
一番簡単なのは、結界で雨を防いで小さな太陽を自分たちに近くに置いておく、と言った方法だろうか。
違和感が半端ないが、そんな些細なことは日の光が忘れさせてくれるぞ。
「そういえば、海見えないね」
「海道と言って海が見えるのは、あくまで道が海に沿くしている場所ですよ。この場合の海道とは、主要な道──街道の海バージョンだと思います」
「ほへー、ますたーは頭が良いんだねー」
俺としては、東海道って海が見えない場所もあるよね? 的なことしか浮かばなかったのだが……。
この場合の海道とは、東海の道であって海沿いの道という意味ではないからな(それでも略称は海道とされるが)。
「ところでますたー。どうして海道は有料の道が造られているのに、緑野は有料の道を造らないの? バーリ街道にはあるんだから、全部繋げちゃえばいいじゃん」
「プレイヤーが増えた今なら簡単にできますが、昔はそう上手くいかなかったようで……エリアボス戦を回避できる道を、そう何個も用意したくなかったのでは?」
「なんとなく分かった……かな?」
道を繋がれば、利便性に富む代わりに分不相応な輩が集まる。
自由民の場合はほぼ無いが、プレイヤーならばごまんといるしな。
……というか、エリアボスで移動を遮られているのはプレイヤーだけなので、移動に護衛でも付ければ自由民は問題ないのか。
「一定レベル以上じゃないと使えない道路、なんて物があればいいのにね」
「どのくらいのレベルまで、メルは制限して造れるんですか?」
「……なんで、造れる前提なのか分からないけど、私以下のレベルなら、たぶん自由に制限できると思うよ」
「そうなると、もう誰にも使えないようにすることも可能ということですか」
「現状だと、そうなるのかな」
前にリュシルが作っていた、称号識別型の結界があれば容易いな。
条件をレア称号にでもしておけば、むしろインターホン代わりになる。
それ相応に維持する魔力が必要だが、消費以上の益が入るのだから問題なしだ。
「というより、転移門があるよね。一度目はともかく、二度目はみんなあっちか」
「プレイヤーはお金を稼いでいる人が多いですからね。空間魔法をパーティーの誰も使えない人は、お世話になっているでしょう」
『月の乙女』の場合は、プーチが持っているので問題なしだ。
魔力も人数・距離がある程度変動しても、耐えうるだけの量を有している。
さすが、『魔女』という職業に就いているだけあった。
「うんうん、このパーティーって結構バランスいいんだよね。私はあんまりパーティー単位で動いたことがないし、あったとしても本当に一度くらいなんだよね」
「メルがパーティーにですか? よければ、話してくれませんか」
あれ? なぜだろう……他のメンバーたちが耳を傾けている気がする。
「別にいいよ。私がパーティーとして動いたのはダンジョンに行ったとき。メンバーは私も含めて四人で──シスコン、その妹、盾職が仲間だったな」
「シスコン……ですか? それに妹って職業というより役割は?」
「シスコンが槍を持って中距離攻撃、妹が弓で遠距離攻撃だったなー。私は斥候として、罠の解除と魔物の殲滅をやってたよ」
『あー』
全員で納得されても困るんだが。
というより、何を感じてそう思ったんだ?
「その盾職の人、大変そうですね」
「え? どうして?」
「いや、メルが動くとなると……出番が、無さそうでな」
代表して、盾職であるディオンが俺にそう伝えてくる。
そういえば、【盾聖】に気づかれてたな。
もしかしてあれは、出番の催促だったのではないだろうか。
……だとしたら、悪いことをしたな。
──今度ナックルといっしょに、試作ダンジョンへ招待してやろう。
「あ、海が視えてきたよ!」
「……たしかに、遠くにほんの少しだけ見えていますね」
便利な神の眼を複合して使い、遠くに存在する海を見つけだす。
基本は地球にある海と同じ、別に水龍のような魔物が頭部を出して、ゴンドラを引っ張るなんて水の都的な現象は視えない。
「船もあるね……って、ますたー。そういえば、プレイヤーで別の大陸に行った人っているのかな?」
「そういえば聞いたことがありませんね……情報を隠蔽しているんでしょうか?」
少し気になるな。
町に着いたら情報を調べておこうか。
そんなこんなで、俺たちは『サルワス』に辿り着いた。
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