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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と赤ずきん その08

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「誰にも止められねぇよ! 止めてぇなら、腹を満たしてみるだなぁぁぁ!」

 少年・・おばあさん・・・・・と二人、狼人を相手に死闘を繰り広げていた。
 と、言っても少年に戦う術はありませんでした。

 少年にできるのは、おばあさんの動きを魔法で補助すること。
 それに、自身の生産スキルで生み出したアイテムを渡すことだけ。

 今は攻撃用のアイテムをインベントリから取り出して、狼人に攻撃しています。

「どうするんだい? このままだと、あの娘がここに来ちまうよ」

「────、────」

「なるほどね。どちらにせよ、今止められなきゃ同じってわけかね」

「────」

「魔法が効かない、近づいたら喰べられる。まったく、面倒な相手があの娘を狙ってきたもんさ」

「俺の【貪食】さに恐れ入ったか! 全ては俺の胃袋へ! 暴食も強欲も関係ねぇ──求めるのは、万物を呑み込むことだけだ! 全ては糧、即ち餌。他者を喰らい生きること、それは生者の特権だ! 弱肉強食それこそ真理、弱ェテメェらは食材なんだよ!」

 狂った理論を述べ、牙を剥き出しにして唸りだす狼人。

 お預けを受けたまま、二人との戦闘をしているためお腹が空いていました。

 魔法を食べることもできますが、何よりも彼のお腹を満たすものはそれではありませんでした。

 本当に満たされるものとは──

  ◆   □   ◆   □   ◆

「足りねぇ少ねぇ満たされねぇ! 魚料理が全然弱ェじゃねぇか! 残るはメイン、こっちはテメェらの肉だって決めてんだよ! もうこれ以上は耐えられねぇ、そろそろこっちから行かせてもらうぞ!!」

 再び放った攻撃も、狼人にはいっさいの影響を及ぼすこともなかった。

 あれ以降の攻撃には、魔法だけでなく少年による物理攻撃を交えていた。

 しかし魔法は手で触れた途端掻き消え、振り下ろされた武器も弾かれる。

「これは……まあ、想定内です。姫様、ではそろそろ覚悟を決めてください」

「う、うん……分かってる」

 赤ずきんと少年は、そう言葉を交わして行動を開始する。

 少年が単独で狼人を相手取り、その間に赤ずきんが精霊たちに希う。

 これまでの方法で仕留め切れなかった場合に用意した、赤ずきん主体で狼人を倒すための手段である。



「──と、いうわけでボクが相手です。これまでよりも、少し強めにいきますよ」

前菜オードブルが負けたら、そこからフルコースの始まりだ。始めようぜ──イタダキマス!」

 木の棒を構えた少年の元へ、牙を剥き出しにした狼人がダッシュで向かう。
 これまではいっさい攻撃をせず、振られた棒も払いのけるだけだった。

 しかし、飢えに餓えを重ねた狼人はついに自ら攻撃を始める。
 自身の鋭い爪をスキルで強化し、棒を切り落とすように振るう。

 だが、棒と爪がぶつかった瞬間──甲高い金属音が鳴り響く。

「ぐぁっ、硬ェ!」

「武器の強化ぐらい、やりますよ」

 魔力を通すことで、少年は自らの武器の強度を高めていた。

 それは狼人の喰らってきたスキルの数々を超えた、頑丈さを示している。

「さっきまでは、無強化だったってわけか」

「お前が攻撃をしない愚かな奴で助かった。お蔭でこうして、武器を使える」

「……そうかい。ならその自信を圧し折ったとき、テメェはどんな声で哭いてくれるんだろうな!」

「折れませんよ、決して」

 何度も何度もぶつかり合う。
 そのたびに衝撃と音が、辺り一帯に響いていった。

「……諦めませんね。武器に固執するより、そろそろボク自身を狙いませんか?」

「馬鹿か、テメェは。そんなことしたら、テメェを恐怖させる調味料も、アイツに絶望を見せることもできねぇじゃねぇか」

「矜持に則りますね。お前にとって食事という行為は、大切にしたいことなんですか?」

「当然だ。【貪食】だからこそ、ただ喰らうだけじゃつまらねぇ。何をどれだけどうやって、どこで誰とどのようにして喰べるのか、それを整えることが至高なんだ」

 これまで以上に強化した片腕で、棒を弾いて防ぐ。

 そして空いたもう片方の腕を振るい、少年の体を貫く──

「甘い──“回し蹴りソバット”」

 直前、少年が屈んでそれを避けると、小さく跳ねて一回転する。
 その回転力を支点として、腹部に強烈な蹴りを撃ち込む。

「がぶっ!」

 これまで棒しか振ってこなかった少年の一撃に、対応できなかった狼人は成す術もなく体を宙に浮かせる。

 何本もの木々が巻き添えをくらい、森の奥まで勢いよく吹っ飛んでいく。



「……骨までいったかな?」

 全身をさまざまなスキルで強化していた狼人を蹴り、少年の肉体もまたダメージを受けている。
 筋肉の繊維が千切れ、骨がグシャグシャになるほどの衝撃であった。

 即座に魔法で癒したものの、少年自身が科した縛りによって完全な回復にはまだまだ時間がかかる。

「ボク……いや、俺の出番はもうここで終わりだな。リアの時とは違う、俺が願われたのはあくまで手伝いだけ。あとのことは、この世界の主人公がどうにかするか」

 強大な魔力の反応が、狼人が飛ばされた先で二つ・・発生する。

 少年──もとい偽善者は眼の色を変え、その様子を傍観していった。

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