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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と童話クエスト 前篇

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 スロート


「え? 見つかったの!?」

「そうらしいです。内容はまだ不明ですが、たしかに証拠のSSもアップされたと」


 クラーレの持ってきた情報にかなり驚く。
 掲示板を漁らせてはいたが、数も多いから特定し辛いんだろうな……。

 そもそも仕事が多かったし、職場の改善からやるべきか。


「ど、どこ、いったいどこなの!?」

「お、落ち着いてくださいメル。わわ、わたしを揺すっても何も変わりませんから!」

「……そ、そうだね。焦っちゃってた」


 宥められ、一度冷静になる。

 顔も見たことのないクソ女神のせいで、プレイヤーたちに何度も同じ動きを行う役者に成り果ててしまった者たち。

 リアがなりかけていたその人形劇の舞台の一つに関する情報が、掲載されたようだ。


「えっと、クエストの最中に遺跡を散策していると、隠し部屋を見つけた。依頼主に断ってからそこを調べてみると──古びた一冊の本が置かれていた、だそうです」

「……それが、私の探していた物?」

「タイトルが書いてあったそうですから。このSSです」


 クラーレが可視化してくれたSSには、確かにタイトルが写っていた。


「──『赤ずきん』」

「はい、そのようです」


 童話クエスト、クソ女神に導かれた者たちが封じられた本の中で繰り広げられる物語。

 プレイヤーは童話に入り、主人公のお手伝いをする……なんて、クソ女神云々の説明だけ聞けばなんとも心躍るクエストだろうか。

 他者の運命を弄び、自身の格を上げるがために利用する……。
 前半は俺にも当て嵌まることなので、この思いは同族嫌悪だと俺は考えている。

 とにもかくにも、俺は俺以外のやったそんな運命はなんとなく嫌なので、【傲慢】にもそれを【強欲】に略奪する予定だ。


「本自体の情報は、何かある?」

「どうやら一度に入れるのは、一人のみ。やり直しは不可能ですが、一時中断による脱出は可能のようです。ただ、長時間占用することはできないようで、パーティーの全員が失敗するか一定時間が経過すると本は元あった場所に戻る……と書かれています。リセットはリアルで一月掛かるそうです」

「たしかに、独占は困るもんね」


 つまり、期限内に失敗しなければ何度でも挑めるが、期限を過ぎればもうそのクエストは行うことができない──期間限定クエストみたいなものか。

 クエストが行えなくなったプレイヤーの一人が、やけくそのように投稿した情報から、検証班が試して今に至ると。
 ……情報料などで、そのプレイヤーはかなり儲かったらしい。


「ますたーたちは、やってみたい?」

「そうですね、本物の赤ずきんちゃんに会えるのなら会ってみたいです」
「私も見てみたいわね」
「やはり、狼男が出てくるのだろうか」
「というか一人って、攻略できるの?」
「まあまあ、やるだけやってみようよ」
「赤ずきんか~」


 まあ、だいたい肯定の意を返されたな。
 失敗しても一月経てば再度行えるし、独占も難しい。

 一度やってみて損はない、そう思えるように整えられている。


「でも、みんなで取り合ってるし、みんなの所に来るのはだいぶ後じゃないかな?」

「手に入れたパーティーの元へ行き、貸してもらうという手もありますけど……あまり上手い方法とは言えませんし」

「遺跡の場所は不明だから、そう簡単に行けるとも思わないけどね。メル、貴女ならどこにあるか分からないの?」

「私だって、今聞いたばかりの情報だから、まだ何も分からないよ」


 眷属に連絡して、情報を集めさせている。
 最終的には遺跡の場所を発見次第、悪役っぽい魔物に奪取させる予定だが……できるだけ合法的にクリアしたいな。

 報告がここまで遅れたのが人的問題じゃないとすれば、場所が遠いから発見が遅れた、という理由も考えられる。

 ──つまり高レベルのプレイヤーだからこそ、見つけられた場所にあるということだ。


「ますたー、ちょっと情報を訊いてくるね」

「あ、分かりました」


 先に謝っておいてから退出し、姿を隠してからとある魔道具を通じて連絡を行う。


  ◆   □   ◆   □   ◆

「はいはい、どうしたんだ?」

「童話クエスト、心当たりは?」

「いきなりだな。……結論から言えばある。というより、既に確保へ向けて動いている」

「……同業者はいるか? 場所を言ってくれれば全部潰しておくが」

「止めてくれ、そういう奴らとの競争も含めて冒険だ。回収後はユウかアルカに届けさせればいいんだよな?」

「ユウにしてくれ。それと、別に急用じゃないからユウ以外は全員試してからでいい。俺の能力があれば、そもそも所有権を奪って永続的に保持できるからな」

「マジかよ、さすがだな」

「冗談半分のごま擂りは要らん。能力の方は試せてないから確証はないし、クリアできるならそれに越したことはない。あくまで可能なら、という話だ」

「……いや、こちらも全力で動く。お前さんが目を付ける物は、必ず何か裏がある物。そういう物にこそ、価値があるんだ」

「あいよ。報酬は……そうだな、そのうち直接交渉するか」

「了解、獲得後に連絡する」

  ◆   □   ◆   □   ◆


 魔道具の動力を落とし、仕舞ってから彼女たちの元に戻る。

 この話を説明したら驚いてもらえると思ったのだが、全然驚いてもらえなかった。

 少し悲しくなったが、落ち込んでばかりもいられないので気持ちを切り替えて彼女たちの今日の活動についていく。

 ──そして数時間後、本を手に入れたとの連絡が俺の元に入った。


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