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偽善者と閉じた世界 十二月目

偽善者と放浪の賢者

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 夢現空間 修練場


「魔導解放──“再生せし闘争の追憶”」


 過去の幻影を呼び起こす魔導。
 俺はこれを使い、修業を行っている。

 今日もまたそれを発動し、目の前で現れるであろう存在を待つ。


『────』

「うーん、まだ駄目みたいだな。……というよりも、これが仕様なのか? 俺との縁が薄いから、それも理由かもしれないな」


 今回求めたのは、賢者。
 魔導を操り、神羅万象を薙ぎ払えるような優れた魔を統べし存在。

 幻影を召喚するため、本人の最盛期の身で呼ばれる。

 賢者と言えば白髪の老人のイメージが色濃いが、実際に現れたのは超絶イケメンな銀髪の男だ……チッ。

 灰色の質素な外套に、これまた地味めな長杖を握っている──ように見せていた。

 実際にはどちらの装備も魔具にしては異常な程、中に魔力を内包するアイテム。
 隠す必要があるのか、封印の術式で一部が抑え込まれていた。


「では、よろしくお願いします」

『“────”』

 無詠唱で発動した魔法により、閃光が一瞬煌き──そして爆ぜる。

 轟音が鳴り響き、俺の居た場所を中心に辺り一帯が煙に包まれていく。

『“────”』

 煙が渦巻き、螺旋のように風が吹く。

 生みだされた竜巻は、外部からの侵入と内部からの脱出を防ぐ風の刃を飛ばしていく。

(“竜巻サイクロン”)

 逆方向に回転する竜巻を生みだし、それを相殺する。

 風は一瞬で晴れ、煙も同時に散る。

『“────────”』

 大地が隆起し、巨大な辰の首がいっせいに襲いかかってくる。

 数は数十にも及び、術式も別々。
 一つを破壊すればすべてが消える、などというご都合な展開は訪れない。

(──“棘縛りソーンバインド・多重/広範”)

 大量の草が地中から生まれ、全ての辰に絡みついていく。

 本来ならば数本しか生成されないその草、しかし<多重魔法>と<広範魔法>によってすべてへ届く程に強化されている。

 対象の魔力を吸収し、その長さと強度を高めていった。

 草はいつしか辰の動きを完全に止め、術式の核となる部分まで到達する。

(“魔法破壊マジックブレイク”)

 草を通じてそれを唱え、核の部分に直接流し込む。

 ボロボロと崩れていく土の辰、縛る対象が無くなった草は、代わりに賢者の元へ向かっていく。

『“────”』

 爆炎が草を燃やし、一掃していく。

 一部は逆に炎の魔力を吸収してさらに伸びていたが、燃え盛る勢いに抗うこともできずに灰と化す。

『“────”、“────”』

 急激に周囲の気温が低下し、辺り一帯が凍り始める。

 吹雪が踊り、雪が降り積もる。
 ……そして、賢者が杖を初めて振るう。

■■■■まどうかいほう──“────────”』

 こんな状態でも、魔導解放というキーワードだけは言う必要があるみたいだ。

 吹雪が荒れ狂い、一つの形を成していく。

 雪豹。
 雪のように綺麗な毛皮をしたその獣は、そう呼ぶのが正しいだろう。

 GURRRRR

 まるで生きているかのように、雪豹は俺に向けて唸り声を上げる。

 爪や牙は鋭く尖り、長い尾がバシンバシンと地面を叩いていた。

(──“火槍ファイアーランス”×20)

 火の槍を二十本生みだし、雪豹に向けて一度に放つ。

 普通の雪ならば、これで溶けて戦闘は終了なのだが……当然、そう上手くはいかない。

 GUUUUUU

 一度は雪豹の体を貫く、それでもどこからともなく雪が集まって再生してしまう。

 命中した火の槍は何本もあるが、一つとして討伐には至らない。

『“────”』

 賢者は雪をどんどん降らせ、雪豹がころされない環境を整えていく。

 どうせ俺が雪を晴らそうと、結局鼬ごっこになるのは分かっているのでそのままで。

 ──それさいせいよりも早く、燃やし尽くせば済む話だからな。

(──“滅葬の紫焔パープルブレイズ”)

 紫色の焔が空間を包み込む。
 雪も獣も魔法だろうと関係ない。

 禁忌の紫焔シエンは、万物を燃やし尽くす。


「……白炎の方がカッコいいけど、紫の方が燃やすには適してるからなー」


 たしか……虹と同じ順番だそうだ。
 白色は黄色の近くに当てはまり、七色の赤から順にエネルギーが強くなっていく。

 人間が知覚できる色の中で、最も高エネルギーなのが紫色。
 以降は紫外線やX線など、知覚できないものなので、紫で止まったのだろう。

 雪豹が居た場所は、地面が抉れてガラス状に変質している。
 地面が熔け、土に含まれる鉱石などが熔けたからだ。


「そんな高温なのに生きているって、さすが賢者様は賢者様っす」


 賢者は、ボロボロの布切れを纏った状態で立っていた。

 風魔法を痕跡が残っているので、恐らく自身の周りを真空状態にでもして防ごうとしたのだろう。

 だがそれでも魔法まで燃やす焔に耐えられず、外套が持つなんらかの効果を駆使してギリギリ生き残った……こんな感じか。


「もうお仕舞いです、賢者様。私を認め、この魔本の中に入ってください」

『“────”』


 黒の魔本を開くのだが、賢者は諦めず俺に魔法を放ってくる。
 ……まあ、勇士もだいぶ粘ったしな。


「もう少し付き合います。ですから、認めてくださったら大人しく、魔本の中に入ってくださいね! (──“混沌球カオスボール”)」


 さまざまな属性がごった煮のように詰め込まれた球を賢者へ打ち出す。

 心なしか賢者が少し、楽しそうな顔をしてそれを防ぐ。
 ……自分の知らない魔法、未知ってのは興奮するものなのか。

 最終的に俺が縛りのギリギリまで魔法を使い、とうとう賢者は魔本に封じ込まれた。
 新たに魔方陣が刻まれたページ、そこにはこう記されている。

 ──放浪の賢者『レンキスタ』と。

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