703 / 2,519
偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と童話クエスト 後篇
しおりを挟むリーン
「それで、これがその本か……」
「らしいよ、師匠」
邸宅に呼ばれて向かってみれば、自慢げに本を置いたユウが待っていた。
SS通り表紙には何もイラストは描かれておらず、ただ『赤ずきん』とタイトルが記されているだけだ。
「お前以外の『ユニーク』、それに『月の乙女』たちはやったか?」
「うん、みんな失敗してたね。だからこそ、こうしてこの場にあるんだけど。僕もやってみたいけど、師匠がやるなら裏で壮絶なナニカがあるのは間違いないってナックルも言ってたからね」
「……アイツ、人をなんだと思ってんだ」
「厄介事の中心人物?」
失礼な! 人を主人公みたいに奉ろうとしやがって!
だいたい俺だって知ってんだぞ、仙人になるクエストだかが出たらしいじゃないか。
俺もなってないような種族に到達しているような奴が、俺ばかり上に仕立てるな!
「今度リョクにキツく扱いてもらおう。……とりあえず、触っても良いか?」
「うん」
ユウはスッと、自分の手を──
「お前じゃない、本だよ本。というか、どうしてこのタイミングでお前の手を触る必要があるんだ」
「えー、師匠も冷たいなー。せっかく、美少女だって有名な僕の柔肌を、師匠にだけ触らせてあげようと思ったのに」
「何が美少女だ。そこは否定しないが、せめてミントの可愛さを超えてから言え」
出した手にシッペで叩き、自分で置かれた本を回収する。
本の解析を即座に始めたので、ユウがどのような表情をしていたかは分からないが……まあ、愕然としていたんじゃないか?
ミントとカグの可愛さは、この世界でも異世界でも通用する愛らしさでございまする。
「……え? 嘘、あの師匠が!?」
「お前がどういう目で俺を見ているか、それがよーく分かったが……解析中だ、黙って座るか帰るか選べ」
「は、ひゃいっ!」
ユウらしからぬ焦った声だが、やっぱり超えるべきハードルが高過ぎたか。
だからこんなに焦っているんだろう。
「神気によるフィルム、それがトリガーとして機能している。クソ女神め、逃がす気は無いし中に入る奴を餌としか見てないだろ」
「……やっぱり、凄い単語が出てくるね。どうしたら本を調べて、餌なんて言葉が出るんだろう」
「だがそれでも、マゾゲーであってクソゲーじゃないみたいだな。もともと嫌がらせをする性根の悪さはあったが、無理矢理封じるようなことはしなかったみたいだし」
おそらくだが、契約や誓約が関係するんだろう。
相手に誓わせるからこそ、ある程度人権を無視した所業を行うことができる。
逆にそれを拒否したリアの場合、本人ではなく外側から捕まえ──そのまま遠くに飛ばした。
「何がしたいか分からないな……よし、これで変えられた」
「何をしたの?」
「術式の改変、人数の制限を外して本が戻る条件を時間だけにしておいた。一時的なものだから、俺とユウが使い終われば本の術式はまた戻るぞ」
完全に解除することはできなかった。
俺の低スペックな頭脳だと、これぐらいをするのが精一杯である。
「え? もしかして師匠……」
「仲間外れも悪いからな、まずはユウにやってきてもらおうか」
「え、師匠が先じゃないの?」
「──終わらせるんだから、俺より後なんてないぞ」
「……そうだった。それでこその師匠だね」
ユウが受け取った本を開くと、また複雑な術式が展開してユウを包んでいく。
眩い閃光が奔ったと思えば、ユウの姿が忽然と消えていた。
「さて、今の内にその術式も調べておいた方がいいかな?」
光で術式を隠していたが、高速化させていた思考で即座に魔法を発動させる。
闇魔法系に属する暗視の魔法──それで視界を確保して、どうにか隠蔽された術式を視ることができた。
ユウがクエストを達成できるかは分からないが、とりあえずは解析に専念しよう。
◆ □ ◆ □ ◆
「うー、最悪。なんなのさ、アレは」
帰ってきた断罪者の感想が、これである。
顔中に嫌悪感を出し、どれだけ童話クエストが嫌だったかをボソボソと語っていく。
「──まったく、みんなもみんなでどうしてこれを言ってくれなかったのさ」
「情報の共有も、良いことばかりじゃないことぐらい分かってるんだろ? 特にクエストのネタバレなんて、プレイヤーの中じゃ御法度みたいなもんじゃないか」
まあ、それぐらいは分かっているだろう。
それを認めたくない程に、物語自体がバッドエンドだったってことだ。
俺もクソ女神も同じ、ある意味で人を救う行為を行っている。
ただやり方が異なり、互いに互いの行為を否定している可能性が高いだけだ。
「──ま、どんなバッドエンドであれ、行かなきゃなんにも分からないだろ。……いちおう訊くけど、大まかな内容は地球の絵本とかにある『赤ずきん』と同じなんだよな?」
「うん、そこは同じだったよ。ファンタジーらしい内容がミックスされてたけど、大筋は変わらない」
そこはリアと変わらないのか。
リアも呪いが一部スキルに置き換えられていたものの、『眠りの森の美女』と内容自体はほぼ同じだった。
しかしクソ女神の呪縛があり、魔女という監視が置かれていた。
おそらく今回の『赤ずきん』にも、そのような者がいるだろう。
狼男か祖母、母か猟師……この四人しか主人公である赤ずきん以外にはいないから、推測は簡単だ。
「それじゃあ行ってくる。ユウの体感時間的にはすぐだし、そこに置いておいたお菓子でも食べて待ってろよ」
「わ、分かりました!」
そう告げて、俺もまた本を開く。
すると、眩い光が視界を焼き──
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる