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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と赤ずきん その16

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 俺もただ、それをボーっと見ていたわけではない。

 頭の中に流れ込んでくる、大量のメッセージを読み通していた。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 童話クエスト『精霊姫赤ずきん』が達成されました
報酬として、『魔封じの赤ずきん』・『貪食人狼の籠手』が与えられます

 ERROR 異常なコードによる介入
[不明]の『運命略奪者』が発動しました
これにより、?????の元へ帰還する予定だった????の欠片は、[不明]の元へ移譲されます

 運命改変が成功しました
これにより、童話クエスト『精霊姫赤ずきん』は消滅します

 特殊条件達成
童話世界『名称未設定』を支配下に収めます

『名称未設定』内の運命はメルスの支配下に置かれ、運命神の管轄外に置かれます
以降の『名称未設定』の統治は全て[不明]に委ねられ、<箱庭造り>より操作が可能となります

  ◆   □   ◆   □   ◆

 クエスト自体はクリアしているので、最初の文はこれまでと異なり報酬が貰えるというサービスが付いている。

 だが次の文はいつも同様、『運命略奪者』が発動して何かが移譲された。

 そしてその後……ここが問題だな。
 クエストが消滅し、特殊条件のせいかこの世界ごと略奪してしまっている。

 慌てて<箱庭造り>を確認して視れば、本当に『名称未設定』という世界が入っているのだから驚きだ。

 ──世界って、貰えるものなんだ。



 さて、そうして思考を進めていると、二人のやり取りも終わっていた。

 赤ずきんが手を差し伸べ、おずおずと出そうとした手を捕まれて狼男が立ち上がる、などという甘ったるい展開になっている。

 チッ……、こういうことかよ。


「お二方、もうよろしいですか?」

「え? ……あっ」

「申し訳ありませんが、これからの生活に関わる重大な問題ができましたので……少し、話を聞いてもらえませんか?」


 狼男とのあれこれに慌てだした赤ずきんを落ち着かせ、まずは事情を説明する。

 プレイヤーのあれこれやクソ女神のこと、そして先ほどの通知などに関してだ。


「えっと、要するにメル君がワタシたちの住む場所の神様になったってこと?」

「全然違いますけど、説明が難しいのでそういった認識で構いません。ボクがここに手を加えることはほぼありませんので、しばらくは平穏な生活が続くと思います」

「この世界は偽物か……そうは見えねぇんだけどな」

「世界が途中で途切れています。四方が壁に囲まれた、箱の中だとでも思ってくれれば簡単です。たぶん近づくと、その先には何もないことに気づけますよ」


 普通町の外に用事がある奴がいれば、すぐにバレると思うんだけど……この世界を構成する際に、そういった用事の無い奴だけを取り込めばいいんだしな。

 それに、どれだけプレイヤーが来ても、時間がリセットされているんだから、赤ずきんが実際に食べられた日に食料が足りていれば問題ないんだ。


「あくまでこの世界は、クソ女神とそちらで泣いていた狼人の想いを元に再構築された過去の模造品です。この世界で起きた経験は全て、クソ女神に還元されるんですよ」

「な、何度聞いてもメル君が女神様に悪態を吐くのはなれないな」

「俺ぁ記憶を取り戻して、本当にアレと話したからそう思うぞ」


 初めてしっかりと認識した上で、俺の意見に共感してくれる奴を見つけたな。

 リアは寝てたから知らないし、ミシェルも封印されたときの記憶がない。
 リオンはシーバラスがクソ女神とつるもうとしていたという情報は知っていたが、細やかな情報は知らなかった。

 どうやら、まだ本性を隠していたようだ。


「まあボクがクソ女神をどう呼ぶかはともかくです……これからこの世界は、再び時間が進んでいきます」

「どういうこと?」

「これまでは、今日寝てもまた同じ日が続いていました。ですが、これからはこの閉ざされた世界で生きていくという意識が必要となります。ボクが全てに干渉して、食料だろうと日用雑貨だろうと用意することはできますが……それでは、成長できません」

「それを言うってこたぁ、何かやらせたいことがあんだな?」

「そうですね。お二方が、あの町で住民にそのことを呼びかける……なんていうのが、ボクとしては一番良いんですけど」


 転移門を繋げる予定なので、これからはその先の住民と仲良くやってほしい、そう伝えてほしかった。

 幸いにして、村にも第一次産業はあったのですぐ困るという事態には陥らない。


「魔子鬼たちの国、リーンと繋がる門を町の外に設置します。人族の言語も話せますし、ほとんどの者は進化していますので、外見を嫌悪する者は少ないでしょう」

「えっと、どうしてそこと繋がるの?」

「ボクの国ですから」


 唖然、二人の表情を見るとそう思われているのがよく分かる。

 クソッ! 仲良しかよ! ハーレム持ちとはいえ、ボッチに魅せつけやがって!


「詳細はまたこれから、町の偉い人やおばあさんといっしょに決めましょう。その前に一つ、二人に訊きたいことがあるんです」

「訊きたいこと? なんでも訊いてよ」
「……あぁ、もしかしてあれか」


 どうやら、もう狼男は気づいてるようだ。
 俺は笑顔を浮かべて、こう尋ねる。


「二人の名前は、なんですか?」


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