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偽善者とキャンペーン 十一月目
偽善者と聖炎龍 後篇
しおりを挟む「すでに暴れていて、お前に拘束されているのが現状だ。ダンジョンの意思が私の中に融合し、暴走しているのが現在だ」
「取り込んだものに、取り込まれてるのか」
「馬鹿な話だ。なぜそんなことをしたのか、まったく思い出せない。だが実際にその事実は、今も現実で待っている」
外側に残した意識で確認して視ると……たしかに、拘束されても暴れているな。
こっちの聖炎龍がこうして穏やかなのに、もう一つの意思とやらが防衛を果たそうとしているからだろう。
そして、相反する意思とやらはぶつかり合い、どちらかを吸収しようとする。
この場合……諦念の意思と暴虐の意思、どちらが勝つかなど明白だ。
「そして、私の意識もいずれ薄れる。いつかはダンジョンを守る主とでもなっているのだろう。転移門を守護する役目は捨てていないのだから、それも構わない」
「……本当に、後悔してないのか」
「後悔、か。これまでのやり取りでそんなものも無くなっただろう。溜まりに溜まったものを他者にぶつけ、新しい見解を知った……それで充分だ」
いや、そんなストレス解消法について、話してたわけじゃないんだから……。
それでも聖炎龍の中で何かが吹っ切れ、割り切れてしまったのだろう。
マジで諦めてそうだな。
「なら、俺に後悔がある。召喚獣にしようとしていた奴が、勝手に死のうとしている」
「……それは悪かったな。だが、外にいる聖炎龍も生きてはいる。それを使えば、お前の言う通りに動く忠実な召喚獣になると思う」
「違う違う。俺が欲しいのはお前であって、意思を持たない人形なんかじゃない。俺の召喚獣には、お前という聖炎龍が必要なんだ」
……一々命令しないと動かない召喚獣なんて、面倒臭いでござる。
それなら多少敵意を持っていても、勝手に動いてくれる方が楽だ。
だから大悪魔なんてのは、まさに求めていた人材だな。
謀反を起こそうと裏で動くが、とりあえず召喚された際には自由意思で眼前の敵と戦ってくれるし。
だから俺は、この聖炎龍が欲しい。
俺に話しかけ、話し合ってくれる個体を。
あんな咆哮しか上げないようなガラクタはスクラップにした方が早い。
……まあ、意思を上書きすればどうとでもなるけど。
「どうすればお前を救える。どうしたら俺はお前を召喚獣にできる。教えろ聖炎龍、俺にできることならなんだってやる!」
「……なんでも、か。存外私も高く買ってもらえていたのだな」
「当たり前だ。俺が素の口調で話す相手は、だいたいが優れているから誇れ」
強者や特殊な才能の持ち主など、俺のくそ雑な演技を見破るのが大前提だからな。
「ハハッ。いったい何を誇ればいいのやら」
「……教えてくれ、どうすればいいんだ」
聖炎龍は笑いながら、その可能性のある方法を教えてくれた。
本当に成功するか分からないが、力を失うかもしれないが、それでも俺の望む未来に手が届くチャンスがあると。
「だがそれをすれば、お前は――」
「もともと好んでいたわけではない。むしろこれは、辞めるチャンスなんだ。私はそれを望んでいて、お前は私の望むことをやる……ただそれだけだ」
「……分かった」
黒い魔本を取り出し、白紙のページをパラパラと捲って開く。
すると聖炎龍は粒子と化して、そのページの中へ吸い込まれていく。
……ここまではいつも通り、そしてここからが本題だ。
「名称:聖炎龍を変更――『ブリッド』」
その言葉を口にした途端、体の中から一気に魔力と聖氣、それに神気が引き抜かれる。
名付けをしたのが神で、聖なる力を帯びていたからこうなったのだろう。
このタイミングで名付けをしたのには、意味がある。
神がこれまでに『聖炎龍』という存在に与えてきた指名、それから今の聖炎龍を解放するためだ。
──使命を与えられたのは『聖炎龍』であり、聖なる炎を纏ったドラゴンではない。
名を継いだが故に使命を背負ったが、本来はその使命は初代だけのものであった。
だから俺が新たな名を上書きし、今の聖炎龍を役職から解放した。
リスクとして、聖炎龍としての能力全てを失うというのもあるが、本人(龍)が構わないと言ったからには全力でそれに挑む。
――そして、上書きには成功した。
残存魔力は戦闘もあってか残り四割。
縛りプレーの最中なので、『怠惰の布団』による超速回復は使用不可能。
「もう少しだ、もう少しで完成する」
あくまで精神だけでの契約だけだったからか、まだ召喚陣が完成していない。
完成させるには、外に出て暴れ狂う聖炎龍の肉体を止めなければならない。
「クー、そっちの状況はどうなってる!」
《メルス自身が縛りに入れないから、あんまり縛れてないよ。星辰体を縛っているけど、そっちの話を聞いてから肉体の方だけに変更したぐらい?》
魂を拘束すれば、だいたいの生物は動きを止める。
だが、外で暴れているのはダンジョンの意思に従うだけの空っぽな人形。
そこに魂など宿っていない。
「どうすれば良いと思う」
《これが相手だとクーのスキルも使えないから、直接的な協力は無理。とりあえずこっちに戻ってきて、補助ぐらいできるから》
「分かった、すぐ戻る」
すぐに“精神侵入”を解除し、帰還する。
さて、どうするべきなんだか。
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