710 / 2,518
偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と赤ずきん その07
しおりを挟む「花畑なんて、どこにもないじゃない」
赤ずきんは、共にいた女性に言われてそのことに気づきました。
青年が指差した先に見えた花畑、それは魔法によって生みだされた幻覚だったのです。
「……なんのことでしょうか。ほら、もう一度しっかりと見てみれば──」
「────、────」
「ほら、────もこう言ってるのよ。どうしてこんなことをしようとしたか、しっかり吐きなさい!」
青年に近づいて、問い詰める赤ずきん。
ニコニコと笑顔を浮かべていた青年でしたが、だんだんと顔色を変えて──
「チッ、まあいいか」
「えっ……」
「つまみ喰いはマナー違反だが、たまにやるのも乙なもんだしな」
剥き出しの牙、そして口の中に切れた手を頬張った見せてそう言います。
「あぁぁ──!」
突然悲鳴を上げる赤ずきん。
その右手は──まるで、食べられたかのように無残に喰い千切られていました。
「────“────”!」
「おっ、肉体を再生できるのか。いいねぇいいねぇ、踊り喰いし放題じゃねぇか!」
慌てて赤ずきんに駆け寄り、回復魔法をかけて苦痛を取り除きました。
同時に肉体再生の魔法を行使して、食べられた腕を再び生やします。
「……って、加工してねぇと生えるじゃなくて戻るのかよ。まあ、そっちの方が食材側は楽だよな。次は焼いて喰べようか」
もう正体を隠す気などありません。
狼の耳を頭部から生やし、舌なめずりをして二人の元へ迫りました。
◆ □ ◆ □ ◆
「メル君!」
「あ、姫様。お疲れ様です」
「大丈夫、けがはない?」
おばあさんの家の周辺は煙に包まれる。
屋根の上からそれを見ていた少年の元へ、精霊の力を借りた赤ずきんがやってくる。
「はい、時間を稼いでいただけですから」
「作戦通り、上手くいったね」
少年が狼人の前に現れ、隙を作る。
それを狙って赤ずきんが、精霊たちにお願いして魔法で一掃する──それが彼らの考えた作戦であった。
「……でも、おばあさんの家が」
「大切なのは、住む家そのものじゃなくて済む人です。おばあさんは先に町へ転移させましたので、家は後でもう一度建てましょう」
精霊たちの魔法によって、彼らが足場にしている家にも衝撃が入った。
そもそも、ここを戦闘の舞台として選んだ時点である程度覚悟はしていたのだ。
「それに──まだ戦いは終わってません」
「ま、まだ倒せないの!?」
「相手はなんでも食べられると言ってましたので、おそらく魔法も食べられますね」
そういった途端、強烈な風が彼らの方に放たれる。
たなびいていた煙もそれに引っ張られるように飛んでくるため、一瞬視界が奪われる。
「……っ。姫様、失礼します!」
「う、うん!」
赤ずきんの手を引き、少年は自身の持つ転移スキルを発動する。
地上に着地した次の瞬間──先ほどまでいたおばあさんの家が、激しい音を立てて崩壊していく。
「テメェら、やってくれんじゃねぇかぁ!」
「まずは前菜、精霊たちの魔法です。お気に召しましたか?」
「あぁ、最高だ! 精霊士になんてなかなか会えねぇからな、旨ェじゃねぇか!」
崩壊し、土埃が巻き上がる建物の中心でそう叫ぶ狼人。
そこにいっさいの汚れはなく、ただただ至福の表情を浮かべて礼を言う。
「次はスープだぞ、テメェらはどんな一品を出してくれんだ? ……やらねぇなら、代わりに俺がやるぞ」
「そちらのスープは?」
「今の予定だと……テメェらの生き血を混ぜたもんだな。転移スキルの持ち主と精霊士の血……魔力が豊富そうだぜ」
メニューを語るだけで、涎が滝のように溢れ出る狼人。
その狂気性にゾッとする赤ずきんだが、隣にいる少年の冷静さを見て、どうにか気を取り直しビシッと立つ。
「そうですか──なら、こちらなどいかがでしょうか?」
指を鳴らす少年、赤ずきんもまたその合図に祈りを捧げる。
精霊たちに望むのは、瀑布のように注がれる洪水。
「精霊たちの魔力で作られた水、そこに隠し味としてボクの魔力を混ぜ込んだ拘束魔法でございます」
「そんなもん、喰らえば充ぶ──っ!?」
「なお、若干生きが良いのでご注意を。無遠慮に手を出すと、食材に食べられてしまいますからご注意を」
自身のスキルで魔法を喰らおうとした狼人だが、上から降り注ぐ水が意志を持ったかのように狼人の掌を避ける。
そして一つに纏まると、四肢を繋ぐ関節より内側を包んでいった。
「お前のスキルは全身を使っているわけじゃない。おそらく発動には掌か口が必要だ。ならそこを縛れば、動けなくなる」
「考えたな前菜。──だが甘ェよ!」
「メル君、水が!」
動けなくされていた狼人だが、ただ意味もなく拘束されていたわけではなかった。
他者から喰らったスキルを駆使し、どうにか顔を水面に近づけて──
「んぐっ、んぐっ…………カァアアアア! やっぱ旨ェじゃねぇか!」
「く、首が……伸びた?」
「関節を弄ればそれぐれぇできるだろ。それよりこの水、どんだけ旨ェんだよ! おい、お代わりはあるか!?」
「残念ながら、一品限りです。ですがご安心ください──フルコースはまだあります」
「そうだよな! 次は魚料理だ! ほれ、殺されたくなきゃとっとと出せ!」
狂暴そうな牙を見せ、脅しにかかる狼人。
二人はそれに負けじとジッと狼人を見て、次の作業に取りかかった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる