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偽善者と閉じた世界 十二月目
偽善者とハルム平野
しおりを挟むハルム平野
スロートから西に位置する平野だ。
広大な土地には穏やかな草食動物……とは異なり、見た目は草食動物のクセに獰猛な性質を有する魔物たちが徘徊している。
今日はメルモードで、クラーレたちの依頼であるグラスカウという牛の討伐を見届けることになった。
先日、賢者と闘ったのにはわけがある。
……というわけもなく、ただ単に自分がそれでやっていけるかを見てもらいたかったというのが主な理由だ。
今の俺は魔法縛り、つまり武術を一切使ってはいけない状況に自ら陥った。
理由など特にない、召喚魔法の次は普通の魔法だけでやってみようと思っただけだ。
閑話休題
頑張る『月の乙女』を遠目で眺め、ボーっと会話をする俺。
対してクラーレはピンチな際は補助を行う必要があるため、真剣な眼差しで状況を把握しながら会話を行う。
思考の並列化と瞬時の切り替えは正体を明かす前からやらせていたので、今ではスキルがなくとも可能になっている。
……すっかり忘れていたが、スキルにはメインスキルとサブスキルがあるんだよな。
「それで……何か変化はあったの?」
「ユウさんのお蔭で、手に入れたスキルを使いこなせるようになりました。……後からノコノコと出てきた人とは大違いですよね」
「ユウは威圧系のスキル持ってなかったし、たぶん私のスキルを共有してやってたんだろうね。やれやれ、何はともあれこれで一々結界を張る必要はなくなったよ」
「……そうですね」
ユウにはあとで、ご褒美をあげないと。
そうだな……金平糖でいいかな?
この世界独自の甘味の原料は見つかったらしいが、まだザラメ糖を見つけたって話は耳にしてないし。
「あ、そうそう。今の私は魔法モード……ここら一帯の魔物を、瞬時に殲滅することもできるよ。やってみる?」
「あの悪魔を相手に倒したときみたいに、ですか? 目をつけられますよ」
「困ったらますたーの使い魔ってことにするし、大丈夫なんじゃない?」
「それ、わたしが嫌ですから」
そう言いながら、回復魔法を発動して仲間たちを回復させる。
まあ、要は擦り付けだしな。
俺もそれをされる側だったら、全力で拒んでいると思うよ。
「隠して使うこともできるけど……。うん、別にやらなくてもいいか」
「魔法が使えるんですよね? どんな魔法があるんですか?」
「種類かー、ちょっと待ってね」
細かいのを知りたいというより、俺ができる大まかなことを知りたいのだろう。
──全部公開する必要はないし、基本的なものだけ示せばいいか。
両方の掌をパッと開いてみせ、その指先を使って魔法を見せていく。
「まずは火」
「はい」
人差し指に火が灯る。
「それから水に風に土、光、闇」
「メルなら、普通ですね」
片手の指先すべてに、魔法になる直前で溜められた属性たちが蠢いく。
「それに回復と無、おまけに氷と雷、木と竜と血と……」
「そろそろおかしくなってきました」
「──精霊と天使と悪魔。あとは歌とか付与とか普通のだね」
途中から指の本数が足りなくなったが、宙に浮かせて誤魔化す……多すぎたみたいだ。
一部を除き、ほとんどが第一段階の──始めからスキルリストに載っている魔法だけを紹介しておいた。
固有魔法や眷属たちを介して手に入れた魔法も教えていない。
あくまで俺の手に入れたスキル、SPを消費して習得したスキルだけを説明した。
「だから前に言ったんだよ、私はなんでもできるんだって」
「それ、習得にどれくらいSPを消費したんですか?」
「よく覚えてないなー。称号でSPが多めに貰えてたけど、それまでは進化するまでは闇属性の適性が低くて大変だった、ってことぐらいは覚えてるんだけど……」
「SP追加の称号? なんですか、やっぱりチートなんですか」
あの頃はそう思っていなかったが、よくよく考えればそうだったのか。
いろいろあったからなー、最初は。
「第一陣だからね、『初めての○○』って称号が貰いやすかったの」
「たしかに、そういった称号には特別な効果が多かったらしいですね。メル、どういったものを持っているんですか?」
「そうだね……エリア解放者に固有スキル習得者。ダンジョン発見、入場、攻略者。あとは隠しボス討伐者とかレアボス討伐者なんかがあるよ」
他にもいろいろとあるが、とりあえずはこのぐらいにしておく。
人に知らせられる範囲だと、これぐらいしかないからな。
「また異常な……『初めて』シリーズは今や新しいものを見つけるのは困難と言われる程に貴重な称号。なのにメルは、それを大量に持っている。どうせ魔法も含めて他にもいっぱりあるんですし……羨ましいです」
「アハハハ、たまたまだよ」
バレてたな、隠してたこと。
クラーレもそれを詮索する気はないみたいだし、俺も流れに乗っておくことにしよう。
「それだけ『初めて』シリーズを持っているということは……『最速』シリーズも持っていそうですね」
「さ、『最速』シリーズ?」
「どちらも称号の効果がレアなので、先程も言いましたがまだ探している人がいる程貴重なんです。……持ってますよね? 『最速』シリーズも」
「す、少し」
この後、追及されることはなく話題が切り替わったため事なきを得た。
称号か……ハーレムの称号以外、特に思い入れが薄いからな。
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