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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者とセット称号
しおりを挟む夢現空間 居間
「今回は、称号について調べておこう」
「称号……ですか」
「気付いてなかったけど、(アップデート)したときに機能があったからな」
名刺のような機能であった。
自分がこれまでに獲得した称号から一つを選び、開示した情報と共に掲載できる。
職業やレベル、スキルなども載せられるので、野良でパーティーを組むならば非常に便利だろう。
ちなみにこれ、二つ名もそれとは別で載せられるらしいが……自意識過剰な奴以外、使う者はいるのだろうか。
「クラーレと話をしている間に思いだしたんだが……称号の効果が不明だったヤツが、たしかいくつかあったよな」
「そうですね、ありますよ」
「今なら鑑定眼もあるんだし、調べられると思うんだが……どうだ?」
「はい、そんなこともあろうかと──予め、こちらの方で視てあります」
驚くことはない、予想はしていたから。
解析班は調べることを得意とする。
なのに不明な情報なんてもの、暴かないはずがないのだ。
まあ本来ならここで話が終わってしまい、称号の内容を訊くことになるんだが……。
アンの顔が珍しく悔しそうなので、話はまだ続きそうだ。
「視てはあるが――」
「極一部ですが、格が足りませんでした。ほとんどのものは看破できました」
「できてりゃ満足さ。だがそうなると、相手は運営神……なのか?」
面倒事の大半は、神様が絡んでいるというのがこの世界の法則な気がする。
「リオン様に問い合わせたところ、称号のシステムに運営神は関わっていないそうです」
「公平さを求めた結果なのかな?」
さまざまな概念の神がいるのならば、そうした平等さを重んじる神がもともとはいたのかもしれない。
あくまで運営神とは簒奪神。
称号のシステムがその前から存在していたならば……修正できなかったのだろう。
そもそも、プレイヤーのアバターをわざわざ自分たちが干渉できるように作ったことにも、そうした点が関係しているのかな。
「となると、また大神か? この線はあんまり高くないと思うが」
「マーキング、の一種だと思われます」
「善悪問わず、目立つ奴には称号が付くからな。なら、一部だけが不明なのは?」
「システムに関わらずとも、隠蔽工作程度ならば行えます。気づかれると厄介な称号に関しては、内容をすべて消したのでしょう」
例えるなら、印刷されたプリントの文字自体は変えようがないから、代わりに筆を用いて塗り潰したということか。
──しかも、筆は筆でも墨筆で。
「ちなみにだが、復元させる必要性は感じられるか?」
「どうでしょう。これに関しては、メルス様次第ですので」
「俺はどうでもいいと思うな。考えても、過去がどうだろうと変えられないんだし。これからをどうするかだろ? ……復讐以外」
「そうですか。では、そのように以降のプロジェクトの進行も変更しましょう」
「ああ、なんのことだかさっぱり分からないが……頼む」
復讐は、通さなきゃいけない仁義的なものが存在する、ある意味で神聖な行為だ。
それは協力するのであって、止めてはならないことだ。
本人の中で区切りがつかない限り、決して過去の亡霊はソイツを逃がさないからな。
復讐は何も生まない? いやいや、結果を生んでいるじゃないか。
◆ □ ◆ □ ◆
スロート
「──調べられない称号ですか? いえ、わたしのはすべて確認できますけど」
「そっかー、残念」
「シガンたちにも訊いてきましょうか? 何やら気になっているみたいですし」
「うん、できるならお願いしたいな」
クラーレのような一般プレイヤーの場合、そもそも獲得した称号の数が少ないらしい。
俺はもう数えるのがうんざりする程獲得しているが、普通は十から五十辺りでうろうろとするらしい。
結構幅が広いが、これは全プレイヤーを対象にした調査結果を聞いたからだ。
初心者でも、ある程度こっちにいるだけで最低限獲得するらしい。
「シガンたちに確認してみましたが、やっぱりいないみたいです」
「うーん……そうなると、ユウたちかな? 私が訊ける中で残っているのは」
「? そういえばメルは、どんな称号をセットしているんですか? やはり、『初めて』シリーズや『最速』シリーズのどれかなんですか?」
「ん、称号?」
いつも『挑む者の指輪』は装備しているから設定は可能だが……どれにしよう。
やはり入れるならハーレム系の称号がいいのか? いや、ほとんど一人に一つの称号だし、誰か一人にしたら推しメンみたいなセットの仕方になっちゃうのか。
ならば、無難なものを選ぶ必要がある。
特に目立たず、波風も立たない誰からもスルーされる称号と言えば──。
「これかな?」
「──『無職』、ですか。前に話していたのも、本当だったんですね」
「今はますたーに仕えるってお役目に就いているけど、実際それ以外は特に何もしていないのが実情だからねー」
「無職のプレイヤーは、後から調べましたがほとんどいないレア中のレアでしたよ」
「え゛、いないの?」
結局この後、俺は『指導者』を称号としてセットしておくことになる。
初期にリーンの者たちを相手に、無茶をさせた甲斐があったよ。
──そして帰宅後、定期的にハーレム称号に付け替えることを誓わされる、という事態へ陥るのであった。
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