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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と童話クエスト 後篇

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 リーン


「それで、これがその本か……」

「らしいよ、師匠」


 邸宅に呼ばれて向かってみれば、自慢げに本を置いたユウが待っていた。

 SS通り表紙には何もイラストは描かれておらず、ただ『赤ずきん』とタイトルが記されているだけだ。


「お前以外の『ユニーク』、それに『月の乙女』たちはやったか?」

「うん、みんな失敗してたね。だからこそ、こうしてこの場にあるんだけど。僕もやってみたいけど、師匠がやるなら裏で壮絶なナニカがあるのは間違いないってナックルも言ってたからね」

「……アイツ、人をなんだと思ってんだ」

「厄介事の中心人物?」


 失礼な! 人を主人公みたいに奉ろうとしやがって!

 だいたい俺だって知ってんだぞ、仙人になるクエストだかが出たらしいじゃないか。

 俺もなってないような種族に到達しているような奴が、俺ばかり上に仕立てるな!


「今度リョクにキツく扱いてもらおう。……とりあえず、触っても良いか?」

「うん」


 ユウはスッと、自分の手を──


「お前じゃない、本だよ本。というか、どうしてこのタイミングでお前の手を触る必要があるんだ」

「えー、師匠も冷たいなー。せっかく、美少女だって有名な僕の柔肌を、師匠にだけ触らせてあげようと思ったのに」

「何が美少女だ。そこは否定しないが、せめてミントの可愛さを超えてから言え」


 出した手にシッペで叩き、自分で置かれた本を回収する。

 本の解析を即座に始めたので、ユウがどのような表情をしていたかは分からないが……まあ、愕然としていたんじゃないか?

 ミントとカグの可愛さは、この世界でも異世界でも通用する愛らしさでございまする。


「……え? 嘘、あの師匠が!?」

「お前がどういう目で俺を見ているか、それがよーく分かったが……解析中だ、黙って座るか帰るか選べ」

「は、ひゃいっ!」


 ユウらしからぬ焦った声だが、やっぱり超えるべきハードルが高過ぎたか。
 だからこんなに焦っているんだろう。


「神気によるフィルム、それがトリガーとして機能している。クソ女神め、逃がす気は無いし中に入る奴を餌としか見てないだろ」

「……やっぱり、凄い単語が出てくるね。どうしたら本を調べて、餌なんて言葉が出るんだろう」

「だがそれでも、マゾゲーであってクソゲーじゃないみたいだな。もともと嫌がらせをする性根の悪さはあったが、無理矢理封じるようなことはしなかったみたいだし」


 おそらくだが、契約や誓約が関係するんだろう。

 相手に誓わせるからこそ、ある程度人権を無視した所業を行うことができる。
 逆にそれを拒否したリアの場合、本人ではなく外側から捕まえ──そのまま遠くに飛ばした。


「何がしたいか分からないな……よし、これで変えられた」

「何をしたの?」

「術式の改変、人数の制限を外して本が戻る条件を時間だけにしておいた。一時的なものだから、俺とユウが使い終われば本の術式はまた戻るぞ」


 完全に解除することはできなかった。
 俺の低スペックな頭脳だと、これぐらいをするのが精一杯である。


「え? もしかして師匠……」

「仲間外れも悪いからな、まずはユウにやってきてもらおうか」

「え、師匠が先じゃないの?」

「──終わらせるんだから、俺より後なんてないぞ」

「……そうだった。それでこその師匠だね」


 ユウが受け取った本を開くと、また複雑な術式が展開してユウを包んでいく。

 眩い閃光が奔ったと思えば、ユウの姿が忽然と消えていた。


「さて、今の内にその術式も調べておいた方がいいかな?」


 光で術式を隠していたが、高速化させていた思考で即座に魔法を発動させる。

 闇魔法系に属する暗視の魔法──それで視界を確保して、どうにか隠蔽された術式を視ることができた。

 ユウがクエストを達成できるかは分からないが、とりあえずは解析に専念しよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「うー、最悪。なんなのさ、アレは」


 帰ってきた断罪者の感想が、これである。

 顔中に嫌悪感を出し、どれだけ童話クエストが嫌だったかをボソボソと語っていく。


「──まったく、みんなもみんなでどうしてこれを言ってくれなかったのさ」

「情報の共有も、良いことばかりじゃないことぐらい分かってるんだろ? 特にクエストのネタバレなんて、プレイヤーの中じゃ御法度みたいなもんじゃないか」


 まあ、それぐらいは分かっているだろう。
 それを認めたくない程に、物語自体がバッドエンドだったってことだ。

 俺もクソ女神も同じ、ある意味で人を救う行為を行っている。

 ただやり方が異なり、互いに互いの行為を否定している可能性が高いだけだ。


「──ま、どんなバッドエンドであれ、行かなきゃなんにも分からないだろ。……いちおう訊くけど、大まかな内容は地球の絵本とかにある『赤ずきん』と同じなんだよな?」

「うん、そこは同じだったよ。ファンタジーらしい内容がミックスされてたけど、大筋は変わらない」


 そこはリアと変わらないのか。
 リアも呪いが一部スキルに置き換えられていたものの、『眠りの森の美女』と内容自体はほぼ同じだった。

 しかしクソ女神の呪縛があり、魔女マレフィセントという監視が置かれていた。

 おそらく今回の『赤ずきん』にも、そのような者がいるだろう。

 狼男か祖母、母か猟師……この四人しか主人公である赤ずきん以外にはいないから、推測は簡単だ。


「それじゃあ行ってくる。ユウの体感時間的にはすぐだし、そこに置いておいたお菓子でも食べて待ってろよ」

「わ、分かりました!」


 そう告げて、俺もまた本を開く。
 すると、眩い光が視界を焼き──


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