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偽善者とキャンペーン 十一月目

偽善者と再訓練

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 夢現空間 修練場


 結局、転移門は開こうとしても開けることができなかった。

 解放に必要な人材のデータが足りず、偽装に失敗したからだ。

 紀行の際に会った少女──ナーラが聖女候補であったため、聖女に関する封印術式だけは外せた。

 だが、それ以上は何もできず。
 AFOの勇者や魔王に関するデータは使いものにならなかった。


「そろそろキャンペーンも終了の時期になるのかー。飽きてきたし」


 掌で七色の球体を弄び、遠くで行われる激しい戦いを観察する。

 互いに武を競い合い、教え合うことで着々と強くなっていく。
 そのうち徒党を組まずとも、俺をフルボッコにできるようになるだろう。


「そう考えると、もう少し力を蓄えた方が良いと思えてくるよな」


 俺の体自体は万能タイプだが、俺という人間自体はそうではない。

 基本【怠惰】なので、そういった意味では召喚士が向いている……殴りサモナーさんはちょっと難しいけど。

 暇なので両手を前に突き出し、二つのスキルを発動する。


「(聖龍炎)、(聖龍雷)……凄いな」


 ブリッドと契約後、それまでの戦闘記録を洗っているとこの二つを手に入れた。

 (聖龍炎)は前方に聖属性の炎を吹きかけるスキルで、(聖龍雷)は指定した場所一帯に聖属性の雷を降り注ぐスキルだ。
 魔法でも再現可能だが、スキルとして手に入れた方が改造のし甲斐がある。

 すでにこの二つは統合され、(聖龍雷炎)として扱うこともできる。

 ……こういう統合を迷うことなくできるのも、すべて:開放:先生のお蔭でございます。


「しかし、どうして聖炎龍なのに雷属性だったんだろうか。過去の奴の話だが、微妙に気になるな。これもいつか調べるか」


 赤色の世界のどこかに、聖炎龍に関する資料が存在するだろう。

 それを読み漁れば、どの代の聖炎龍が雷を扱っていたかも分かるかもしれない。
 絶対に知りたいわけでもないし、能力自体はブリッドも使えるしな。


「けど、合成していくたびに名前が増えていくのかな……。(聖龍雷炎月火水木金土日)とか……って、ただの曜日だった」


 最初に会ったのが、聖月龍とかじゃなくて良かった気がする。

 技の別名が聖なる龍の一週間とか、そんなネーミングセンスの欠片もないようなものに変化するところだったよ。



 ところ変わって状況は戦闘風景の観察。
 眷属たちの動きを視て、その情報をできるだけ体にフィードバックしていく。

 良いと思った動きは、(反射眼)による自動防衛として動きを刷り込む。

 武器ごとにそれを設定し、頭の中で襲撃された際のシミュレーションからそれが上手くいくかを念入りに確認する。

 頭脳をフル回転させ、収集したデータから読み込んだ対戦者と仮想模擬戦闘を行わせていく。

 ……有象無象のプレイヤーや、最近闘った大悪魔ぐらいならば対応できているが、眷属相手になると失敗することが多いな。

 一部の奴には通用するんだが、そういう奴にも二度目からは通用していない。
 またそれが何故失敗したか、どうして対応されたかを調べ、再び自己に反映させる。


「…………まあ、これぐらいか」


 ちなみにだが、先ほどまで行っていたのはいわゆる「残像だ」である。
 気と魔力で作った分身を用意し、相手がそれに攻撃をしている間にそのセリフを言ってから倒す。

 シミュレーションの際は、一々セリフを言うからバレていた気もするが、それを言ってはお約束ではなくなってしまうので、どうにか貫いていきたい。


「さて次は……っと、どうした? フーラもフーリも」

「あ、あの! 模擬戦をしていただけませんか?」
「……勝負」

「まあ、暇だから構わないが……全力全開の状態で挑めばいいのか?」

「そ、それは……ちょっと、またの機会にお願いします」
「……絶対無理」


 今のフーラとフーリが力を合わせれば、封印を解除した俺が相手でも、少しはイケると思うんだけどな。

 実際、さっきまで生物最強のソウと闘えていたし……どうにかなるだろ。


「それじゃあ縛りはどうする? 攻撃禁止っていうなら、カウンターだけにするけど」

「今は何で縛っているんですか?」

「召喚系だな、戦いに応じて召喚する種類も縛ってる」

「……なら、それで」

「オッケー、了解した」


 黒と白の魔本を同時に展開し、構える。


「眷属が相手なら、俺も召喚士として全力で行かせてもらう。二人の【英雄】と全眷属、はたしてどっちが強いかな?」

「ふ、フーリ、もうこれって……」
「……鬼畜」

「さぁ、始めようか!」


 独りで盛り上がり、まずは黒の魔本から召喚獣を呼び出す。

 現れるのは、王や帝を冠する魔物たち。
 ノーライフキングやカイザークロウ、エンペラーオークなどがいっせいにフーラとフーリの元へ、それぞれの方法で攻撃を行う。

 しかし、全てが姉妹の振るう双槍と双銃によって阻まれる。

 二人のメインウェポンは定まり、どちらも二本の武器を扱う戦闘スタイルに収まった。

 双槍──剣&槍と双銃──剣&銃。

 どちらの戦い方でも一定水準を超えた二人は、召喚獣たちを高速で倒していった。


「ならば、こちらも全力でいかせてもらおうか──痛っ」

「……大人げないわね。見ていたけど、それはさすがに看過できないわ」

「なぜだ……俺はただ、頼れる眷属を召喚しようと──」

「ありがとう。けど、それとこれとは話が別よ。お仕置きが必要かしら」


 開かれた白い魔本には、『ティル』と記されている。
 だが魔方陣を起動する前にティルはこの場に現れ、俺の頭を剣の側面で叩いた。


「え゛? ちょ、ちょっと今は決闘中だからさ……ほ、ほら! あっちで召喚獣たちもスタンバって──」

「……これで、もう終わりよ」

「は、はい」


 このあと俺はお説教を受け、フーラとフーリの勝利という形で終了となる。


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