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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者と真デメリット
しおりを挟む夢現空間 自室
「実際、プレイヤーが移動している範囲で一番遠い場所ってどこなんだ」
突然、頭の中にそれが過ぎった。
一部を除き、ほぼ全てのエリアにはその先に進む道を塞ぐエリアボスがいる。
それを倒さなければ前に進めないし、必ず誰か一人は少し強めのエリアボスと戦闘を行う必要がある。
「そこより手前なら移動できるけど、さすがにそれ以上先に俺が行くのも……なんだかネタバレをしているみたいでさ」
《眷属たちが行っていますし、メルス様自身もプレイヤーが行ったことのない赤色の世界に向かっているではないですか》
いやまあ、それもそうなんだけどさ。
せめてAFOとしての世界ぐらい、そういう移動制限で縛りを入れとかないと……。
「そもそもあの世界って、普通のプレイヤーが行ける場所なのか? <次元魔法>が無いと用意できない扉じゃないか」
《扉自体は神代に創られている、そう考えれば可能性は0ではありません。ただ、プレイヤーのまま向かうのは難しいかもしれませんが……》
説明を聞くと、どうやら俺たちが使っているアバターが原因だそうで。
あれはあくまで神の力によって生み出された、使徒のような力を秘めた物。
それを使っている者は、強かれ弱かれただ生きている自由民よりも存在の格が上だ。
という話は置いておくが、要はその体のまま移動するとその移動先にいる神に影響を及ぼしかねないと言っているのだ。
例えるなら、ライバル会社で堂々と偵察しに来ましたという看板を首から下げているようなものだろうか。
──完全に、喧嘩を売ってますね。
「そんなにリスキーなことなのかよ。じゃあ俺だって、本当は不味いんじゃ──」
《メルス様のアバターは、かいぞ……もとい強化の結果運営神の軛から外れていますのでお気になさらず。メルス様の行動は全て、縛られることはございません》
「おい、今改造って言おうとしたよな」
……まあ、頼んだのは俺だから別に構わないけどさ。
ただの俺──地球に眠る俺の肉体情報──が微妙に混じっている今の体ならばできると見越して頼んだが、思いの外上手くいった。
そしてつまり、俺は自由だから赤色の世界に行っても問題ないということか。
逆に言えば、同様の処置を行えば他の者も来れるということなんだが。
「それって、他のプレイヤーも──」
《可能ですが、難しいかと。自ら神格を獲得した者ならともかく、ベッタリと運営神のご加護にあやかっている者たちには》
「死に戻りのことか?」
《あのような行いが、無条件でいっさいの対価も要求されずに可能とは思えま……いえ、例外がありしたね》
「うん、結構あるよな」
フェニの(再生の焔)や禁忌魔法の“完全蘇生”が該当する。
これらはノーリスク、(再生の焔)に至ってはむしろメリットすら使用者に与える蘇生スキルや魔法だ。
魂の定着は神の所業、それを人の身で足掻いた結果が死霊系統の魔法らしい。
「対価が要求されるってのは、どういう対価なのか想像がつくか?」
《一番分かりやすいもので、経験値の現象でしょうか。強い者からはより多くの経験を奪い、自らの糧とすることで格を強化することができます》
「それはもう、ギブ&テイクが成立してるからな。納得だ」
廃人どもはより奥へ進むため、死に戻ってでも攻略を続ける。
運営神は彼らを生き返らせるというサポートを行う傍ら、秘密裏に自らの成長に彼らの経験値を使っているということだろう。
対等かはともかくとして、誰も困らないまさにWinWinな関係と言えた。
「死に戻りか……眷属はどうなってる?」
《確実に成功します。ただ、その対価がどこまで及ぶかが不明です》
「構わない。それこそ、俺の命さえ取られなければなんだって取れいい」
《ッ! そういったことが──!》
「焦るなって。あくまで、最終段階の話をしているだけだろ? そうなる前に蘇生が可能なら、俺は何もしないさ。そうしなくても、ちゃんと助かるなら、な?」
眷属が俺を大切にしてくれているように、俺もまた眷属を大切にしている。
実際それが、どこまで自分を切り捨てるものかと問われれば──ほぼすべて、今の俺で捧げられるものならばなんでも捧ぐ覚悟だ。
「だけどこの想い、俺にしては妙に篤いものなんだよな。{感情}のせいか?」
《……メルス様、最近それを原因だと仮定することが多くありませんか?》
「そうなんだよなー。もう、全てを妖怪のせいにしている子供みたいだろ?」
その可能性が高いというだけで疑うのも、ちょっとあれだが思ってしまうのだ。
というか、フラグっぽいのを乱立させておいて関係ないということもないだろう。
「──えっと、最初は何を話そうとして脱線したんだっけ?」
《プレイヤーたちの攻略状況からなる、行動範囲の限界でしたね》
「ああ! そうそう、そんな話をしていて赤色の世界の話で脱線したんだ」
脱線した内容もどれも良かったので、無駄な時間になったわけではない。
それより蘇生についても工夫を凝らす必要がある、と再確認できたいい時間だ。
「それじゃあ教えてくれ、プレイヤーたちはどこまで届いているのか」
ま、行くかどうかは訊いてから考えるんだけどな。
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